第五話◇主様、おはようございます
蒸気機関の開発。このあたり物理法則が変わらないのであれば、どの文明でも早い遅いの違いはあっても辿り着くのは同じ、ということでしょうか。
火を起こして湯を沸かすのはどの文明でもやってることですしね。
私達が誘導しなくても勝手に戦争は起こり、その度に様々な技術が発達します。
医療も戦争でケガ人が多くでるから進歩します。金属加工技術も戦争のために進歩します。
いざ戦争となってもどちらかが滅ぶまで戦う、ということはありません。
たまに熱い宗教的情熱を燃やす熱心な国が、利益と被害を無視してやらかしたりしますが。
こういうときは、負けた方が全滅しないように僻地に逃がしたりします。
こうすることで簡単に世界統一なんてさせません。世界統一政府などできたらそこで人の発展が止まりますからね。
そして負けた方がやがて再生、復活し、祖先からの恨みで睨みあったり再戦したりします。
戦争の中には様々なものがあります。
希望、絶望、悲劇、喜劇、悲惨、諦念、復讐、怨念、エトセトラエトセトラ。
これらを苗床に戦争の後には文化が発展していきます。
戦争直後には戦争のために発展した技術が他に転用されて、技術革新がおきたりします。あと戦争からの反動で物語がいろいろできます。
第3文明でも第二次世界大戦に参加した兵隊が、後に島国でマンガという表現媒体を格段に進歩させたことがありますね。
なので戦争の火種は消えないように残しておきます。
命がけの状況、そこで生き残った人の思いと力は、ときに私も感心する程です。
なかなかやりますね、人間も。
印刷技術が進み本が普及するようになると、私達は忙しくなります。本を入手するために、入手が無理ならコピーして、ひたすら本の収集に励みます。
世界中の本を集めていきます。図鑑に辞書、宗教書、経典、聖書、医学書、歴史書、民話と、のべつまくなし手当たりしだい。
そしてスカスカだった第6文明用の図書館の棚を埋めていきます。
印刷技術が更に進化して新聞などができる頃には、本は次々に新しいのができてきます。
流石に世界中の新聞を集めたりはしませんけどね。
そしてついに第6文明図書館のワンフロアが埋まる日が来ました。拍手パチパチ。
ワンフロアしか埋まって無くて他のフロアはスカスカですけど。
ついに赤いラインまで本が埋まったのです。
この赤いラインは主様が、『ここまで本が集まったら起こしてね』と仰せになったお目覚め許可ラインなのです。
私=私達はお互いに抱き合い涙を溢して喜び、ここまでの健闘を讃え合います。
頑張りましたね分体、おめでとうございますリーダー、やったね私=私達。きゃいきゃい。
早速、封印解除の手筈を整えて私=私達は館へと向かいます。
時間変動を調整して外の時間と中の時間の流れのズレを修正します。自転する12層の封印がその動きをゆっくりと止めていきます。
ミスなどあるはずがありませんが、ここでしくじると私=私達は時空間の捻れに巻き込まれるか、時空の狭間に落ちてしまいます。
なのでここは最後まで慎重に。
「時間率変動値、誤差ありません。同期しました」
分体の報告に頷いて館の扉を開けます。
逸る心を抑えて館の中へ、その中心へと。
組み木細工のように積み上げた銀石の板、主様の眠る時しきの寝台を守るための、ちょっと歪んだ幾何学的立体図形。
私達は協力してパズルを解くように銀石の板を解除していきます。
1枚ずつ丁寧に、中の主様を驚かさないように。
全ての銀石の板を外すと中から青い霊薬に包まれた主様が現れます。
青い霊薬に包まれその裸身に印を描いた主様の、神々しき御体が浮かんでいます。
「あぁ、主様」
久し振りに御会いする主様のお姿に、歓喜の涙が溢れます。私=私達はこの時をお待ちしておりました。
バスタオルを手に主様に近づきます。主様の御体を包む青い霊薬に触れて状態解除。青い液体は繭の形を失い、とろりと溶けて足元に落ちていきます。
フワリと降りてくる主様の御体を抱き締めます。主様がその瞼を開きました。
「う、ん。おはよう」
「「おはようございます! 主様!」」
「私は、どのくらい寝ていた?」
「だいたい3万年ほどになります」
3万年振りに主様の声を聞いた喜びに身体が震えます。
主様、また会えて嬉しいです。
主様の御体に残る青い霊薬を拭き取り、用意した白いバスローブを着ていただきます。
主様の御体にはまだ術式の紋様が描かれたまま。
「新しい邸にお風呂の用意ができております」
「その前に、新しい本はどう?」
分体が手に持った本を主様に見えるように開きます。その分体が説明します。
「こちらにあるのは第6文明の絵本になります。子供向けの文字の読み方のためのものです。そしてこちらは世界各国の辞書、これは各国の国語の教科書になります」
主様が目をキラキラさせます。
「これはこれは、丸っこくて可愛い文字だ。これまでのものと一味違うね。うん、新しい文字の解読に新しい言語の学習、ワクワクしてきた」
「主様、その前にお風呂に入ってご飯にしましょう。慌てなくても本は逃げませんよ」
「そうだね。それとみんなよくやってくれた。ありがとう」
主様に褒められました。3万年の労苦が吹き飛ぶ素敵な笑顔です。
近くのいる私の頭を主様が撫でてくれます。
あぁ、この手の暖かさも久しぶり。
これから主様の眠ってる間の私=私達の仕事の結果を見ていただきます。その成果に自信はあります。
主様にそれを見てもらいましょう。
その前に主様のお風呂、お着替え、ご飯ですね。もちろん準備万端整えてこざいます。
今日から主様と一緒です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます