第二章 変わりゆく現実
第十四話 様子のおかしい学校。(不穏)
朝は何故来るのだろう。
ベッドの上で、俺は世界を呪う。
まぁ、単純にもうひと眠りしたいだけなんだけどね。
実家にいた時は母親が無理やりに起こしてくるものだから、二度寝をしようとあまり関係がなかった。
しかし一人暮らしが始まればそうも言っていられず、一度目を覚ましたのなら絶対に起きる。
そうでなければ遅刻しちゃうからだ。
のそのそとベッドから這い出て洗面所へと赴く。
鏡に映るのは寝癖で頭が爆発したブサメンだ。
朝からどうしてこんなブサイクの顔を見なければならないのか。
憂鬱な朝がさらに憂鬱になっていく。
寝癖を整え、目に見えるほどに濃くなっていたひげを剃る。
顔を洗って出来上がったのはちょっとだけ小綺麗になったブサメンだ。
この世に慈悲は無いのだろう。
欠伸を噛み殺しながらパンをオーブンに突っ込み、ジャムとバター、を準備。
焼き上がるまでの間に珈琲を淹れる。
そして仕上げに窓を開け、朝の空気を室内に取り込む。
朝は嫌いだが、朝の風景は嫌いではない。
朝露とか綺麗でめっちゃ好き。
風が吹き込み、揺れるカーテン。
焼き上がったトーストを皿にのせてテーブルに運ぶ。
テレビのスイッチを入れると、ニュースを見ながら朝食を開始した。
†
洗濯物を干してから部屋を出る。
時刻は八時十分。
駅まで五分、電車で八分、学校最寄り駅から三分。
遅刻ラインの八時三十分にはギリギリ間に合う計算だ。
駅に向かって、電車に飛び乗る。
同時に、車内の中をぐるっと見回す。
……居ない、か。
捜していたのは曽根川さん。
別に見つけても話しかけるような勇気は無いのだが。
なんかこう、昨日みたいなことがあったからもしかしたら向こうから話しかけてくれるかもしれないとか思っちゃうじゃんね。
ボッチだから人とのつながりが薄くって、数少ない出来事を必要以上に意識しているからだと俺は分析している。
ボッチ学という学問があったら博士号を狙えそうだ。
一人の時間が長いから、自分のことをたくさん分析しちゃうんだよね。悲しみ。
結局今日も今日とてボッチ登校だ。
学校へ向かう道も当然一人。
下校も常に一人——いや、昨日は主神と下校したんだっけか?
……あれ? 俺、美少女と下校したんだよな?
今になって思えば、とんでもないことしたんじゃないだろうか。
というか、俺と主神は所謂ところのお友達、というのになった訳で、つまり「おはよう」と言えば「おはよう」と返って来るということなのでは?
何だそれ、テンション上がってきたな。
今日は快晴。
俺の青春が幕を開けた予感がしたぜ。
胸に期待と下心を抱き、ルンルン気分で学校に到着し、下駄箱を開ける。
するとそこには一枚の紙が入っていた。
え!? こ、これはラブレ——ん?
まさかの事態にドキドキする前に、気付く。
紙には『果たし状』と書いてあったのだ。
まさか今どき喧嘩とか決闘とか、そういう昭和の不良漫画みたいなことがあるというのだろうか。
とにかく俺には関係ないな。入れ間違いだろう。
でも、誰宛ての『果たし状』か分からないしなぁ。
中を見るのも失礼だろうし……うん、落とし物箱にでも入れておこう。
『果たし状』を職員室前の落とし物箱へ入れてから、教室へと向かう。
するとどういうことだろうか。
廊下を歩いていると至る所から「佐藤」「佐藤」と聞こえて来る。
俺の方を向いて言っているわけでは無いから、俺以外の佐藤さんのことだろう。
伊達に日本で一番多い苗字ではないということか。
リ○ル鬼ごっこの時は一緒に逃げような。
そんなことを考えていると教室に到着。
昨日の巨乳センパイ改め、幾花センパイの如くガラガラッ! と開けてみたい気持ちはあるも、出来ないチキンハート。
ごくごく普通に教室に侵入した。
するとどうしたことか、皆様の視線を一身に頂戴する。
自意識過剰、ならいいのだが、明らかにみんなの視線は俺の方へ。
超絶恥ずかしいんだが、なに?
そんな疑問を抱いていると、一人の男子が近付いてくる。
彼は俺と唯一言葉を交わしたことがある男子生徒——来栖君だった。
同じ制服を着ているはずなのに、来栖君は今日もクールだ。見習いたい。
「なぁ佐藤。来て早々悪いんだが、あの噂って本当なのか?」
噂? どの噂?
「え、えっと、ななんのこ、こと?」
ななんのこって何だよ。
上ずっちゃったよ。いつものことだよ。
「あの、不良と、その……やり合ったって噂」
言葉を選びながら教えて頂いた内容は、先日幾花センパイとお話したことだ。
センパイが好んで漏らすような人とも思えないし、ともなれば誰かが盗み聞きでもしていたのだろうか。
まぁ、一応本当なので頷いておく。
「う、うん。(相手が)い、一方的で、(俺は)な、情けなかったけど」
刹那、教室を喧騒が包む。
ざわ…ざわ…と某漫画の如き擬音がピッタリだ。
何でそんなにざわつくの?
周りからの視線は鋭くなるばかり。
悲しいね。つーか辛いから逃げます。
「そ、それじゃあ予習があるから」
そんなものするつもりもないけれど。
一言断ってから俺は自席へと赴いた。
ふぅ、まったく朝っぱらから疲れちまったぜ。
人と話すのってめっちゃ疲れるんだよな。
一応予習、と言ってしまった都合、鞄から教科書類を出して——あ、そうだ。阿知賀さんに挨拶しないと。
いやぁ、朝っぱらからクールイケメンに声を掛けられて、クラスの注目を浴びて、その上美少女に『おはよう』を言う。
これって完全にリア充じゃんね。
脱ボッチしてんじゃんね。
よ、よーし、それじゃあ阿知賀さんに挨拶するぜ!
「あ、あち、阿知賀さん。おはよう」
きゃー! 言っちゃった。
おはよう、って言っちゃった。
しかも阿知賀さんは横目で俺を見たし、以前の曽根川さんの時とは違い、絶対に気付いてくれた。
さぁ! 返事をどうぞ!
「あ、うん……」
……あれ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
少し書き溜めが出来たので投稿していきます。
とりあえず一日一話。難しくなったら変更するかもしれません。
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