第十一話 ボッチ的青春の形。(平穏)
「これは、友達……と言っていいのだろうか」
俺はスマホに表示されている『主神』の文字を見ながら首を傾げた。
彼女は主神——つまりは俺の敬愛すべきライトノベル作家で、俺は信徒——ただの読者に過ぎない。
しかしながら、通常では出会うはずのなかった我々がこうして言葉を交わしたというのは、所謂——神の啓示を聞いた、ということなのではなかろうか。
釈迦然り、キリスト然り。
俺はそのレベルの人間と言うことか。
違うか? 違うな。
怒られる前にそろそろやめておこう。
何はともあれ、阿知賀さんとの仲は大きく縮まったと言える。
ルンルン気分でスマホを眺めていて——気付く。
普段はマナーモードにしているので気付かなかったが阿知賀さんからRINEにメッセージが届いていたのだ。
いっけね。
そっか、リア充になるとマナーモードなんてしてたらいけないのか。
年齢イコール彼女いない歴どころか、イコール友達いない歴だから知らなかったぜ。
マナーモードを解除して、っと。
——ピコン。
そこで阿知賀さんから通知が飛んで来た。
改めて俺は届いていたメッセージを見て——三十二件。
——?
あれ、多くない?
画面を開くと、ずらっとメッセージが並んでいた。
途中までは『今日はありがとう』『明日もよろしく』という旨が書いてあったのだが、そこからがおかしい。
――『あれ、まだ見てないの?』
——『おーい。』
——『佐藤君?』
——『ねーねー。』
——『無視してる?』。
いや、だからこえーよ阿知賀さん。
「『ごめん、気付かなかった。こっちこそ、よろしく』っと」
送信を送ると、二秒で返信が返って来て——ピコン、ピコン、ピコン、ピコン。
うわあああああ!
めっちゃ来るんだが!?
――『友達になれて嬉しいな。』
——『オタク隠してたから、寂しかったんだ。』
——『そう言えば最近はアニメ何見てるの?』
怖い怖い怖いって!
でも無視なんて出来るわけがない。
俺はボッチだから、無視して嫌われちゃう方が怖いのだ。
ブロックとか死んでもできない。
結果、彼女が『ごめんね、ご飯呼ばれちゃった』と言うまでずっとメッセージを送り返していた。
めっちゃ疲れたんだが?
時計を見る。
時刻は七時半。
……今日も外食だな。
しかしファミレスも飽きたなぁ。
そう言えば近くにコンビニがあったはずだ。
適当に買って食べるとしよう。
俺は財布を持って、部屋を後にした。
スマホはベッドに放置して——ピコン。ひぃっ!
†
夜風を浴びながらコンビニへと向かう。
駅前ではなくどちらかと言えば海よりに位置しており、潮の香りが鼻腔を擽る。
耳朶を打つ潮騒は心を落ち着け、阿知賀さんの恐怖も乗り越えられそうだ。
というか、よく考えれば昨日、この近くでリンチ未遂に遭ったんだよな。
幸い、周囲に不良共は見えない。
まぁ、連日海に来る奴も少ないか。
住宅地から離れたことで雑木林が見えて来て、その先には砂浜が広がっている。
が、目的地はそこではないので、その前に道を折れた。
雑木林の近くには児童公園があり、そこを抜けた先に道路を挟んでコンビニが存在した。
正直コンビニ以外の明かりが街灯ぐらいしかないので、薄気味悪さはあるが、しかし本日は満月だ。
空を見上げると、月光が降り注いでいた。
「綺麗だ」
最近風情を楽しむことに喜びを感じている。
桜然り、海然り、夕焼け然り、満月然り。
そう言えばあと半月もすれば梅雨か。
雨の音に耳を傾けてみるのも楽しいかもしれないな。
でも、そうなれば昼休み何処に行けばいいのだろう。
「……」
その時に考えたらいいか。
そうこうしている内に公園を抜けてコンビニに辿り着いた。
外から見ているだけでも暇そうだ。
こんな時間に買いに来る奴も少ないだろうしな。
入店すると、若い女の店員が居た。
「いらっしゃい……あれ、佐藤君だ」
というか、曽根川さんがそこには居た。
私服の上からコンビニのエプロンを付けて、可愛らしい笑みを浮かべていらっしゃる。
主神も可愛いけれど、やっぱり曽根川さんの方が個人的には好きだ。特に顔が。
ま、主神も主神で大好きなのだが。
ちょっとヤンデレチックなのもアドである。
怖いけどね。
「何? 晩御飯でも買いに来たの?」
「ま、まぁ」
「何買うの?」
「ま、まだ見てないから、何とも」
「そりゃそうか。あはは」
軽く笑って、彼女はレジカウンターから出て来る。
「それじゃあ、私のおすすめを紹介しようかなぁ!」
袖を捲ってやる気を示す曽根川さん。
「い、いいの?」
「うん。晩御飯はいつもここのコンビニ弁当だから、大体の味は分かるんだ」
「じゃあ、お、お願いしていいかな?」
「よっしゃあ! 任せとけぇー!」
そう言って意気揚々と弁当コーナーに赴く曽根川さん。
可愛い。天使かな?
「うーん、こっちか? いや、こっちも捨てがたい。何か好き嫌いとかある?」
あなたが好きです。
じゃなくて。
「す、好き嫌いは特にない、かな?」
「それじゃあー、こっちだ!」
選ばれたのはからあげ弁当でした。
とても無難である。
「じゃ、じゃあそれにしようかな」
「うんうん、そうすると良いよ」
そう言ってお弁当片手にレジへ赴く曽根川さん。
俺は緑茶のペットポトルを取ってから彼女の後を追った。
「このからあげがまた美味いのよ。これは国産の味だね。……あ、違った」
何この子。
ナチュラルボーンにキュートなんですけど。
ちょっとむすっとしたまま「温めますか?」と聞いて来るので「お願いします」と返答。
「そ、そう言えば、バイト先ってここだったんだね」
「え、今更? うん、そうだねー。夜だけのシフトだけど、基本的に人来ないから楽なんだ。暇だけど」
俺もバイトを探しているが、なるほど。
ここもありだな。いや、接客業の時点でなしか?
お客様の前でドモったり裏声になったら目も当てられないしな。
「ほい、温まったよー。お会計は——」
ぱぱっと会計を済ませると、曽根川さんはありがとーございましたー、とザ・コンビニ店員と言わんばかりの挨拶を行った。
おっさんがやればまじめに働けと思うが、美少女がやると最高だな。
もっと聞きたい。
お辞儀をした際、曽根川さんのショートヘアーが揺れる。
可愛い。可愛いよ曽根川さん。
「またのご来店をお待ちしております」
「う、うん。また買いに来るよ」
ぎこちないながらも笑顔で返し、俺は店を出た。
「天使だな。うん」
そう呟くと俺はコンビニの前の児童公園に赴く。
家まで帰るとせっかく暖めたお弁当が冷める可能性があったからだ。
それに、こんなに綺麗な満月なのだ。
風情愛好家としては、月光に照らされながらからあげ弁当を食べるのも悪くない。
ベンチが無かったので、半分地面に埋まったタイヤの遊具に腰掛ける。
弁当を開ける。
湯気が昇る。
からあげのいい香りが、食欲を刺激する。
割り箸を割って、からあげを一口。
俺は好きな物を最初に食べる派だ。
雑木林の先に見える、海を眺めながら、咀嚼。
ゆっくり味わってから飲み込み、空に浮かぶ満月を見上げた。
「うめぇ、なぁ」
今、すごく楽しい。
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