20XX年 第五話

 「そろそろ港に到着よ」

 真里菜はカーナビ画面から目を逸らし、窓枠に前足を掛けて外の景色を見た。かなりの寄り道をした為、目的地への到着は夕日が消えかける頃になっていた。臨海公園からその前の道には、街路灯が点いている。

 「ここにも公園があるんだね」

 同じように見遣ったクローン兎兎が、懐かしそうに言った。真里菜はこの言葉で、悪夢を思い出したかのように、げっそりとした顔付きになった。

 「兎兎としょっちゅう遊びに行く公園で、体が入れ替わっていたんだ」

 「もしかして、その公園名は白壁公園?」

 ユウが瞬時に反応して尋ねた。

 「うん。そうだよ」

 答えて振り返った真里菜が小首を傾げる。

 「なんで知っているん?」

 「俺が入る予定だったマガモの死骸がある場所は、白壁公園だったからだ」

 「そうだったんだ。だったら……」

 推理する真里菜の考えを、代弁するようにユウが口にした。

 「このことは、体の入れ替わりに関連がある」

 頷いた真里菜の頭上から、思い出したというようなクローン兎兎の声が聞こえてきた。

 「そういえば、目覚めて体を起こした時、マガモの死骸を見たよ」

 「マガモの死骸に覆い被さっていたのか?」

 ユウの問い掛けに、クローン兎兎は暫しその時の状況を思い出した。

 「うん。そうだったよ」

 クローン兎兎の返事に、ユウはぴんと来た。

 「美咲がマガモの死骸に覆い被さったから、誤って美咲の死骸に入ることになったんだ」

 「だったら、ユウが美咲さんの体に入っていたはずよ。それなのに、なんでユウは私の体に入っているん? それに、なぜ兎兎が美咲さんの体に入っているん? 私は兎兎の体に入っているし……」

 真里菜の疑問に、確かにその通りだとユウは思った。

 「ヒトはヒトの死骸に入れないから、こんなややこしいことになったのかも……」

 呟くユウの耳に、真里菜のはっとした声が響いた。

 「美咲さんの死骸? さっき死骸って言ったよね?」

 「ああ。言った」

 ユウはあっさりと答えた。

 「どうして亡くなったと分るん?」

 真里菜がユウを睨み付けた。

 「ポリスの……」

 ポリスの勘だとユウが言おうとして、クローン兎兎が割って入った。

 「僕が入っている美咲さんは亡くなっているよ。入っている僕だから分るんだ」

 真里菜を気遣うように、クローン兎兎は優しく言った。ユウは思い遣りに欠ける言い方だったと省みた。

 「美咲さんが亡くなっているなんて……そんな……」

 真里菜は悲鳴に似た声を上げ、がっくりと肩を落として項垂れた。ユウは黙り込み、クローン兎兎は真里菜を優しく撫でた。

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