第九話 一風変わったラブレター。(平穏?)

 結論を言おう。


 失敗した失敗した失敗した。

 失敗した失敗した失敗した。


 俺は失敗した。

 そもそも美少女と一対一で楽しくお昼ご飯など出来るはずがなかったのだ。


 まず会話が弾まない。

 趣味も何も知らないのだから当然だ。


 そして、唯一の接点である弟さんとの出来事も、微妙に食い違っていて、盛り上がらない。


 センパイは「キミは変わった人だな」なんて言って、最後に「また一緒に食べよう」と口にして去っていった。

 どう考えても社交辞令じゃんね。絶望。


 はぁ、憂鬱なう。

 そんなこんなで昼休みが終わり、午後の眠たい授業を体育の女子を見ながら過ごす。


 青春の汗を流す彼女たちは見ていて清々しい気持ちになるな。

 そして、彼女たちのうちいったい何人が彼氏いるのだろうとか思ったら、めっちゃナーバスになる。


 もう無理かもしれん。


 つーか、マジでさっきの昼食を引き摺ってるんだが。

 黒歴史に新たな一ページを刻んだ予感。

 そろそろ青春の一ページを刻みとうございます。


 ——いや、昨日の夜、曽根川さんから絆創膏を頂戴したのは青春の一幕とカウントしていいのでは?


 やっぱ天使だな、曽根川さんは。

 離れた席の彼女を見つめてみる。

 欠伸をして、何だか眠たそうだ。


 ——ん?


 不意に視線を感じて、そちらへと目をやる。

 それはお隣の阿知賀さん。

 そう言えば定期的に彼女から視線を頂戴している気がするのだが、これは自意識過剰なのだろうか。


 まさかこのブサメンに惚れているなどということはあるまい。

 ならば何か言いたい事とか、気になっている事とかでもあるのだろうか?


 とか何とか、色々考えてみるけど分からない。

 だからと言って話しかけるなど論外なのだから。


 結果、放課後になっても阿知賀さんとお話しすることは無かった。

 みんなが帰りの準備をする中、俺も粛々と準備を進める。


 机の中に入れっぱなしだったライトノベルを取り出し——


「あっ」


 た、ところで、阿知賀さんが声を漏らした。

 見ると、彼女の視線はラノベの方へ。


 むっ、どうしたのだろうか。


「え、えっと、阿知賀さん?」


 いい機会だし、尋ねてみようかしら。


「それ——」

美奈穂みなほー! 帰ろー!」


 阿知賀さんが何か言いかけると、そこにお友達と思しき女子生徒がやってきた。


「あれ? 佐藤君と何か話してたの?」

「……何でもない。それじゃあ帰ろっか」


 え、なに? どういうこっちゃねん。

 阿知賀さんの不思議行動に首を傾げつつ、俺はラノベを鞄に直そうとして——違和感に気が付いた。


 あれ、栞以外にも何か紙が挟まってるぞ?

 なんぞこれ。


 パラパラ捲ってそれを取り出すと、折り畳まれたメモ用紙が挟まっていた。


『お話したいことがあります。本日の午後四時、非常階段でお待ちしております。――阿知賀美奈穂』


 …………。

 ……。

 …。


 ふえぇ? えっ、えっ? え!?


 こ、これってもしやラブ的なレター?

 午後四時って……今は三時四十分。


 まだ時間はある。

 なのでとりあえずもう一回読む。

 頭からおしりまで、くまなく、文字通り穴が開くほど文章を往復する。


 うん、これはラブレターですね。間違いない。


 うっひょー、俺にも春がやってきたぜ。

 最高かよ、おい。

 兎にも角にもトイレだな。

 トイレに行って髪をセットしないと。


 もちろんワックス何て洒落たものを持っているわけもないので、水でちょいちょいと整える程度だが。


 鏡に映る自分を見る。

 よし、今日もばっちり下の上だな。


 ……なんだか本当にラブレターなのか、自信が無くなってきたんですが。


 まぁ、だからと言って行かないという選択肢はないわけで。


 俺は非常階段に向かった。

 十分程前に着いたが、そこには誰も居ない。

 お昼休みに来ることは多いが、こうして放課後に来たのは何気に初めてだ。


 水平線に沈む夕陽の何と美しい事か。

 そう言えば彼女はお友達に連れていかれていたけれど大丈夫なのだろうか。

 呼び出したは良いけど行けませんでした、なんていうのは勘弁してほしい。


 正直こうしてここに立っているだけでも緊張で疲れて来るのだから。


 スマホで定期的に時間を確認し、四時を五分ほど過ぎた頃。


 あと二、三十分待って来なかったら帰ろうかなと考えていると——廊下の方からパタパタと足音が聞こえてきた。


 そして——バンッ。


 開け放たれた扉の先には、呼び出した張本人。

 阿知賀美奈穂が息を切らして立っていた。


 揺れるサイドテールとジト目が、夕陽とマッチして、いつもの数倍は可愛い。

 つまり、最強に可愛かった。


「ご、ごめんっ」


 はぁ、はぁと肩を揺らす阿知賀さん。


「う、うん。それは良いんだけど。と、とりあえず息を整えたら?」

「あり、がと……」


 彼女は鞄を下ろして中から水筒を取り出すと、傾ける。


 ほう、水筒系女子ですか。なかなかアドですね。


 個人的にペットポトルというのは味気なくて好まない。外で手軽に買えるというのが魅力を下げているのだ。


 それに対し、水筒は家庭的な面が見え隠れする最強のアイテムだと思う。


 因みに夏限定で、お茶を凍らせたペットポトルというアルティメットな武器が存在する。

 もちろん家で沸かしたお茶を凍らせるというのがポイントだ。

 家庭的+水筒を買うお金ももったいない、という庶民的な部分も垣間見えて、それはもう可愛さ十倍、萌え度百倍。

 ピクニックの日にそれを持参された日には結婚届を書きに役所へ進路変更する自信がある。


 ……あれ、何の話だっけ。


 そうだ、阿知賀さんの準備が整うのを待っているんだった。

 にしても阿知賀さんは水筒派か。


 幾花センパイはペットポトルだったが……曽根川さんはどうなのだろう。

 気になるな。


「そろそろ、んぐ……ぷはぁ。うん、大丈夫」

「そ、そう?」


 呼吸を落ち着けた彼女は、水筒を鞄に戻すと、非常口の外に誰も居ないのを確認してドアを閉める。


 そして非常階段からさらに周囲を見渡し、誰も居ないのを確認すると、大きく深呼吸して切り出した。


「じ、実は佐藤君に聞いてほしいことがあるの」


 俺は思わず生唾を飲み込んだ。

 ゴクッとね。

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