それぞれの出会いの物語

星塚莉乃

第1話 少女とうさぎと聖獣であるユニコーンの話

とある曇り空のある日の昼下がり、黒曜 こくようの森の中で途方に暮れているユニコーンが一頭いた。この森で彼は聖獣として崇められている存在である。今にも雨が降り出しそうな空模様を見て溜め息をつきながら、彼は聖珠せいじゅ の木でこれから行われるはずの集会へ急ぐ。しかし、彼は道迷っていた。それもそのはず彼は聖獣の中では方向音痴として知らていて、いつも遅刻したり出られなかったりして長を悩ませていた。いつも5時間前には寝床を出ているのにも関わらずだ。そんな彼のために彼の仲間が考案したのが赤い紐、青い紐だ。

「これされあれば大丈夫だから」そう仲間達に励まれていたのだが……その目印はどこにも見当たらない。そんな彼は一人の少女を見つける。どこか浮世離れしたその少女に彼は思い切って話しかけてみることした。

「そこの娘、道を尋ねたいのだが……聖珠の木へはどうやって行けばいいだろうか」

少女は自分が話しかけられるとは思っていなかったのだろう。


「え? 何? ユニコーンだ! かっこいい! 初めて見た。」


少女はそのしなやかな少しくすみがかったその体と澄み切ったような青い瞳、黄色っぽく輝くその角に見惚れる。少女の憧れてやまない存在が目の前にいるのだ。それも無理はないだろう。

「娘、聞いているのか? 道を尋ねたいのだが……」

何かを訴えかけるように鳴くその姿からユニコーンが困っていることを察したのだろう。しかし、そのユニコーンが何を言っているかは理解できない。本来ならば理解出来ているはずのユニコーンの言葉は少女にはまだ完全に理解することは難しいようだ。

「まさかとは思うが我の言葉が通じていないのか? この者なら我の言葉がわかるものだと思っていたのだが……」

少女の反応の薄さからして言葉が通じていないのは明白だ。そして、少女の目にはどこか落ち込んだ様子のユニコーンが映る。そんな様子のユニコーンに少女も何かを察したのだろう。

「私がこの聖獣さんの言葉が分かれば良かったのだけど……」

そう呟くもそのユニコーンには通じていない。ユニコーンにとって少女の言葉は難解なようだ。どこか納得のいかない表情をユニコーンは浮かべる。

「やはり我の言葉は通じていないのか……我もあの者の言葉はわからぬしな……他の者が通りかかるまで待つしかあるまいか」


その一時間後、気弱そうな鹿が一匹通りかかる。その鹿に少女は望みをかけ話しかけてみることにした。

「ねえ、そこにいる聖獣さんの言葉ってわかるかな?」

いきなり話しかけられて驚いたのだろう。その鹿は少し体を強ばらせてからか細い声で答える。

「聖獣様の言葉ですか? 聖獣様に喋っていただかないと何とも言えません」

その言葉を聞き、聖獣は問いかける。

「道を尋ねたいのだがよいだろうか」

しかし、その鹿は首を傾げるばかり。言葉が通じていないことを悟ったのだろう。彼は愚痴を零す。

「我の言葉をわかるものはいないか……我の言葉が分かるものがこの場にいれば良いのだが……そんな存在いるだろうか」

その願いも虚しくそれから2時間が経過した。その間に猪、猿、狐など様々な動物が通りかかったが彼の言葉を理解するものは現れなかった。その中で彼がわかったことは動物から聖獣へは言葉は通じるが反対に聖獣から動物へは言葉が通じない。そうして1時間がたった頃うさぎの親子が通りかかる。親うさぎは白いが子うさぎはうさぎにしては珍しく黒色だった。ここにはいないもう一匹の影響だろうか。その子うさぎがぴょんぴょん飛び跳ねながらユニコーンの方へ近づいていく。しかし、近くに行く寸前で父親に止められる。

「父ちゃん、父ちゃんせいじゅーさまだよ! 僕話しかけてきてもいい?」

「やめろ! 俺から話しかける」

そう黒うさぎの父親は今にも話しかけたくてうずうずしている子うさぎを宥めつつ話しかける。

「聖獣様、何かお困りですか?」

そう言われた瞬間ユニコーンは少し寂しな表情をし、それに気づいた子うさぎが今度は砕けた口調で話しかける。

「せいじゅーさま、何か困ってる? 話聞くよ?」

「おい! お前……失礼だろう。申し訳ございません。聖獣様」

しかし、子うさぎは悪びれることなく答える。

「だってせいじゅーさま、寂しそうな顔したんだよ? それに父ちゃんみたいなうやうやしい口調、僕嫌いだもんあっ! にんげんのお姉さんもいるね! 僕にんげん好きなんだ。話しかけみるよ」

子うさぎの表情が変化する様を少女とユニコーンは楽しげに眺める。

「お前……よくそんな難しい言葉知ってるな……うやうやしい口調なんてやめろ!普通の人間に俺たちの言葉がわかるはずがない」

黒うさぎの父親は子うさぎのことを褒めたつもりだったのだろう。しかし、子う

さぎはどこか拗ねた様子で不満そうに言う。

「父ちゃん……それって僕のことバカにしてるよね?! 酷いよ……」

子うさぎは褒められているとは全く気づかずかなかったのだろう。父親の前でぴょんぴょん飛び跳ねる。そして少し疲れたのだろうか。ひと息ついてから子うさぎは父親を説得する。

「そんなことないよ! 僕あのお姉さんなら僕の言葉わかってくれる気がするんだよね……なぜだかは分からないけど…… あっ! せいじゅーさまが何か話しかけてくるみたいだよ」

その言葉通り、聖獣は黒うさぎに問いかける。

「そこにいる娘にも聞いていたのだが……話が通じないようでな。困り果てていたのだ聖珠の木は知っているか?」

「せいじゅの木ってなーに? 僕わかんない……お姉さんは知ってる?」

その子うさぎの言葉にほっとしたのだろう。少女はまるで糸が切れたかのようにその場にへたりこんでしまう。それを見て黒うさぎが慌てて少女に駆け寄る。

「お姉さん? 大丈夫? 具合悪い?」

心配そうに覗き込んでくる黒うさぎを少女は安心させるように撫で、ふわりとした優しい笑みを浮かべる。

「うん……大丈夫だよ。良かったー……聖獣様の言葉わかる動物にやっと会えた。確か聖珠の木だよね? 赤い紐、青い紐を頼りに行けばわかるはず…… 案内しようか?」

少女が黒うさぎに話しかけていると黒うさぎの父親が話しに割り込んでくる。

「おいお前! 普通に話してるけど……何故聖獣様の言葉がわかる? 俺にはさっぱりわからんぞ?!」

父親にそう問いつめられた黒うさぎはそんなこと気にもとめず不思議そうに答える。

「えー……父ちゃんせいじゅー様の言葉わかんないの? お姉さんにもわかんないみたいだしな……まぁいいや」

黒うさぎは考えることを放棄し、父親の制止を聞かずにユニコーンの元へと駆け出しユニコーンを見上げて高らかに宣言する。

「僕つーやくするよ。それが一番いい方法でしょう?」

そう自信満々な黒うさぎに対し、父親は呆れたように言う。

「お前な……自分が何を言ってるのかわかってるのか? 俺はついていけないんだぞ?」

その言葉に少し戸惑っている黒うさぎに聖獣が話しかける。

「良い提案だと我は思う。何しろ言葉が通じないのが難点でな。遅くなるようならば我の仲間が送り届けるだろうし……ご子息を貸していただけないだろうか?」

そう懇願された黒うさぎの父親は苦悶の表情を浮かべつつ何とか自身を納得させたようだ。

「聖獣様にそこまで言われたのなら仕方がない。お前をここに残していくのは不安しかないが、俺は帰る! 早く帰らないと嫁の雷が落ちるからな。このことを知った彼奴に文句を言われそうだが……エル!粗相だけはするなよ絶対にするなよ」

黒うさぎの父親は、そう念押しするように叫ぶと家路へと急ぐ。エルと呼ばれ黒うさぎは文句を言う。

「そんなこと言われなくてもわかってるよ……」

黒うさぎにも思うところはあるらしい。

「良いでは無いか。良い父親だと我は思うぞでは、参ろうか」

そう言うとユニコーンは歩き始めるがその方向に彼が目指す目的地はないため少女が呼び止める。

「聖獣さん、そちらではないですよ。説明しますね。この道を真っ直ぐ行くと始めの赤い紐が見えてきます。そこを左に曲がり、しばらく行くと青い紐が見えてくるのでそこを右に曲がると聖珠の木にたどり着きます」

「聖獣様、そっちじゃないって。えっとこの道をね真っ直ぐ行くと赤い紐が見えるんだってそこを左に曲がってしばらく行くと青い紐が見えるからそこを右に曲がると到着後!じゃあしゅっぱーつ」

そう楽しげに言う黒うさぎは耳を揺らしながらぴょんぴょん飛び跳ねるように歩きだす。それに少女、ユニコーンも続くが、黒うさぎと少女、ユニコーンの歩幅は合わず、黒うさぎが遅れてしまう。そんな黒うさぎを心配してかユニコーンがこんな提案をする。

「我の背に乗るか? その方が楽だぞ」

「いいの? やったー! じゃあ聖獣様に質問していい? 好きな食べ物は何?」

黒うさぎは目を輝かせてタンっと足を踏み込み綺麗な跳躍を見せると聖獣の背中に飛び乗る。その様子を見届けた少女はくすりと笑みを零す。

「定番の質問だね! 私も知りたい!」

「我を抜きにして盛り上がるでない! しかし、好きな食べ物か……あまり考えたことは無かったな……」

そう呟くとユニコーンは黙り込んでしまう。そんな彼の様子に黒うさぎは何かまずいことでも聞いたと思ったのだろう。

「せいじゅーさま、もしかして困ってる? 僕何か聞いちゃいけないこと聞いた?」

そう彼の背の上でおろおろしている黒うさぎを安心させるように言う。

「いや、そう言う訳ではない。好きな食べ物などあまり考えたことがなくてな……だがりんごは甘くて上手い」

「せいじゅーさま、りんご好きなんだ! 僕もりんごは大好きだよ」

聖獣と好みが一緒にだったことに嬉しさを隠せない黒うさぎに対し、少女は何かを思い出すかのように言う。

「りんごってもしかしてあの黄色いりんごのことかな? 私は食べたことないや」

「黄色いりんご? 何それ? どうしてお姉さんは食べたことないの?ねえどうして?」

「あれは聖獣さんのために用意されたりんごだからね。私達は食べちゃいけないの」

そんなことを話していると少女が赤い紐を見つけ左に曲がる。そして話を再開する

「そうなんだ……お姉さん物知りだね」

「我らがいつも食べているりんごがどうかしたのか?」

その話が聖獣も気になったのだろう。聖獣も話しに加わる。

「あの黄色いりんごはねせいじゅーさまのために用意されたものなんだって」

「そうなのか! 確かに我ら以外食べていないからおかしいとは思っていたんだ……そんな理由があったとはあの娘は物知りだな。他にも何か知っていそうだ」

「お姉さん、せいじゅーさま褒めてるよ?」

そう言われた少女はどこか嬉しそうな表情を浮かべる。

「本当? 私知ることって大好きなんだ。新しいこと知るって楽しいからね」

そう言い切る少女は楽しげに見える。そんな少女をユニコーンと黒うさぎは感心した様子で眺める。そんな空気を察したのだろう。

「なんか変な空気になってる気がする……あっ! 見えたよ青い紐ここを右だね」

「せいじゅーさま、ここを右だって」

「そうか。もう少しだな恩に着る」

そう聖獣が答えると黒うさぎは不思議そうな顔をする。

「ねえお姉さん、おんにきるってなーに?」

「ありがとうってことだよ」

「せいじゅーさまのことば難しい……あっ大きな木が見えてきたよ! あれがせいじゅの木?」

「そうだね。あれが聖珠の木。良かった集会に何とか間に合ったようだね」

その木がある場所は他の場所より広くなっていて、その周りには多くのユニコーンが集まっている。それをみて彼はほっと息をつく。

「間に合ったか……本当に感謝する。お主らがいなければ我はたどり着くことが出来なかった。本当に恩に着るいやありがとう」

そう言い直したのは先程の黒うさぎの会話が聞こえていたからだろう。

そこに一頭のユニコーンが近づいてくる。

「レオ! 珍しいなお前が遅刻せずに来るなんて……ってうさぎと人間! 人間! 何故この神聖な場所にいる! 早く立ち去れ」

その言い草にそのユニコーンは反発する。

「酷いことを言うでない! この者達は我の案内役を名乗り出てくれたものだ! 我はこの者達のおかげでここにたどり着いたんだ! 失礼なことは言うな」

そのやり取りを見ていた少女は自分が歓迎されてないことを悟ったのだろう。その場から立ち去ろうとするのを黒うさぎが必死に止める。

「お姉さん、待って! お姉さんがこの場からいなくなる必要なんてないんだよ? だから大丈夫。僕に任せて」

そう言うとそのユニコーンに刃向かう。

「そこの聖獣様! 失礼なんじゃない? せっかくお姉さんが案内してくれたのに! 謝ってよ!」

その言葉を聞いた他のユニコーンたちも何事かと騒ぎ出す。そしてある一頭の賢そうなユニコーンが黒うさぎのセリフを擁護する。

「その通りだ。お前の人嫌いはよくわかるが、レオをここに連れてきてくれたことに対してお礼を先に言うべきでは無いのか? それを立ち去れなどと……それにこの者はこの場所でよく見る精霊王の加護を受けた人間、つまり人嫌いのお前でも唯一信頼を置くこの森の管理者が信頼を置くものだと俺は思うが? それにそこにいる少女は我らの言葉は分からないようだが察する能力は高い。この者に八つ当たりをするな」

そう言われたユニコーンははっとした表情になりどこか気まづそうに視線を揺らす。

「済まない……気がたっていたようだ……そこにいる娘も済まない……レオを連れてきてくれたこと感謝する」

そう言われた少女はぎこちない笑みを浮かべる。どうしたら良いのか分からないのだろう。それと先程のことがショックだったのだろうか。少女は聖珠の木の方へと移動し、木にもたれ掛かかるように蹲る。そこにリーダー的存在のユニコーンが現れる。

「何事だ! 誰か説明をせよ! ほうレオが遅刻せずに来るとは珍しい。レオ! 傍に来い」

「何故……」

そう言うのを遮り、リーダー的存在のユニコーンはレオと呼ばれたユニコーンに告げる。

「口答えは許さない。我の傍でじっとしてるが良い」

そう言われたユニコーンはどこか気落ちした様子でリーダー的存在のユニコーンの傍に控える。そしてリーダー的存在のユニコーンは話を続ける。

「それにうさぎと人間の娘も来ているはずだが……あの娘はどこに行ったのだ? 娘の様子が気になるが仕方ないか」

リーダー的存在のユニコーンは少女を気にかけているようだ。そこに先程の賢そうなユニコーンが前に出て説明を始める。

「そこにいる人間嫌いの者がこの者に罵声を浴びせたのだ。この者はレオを連れてきてくれたというのに……なので我が森の管理者が信頼を置くものそれと精霊王の加護を受けたものでよくここに来ていると申すとその者もそれに気づいたようで謝辞を述べたという訳です」

「そうそう!そこのせいじゅーさま酷いんだよ? お姉さん何も悪いことしてないのに始めから悪者って決めつけてるみたいでさお姉さんがいなければここにはたどり着けなかったのに……」

そう不満そうにする黒うさぎの言葉に他のユニコーンたちはざわめき立つ。リーダー的ユニコーンも驚いているようだ。

「お主、我らの言葉がわかるのか? そうかお主は優羅ゆら の国を守っていた神使の生まれ変わりだなそれでわかるのか」

「優羅の国なんて僕知らなーいそれより、お姉さんのこと無視しないでよ! お姉さんこの場にいていいのか悪いのかよくわかんなくて不安なんだからねだから」

その言葉にリーダー的存在のユニコーンは初めて聖珠の木にもたれ掛かりどこか憂鬱そうに黄昏ている少女に気づく。目を離すとどこかに消えてしまいそうなそんな面持ちの少女にリーダー的ユニコーンが謝る。

「娘、済まないことをした。そなたがいてくれたからレオがこの場にたどり着けたというのに……この場にいてよいから我らに礼をさせてくれないか。そこにいるレオと契約を交わして欲しい」

「お姉さん、そんなに落ち込まないで! ここにいていいんだって! あとお礼にさっきのせいじゅーさまと契約を交わしてくれないかって」

その言葉を聞いた少女はほっとした笑みを浮かべた。

「良かった……私、ここにいていいんだね……え? あー落ち込んではいたんだけどねエル怒ってくれたし、聖獣様庇ってくれてたみたいだからそれで落ち込んででも仕方ないって思ってたんだよね……気持ちの切り替えには時間が必要だから……あと少し疲れてたってくうのもあって……って聖獣様と私が契約? 契約かそうだな……」

そう言うと少女は少し考え込む。しかし、少女が出した決断は意外なものだった。

「決めた! お断りします。私にはふさわしくない気がして……」

「えーもったいない……わかった伝えるよ。えっと、ふさわしくないから断るって」

そう言った瞬間木の中から光を纏った男が現れる。その男にユニコーンたちは跪く。

その様子を黒うさぎは不思議そうに少女は呆然とした様子で眺める。

「本当にもったいないよねって何で皆そんなことしてんの? 僕そういうの好きじゃないからやめてやめてほらみんな立って」

慌てて言うその男に少女は見覚えがあるようだ。その男がそう言うと跪いていたユニコーンたちは立ち上がる。

「あれ? 驚かせちゃったかな? ごめんねミア」

ふふっと笑うその男はどこか楽しそうだ。少女は一瞬固まっていたのだろう。ふと我にかえる。

「なんだ……セラフィか驚かせないでよ! びっくりしたー。それでなんの用事?」

「ミアは相変わらずだね……僕にそんなこと言えるの君くらいだよ……おや? 君は珍しいお客さんだね優羅の国の神使か自覚はないようだけど……」

「どっちが珍しいの? 滅多に出てくることなんてないのに……」

そう少女は呆れて言う。

「僕も忙しかったんだけどね。その子を帰らせてあげようと思って……それに言葉通じないのは不便でしょ? 僕が通じるようにするよ。だから君は早くお帰りもうすぐ夜が来る。夜は危険がいっぱいだからね」

「お兄さん、だーれ? 僕まだ帰らないよ?」

その男の気遣いをあっさりと断る黒うさぎに少女は笑いを堪えきれないようだ。

「セラフィ精霊王なのに知られてない……それに断られてるし……あといつも何も楽しいことなくて暇だなって言ってるのは誰だっけ?」

そう男をからかう。その男は羞恥心から顔を真っ赤にした。

「ちょっと酷いよミア……僕はねこの森とは別の森から来たんだ。自分で言うのも何だけどね精霊の中で王様をしているよ」

けれど黒うさぎは首を傾げる。

「お姉さん、せいれいってなーに? おうさまって偉い人のこと?」

「そうだね……世の中には精霊という目に見えない存在がいてね。私は見えるんだけど……そう一番偉い人だよ」

「そうなんだー」

そう黒うさぎが感心していると今まであっけに取られて見ていた道に迷っていた聖獣が話しに割り込む。

「我に分からない言葉で話すでない! 何故断る? 我が嫌いなのか?」

「せいじゅーさん放って置かれたことが不満みたい……あとどうして断るのか理由を知りたいみたいだよ自分が嫌われているのかって」

と黒うさぎは通訳する。

「あー聖獣様のことは嫌いじゃないけど……私の気持ちの問題っていうかそこにいるユニコーンの長の思惑通りになるのは納得いかないんだよね……」

そう少女は言葉を濁す。そのことを察したのだろうか少女の最後の言葉を黒うさぎは訳さなかった。

「嫌いじゃないってお姉さんの問題らしい」

「嫌われてなくて良かったね。でもその前に君にいいものを見せてあげよう。レフェシック・アローサ」

そう男が唱えると木々の間から光が溢れ出し、少女と迷っていたユニコーンを包む。

その様子をみて黒うさぎは歓声をあげる。

「我のことを嫌いでないなら良いが……王よ我に何をしたのだ?」

「それはね言葉が分かるようにしたんだよ?」

少女の言葉がわかるようになったユニコーンは驚きを隠せない。

「何と! 娘の言葉がわかるようになった。エルといったかありがとう感謝している。娘もありがとう」

言葉がわかるようになったユニコーンは黒うさぎと少女にお礼を告げる。それを聞いた少女と黒うさぎは満足気に微笑み合う。

その様子を見ていたリーダー的存在のユニコーンは諦めが悪いようで再度少女に懇願する。

「娘よ、レオの契約者になってはくれまいか。これが我らにできる精一杯の礼なのだ頼む」

そう言われた少女は渋々ユニコーンの要求を受け入れる。

「そこまで言われたのなら仕方ない。受け入れるよ。セラフィ契約の準備を。場所を変えよう。ただし、あなたを連れていく訳にはいかない。連れていくのはレオという聖獣様とエルだけ」

と素っ気なく言う少女にリーダー的ユニコーンが反対する。

「何故我は同行できない? その理由を述べよ」

「私はあなたの思惑通りになっていることが気に入らないの! あなたは最初からレオと私を契約させようとしていた。それに契約に条件をつけることは禁止されているのよ? それでもしあなたがこの森を追放された場合、誰がこの群れを率いるの? あなたは群れのことを第一に考えるべきよ」

若干イラついてるのだろう。少女の口調にはどこか棘があるように思える。

「そこまでは我の考えが至らなかった……そういうことなら引き下がるしかあるまい」

リーダー的存在のユニコーンは納得はいっていないもののこの場に残ることを決めたようだ。

「それじゃあ移動しようかでも夜遅くなるとこのうさぎさん家まで帰れるのかな?」

「それは問題ない。我が家まで送っていこう。それなら多少遅くなっても大丈夫だろう」

と賢そうなユニコーンが申し出る。

「それは名案だね! ならお願いしようかな……今から消えるけど動揺しないように」

「それ無理あるよね……エルおいで」

そう言うと少女はエルと呼ばれた黒うさぎが来やすいようにしゃがむ。そこに黒うさぎがぴょんと飛び乗ると少女は立ち上がる。

「"ライトリフィルアステール"」

そう男が唱えると姿が消えた。まるでそこに誰もいなかったかのように……



そして移動した先は精霊の森。

そこについた黒うさぎは興奮気味に言う。

「僕、魔法初めて体験した! お姉さんのおかげだねありがとう」

「喜んでもらえて良かった……」

「それじゃあ契約をしてしまおうかまず、契約について説明するよ! このことは他の人に話してはダメ。そして互いの本名を明かす、そして最後に身体の一部に口付けする」

それを聞いたユニコーンは動揺する。それを見た少女は一言。

「少し待ってて」

それだけ言うと森の中に姿を消す。そして数分後、何事もなかったかのように戻ってくる。すると、少女は靴と靴下を脱ぎ紋章を見せる。その紋章は泡が重なり合ったものだった。

「これが紋章。契約の証だよ。今許可もらってきたんだ」

「珍しいな……アーシャが許可するなんて……そういうことを1番嫌うのに」

そう呟く男を気にも止めず、少女は話を続ける。

「私も最初は抵抗あったな……それに私の家族が大騒ぎして大変だった……あの人たち早く妹離れしてくれないかな」

どこか遠い目をしてそう呟く少女をユニコーンと黒うさぎは心配そうに見つめる。

「ミア……僕のこと無視しないでよ……じゃあ契約を始めよう」

そう一瞬切なげな瞳をしたが、男は切り替えが早いというかそんな対応に慣れているのだろう。ユニコーンから本名を明かす。

「我の名前はレオン、レオと呼ばれている」

「私の名前は宮坂美悠 みやさかみゆ。普段はミア・レリックって、名乗って結界師として活動してるよ」

「僕の名前はね、エルーシャっていうんだ」

契約には関係ないはずの黒うさぎも何故か本名を明かす。

「君は名前を言わなくてもいいんだけど……契約でもその気持ちわかるよ。この子達には君の本名知ってもらいたいもんね」

名乗った黒うさぎはどこか満足気だ。そうしてユニコーンは契約の言葉を発する。

「汝聖獣レオンは美悠を主としその忠義を己が死すまで尽くすことを誓う。この契約は永遠のものであり、それはどちらかが死ぬまで続くであろう。その契約の証とし手の甲に口付ける」

そういうとまるで忠義を誓う騎士のようにレオンは美悠の右手の甲に口付けた。

すると、美悠の右手の甲にユニコーンの上に2本の剣が重なっているものが浮き出てきた。そしてユニコーンの右足の蹄にも同じ紋章が浮かび上がる。

「これで契約完了だね!」

そう言うと男はいつの間に出したのだろう。その手には緑色の手袋と包帯がありそれを少女に手渡す。

「用意良すぎるでしょ……」

そう呟きつつ少女は右手に手袋をはめると聖獣の右足に包帯を巻く。

「これ、見せちゃダメなんだよね……また大騒ぎになりそう」

どこか憂鬱そうな少女はため息をつく。

「じゃあ帰ろうか」

そんな空気を帰るように男は言う。

「エルも帰るの遅くなっちゃうもんね帰ろっか。レオ! 契約してくれてありがとう嬉しいよ、私」

そんな少女の晴れやかな笑みを見てユニコーンは満足そうに頷く。そして男がもう一度呪文を唱えると黒曜の森にいた。

そして黒うさぎが眠そうな声で言う。

「僕、疲れちゃった……そろそろ帰ろうかな? あれ? さっきのせいじゅーさまはど子?」

「ここにいる。我が送っていこう。住んでる場所が言えるなら我の背で寝るといい」

そう賢そうなユニコーンは言うと、少ししゃがみこむと黒うさぎを咥え背の方へ放り投げる。そして上手く背の真ん中辺りに着地させた。

「せいじゅーさまありがとう僕の住んでるところはね……」

そう黒うさぎは住んでるところを伝えると聖獣の背で眠りにつく。

「じゃあ僕帰るから。ミア、君も来る?」

「遠慮しとくよ。また今度」

そう断ると男は少し残念そうな顔をしつつも木の中へ帰っていった。

そして少女も帰り支度を始める。

「レオ、寝ているから聞こえないかな……エルもまたね」

それだけ言うとユニコーンの返事も待たずに消える。それを見届けた賢そうなユニコーンは幸せそうな顔で自分の背で眠る黒うさぎを起こさないように注意して歩きながら森の奥へと消えて行った。




登場人物

レオン(あだ名はレオ。いつも道に迷ってしまう方向音痴なユニコーン。美悠と契約をすることになる。正義感が強く、悪事は許せない性格)


美悠(偶然通りかかった駆け出しの結界師。レオンと契約を結ぶことになる。どこか抜けていて他の人と感覚がずれている女の子)


エル(黒うさぎ)(通りすがりのうさぎ。何故か聖獣の言葉がわかる。本人はまったく気づいていないが、優羅の国の神使の生まれ変わり)


親うさぎ(エルの父親。妻が怖く、妻には逆らえない)


長(ユニコーンの群れのリーダー。レオンとミアの契約を結ばせることになる。)


セラフィガーナ(精霊王でミアの守護霊。常に一緒にいるが、出てくることは少ない)

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それぞれの出会いの物語 星塚莉乃 @americancurl0601

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