☆星乃登場☆

 なぜ星乃はさっきまで玄関前にいたのに、もう俺の部屋の前に立っているだろう。

 目を引く派手なピンク色の髪を振り乱し、大きな瞳で俺を見つめる星乃。背丈は二葉とほとんど変わらないので、背丈の差から上目遣いになる。

 世間一般でこいつを評価するなら凄く可愛いと言えるのだろうが、俺からの評価はただただあざとく見えるだけでムカつく、である。

 その身に纏う制服は二葉と同じ学校のものであるが、至るところ改造を施してあるようで、フリフリが付いていたりスカートの丈が異様に短くなっていたりする。

 そんな星乃の背中にはアニメの缶バッチやキーホルダーが至るところに取り付けられた身の丈に合わない大きなリュックが背負われている。

 あの細腕と華奢な身体でよくこんな大きなリュックを背負えるなぁとそこは感心してしまう。

 ちなみに俺は貧弱貧弱ゥ!なので箸より重い物は持ったことはないのだ! ……まあ、嘘だが。

 そんな感じの星乃は、上目遣いで俺が無反応なのを察すると、さらにあざとく小首を傾げ、そして口を開いた。


「相変わらず無反応で無表情だねぇ。カズくん♡ でも久しぶりに私に会えて内心嬉しくて嬉しくて泣き出しそうなんじゃないの? 可愛いなぁもぅ♡」


 星乃は自分の両ほっぺに手を当て、キャーっと照れながらふざけたことをかしている。

 俺はお前から逃げられなかったことに対して泣き出しそうだよ。


「久しぶりだね。星乃ちゃん!」


 二葉が屈託のない笑顔で星乃に声をかけた。

 やっぱりお前の方が星乃なんかより断然可愛いぞ。二葉。


「あらぁ。久しぶり二葉ちゃ……じゃなかったわ。お義姉ねえさん♡」


「おい星乃。妹をお義姉さんって言うな。誤解されるだろうが」


「照れちゃって可愛いんだからぁ♡」


 照れてねぇよ。本気で嫌がってるんだよ。冗談でもそう言うことを言うな。


「お兄ちゃんが本気で嫌がってる顔してる」


 やっぱり俺を理解してくるのはお前だけだよ。二葉。


「ところでぇ、私に変身させてほしいって言う可愛い子はどこぉ?」


 そう言うと星乃は辺りを見渡し、その大きな瞳をキョロキョロさせ、床であぐらをかいている廻栖野をロックオンした。

 その瞬間、星乃の瞳がキラリッと輝いた……気がした。


「あなたねぇ! 確かに可愛い! 超絶可愛いわぁ!」


 目にも止まらぬ速さで廻栖野との距離を詰め、驚く廻栖野をよそにテンションマックスで星乃ははしゃいでいた。

 やはりあの瞬間移動のようなスピード、星乃は何かしらの能力者かもしれないな。

 呑気な俺をよそに星乃は廻栖野に絡み始めた。


「なんだこら! ちょっ……やめ、やめろ! こら、くっつくな! へ、変なところ触るな! んっ! そ、そこはダメ……。あんっ! んんん!」


 気がつけば廻栖野の叫びはいつ間にやら喘ぎに変わっいた。

 俺は二次元にしか興味はないが、目を瞑ると……。ヤバい! これは唆る! まるでエロゲだ! 興奮を抑えられない!


「ちょっとお兄ちゃん! えっちな妄想してないで早くメルちゃんを助けてあげて!」


 危険を察した二葉が俺を現実へ呼び戻した。


「だから俺の考えてることを読むんじゃない。ってそんなこと言ってる場合じゃないか」


 妄想世界から現実に戻ってきた俺は、描写すると良い子には見せられない絵面になっている二人を引き剥がす。内心少し残念である。


「はぁはぁはぁ……。助かった。ありがとう多田野」


 うっ。先ほどまで喘ぎ声を聞いてエロい妄想に浸っていたので、廻栖野の素直な感謝の言葉に胸が少し痛んだ。


「あらやだ。私としたことがつい取り乱しちゃった。反省♡」


 ぺろっと舌を出し自分の頭にこつんとグーを当ててポーズ。

 はいはい、あざといあざとい。


「星乃。そのウザいのはいいからまずは自己紹介しろ」


「ウザいって何よ! 失礼しちゃうわね! プンプン!」


 プンプンじゃねぇよ! こっちはもう激おこぷんぷん丸だわ!

 もういい。俺がこいつの自己紹介をすることにする。このままじゃ話が一向に進まない。


「廻栖野。こいつは二葉と学校は違うんだが、同じ中学二年生で名前は星乃……」


「星乃きらりって言います。よろしくねぇ♡」


 俺の言葉を遮り星乃は笑顔で名乗った。


「きらりって、なんか漫画みたいな名前だな」


 名前を聞き疑問を口にする廻栖野。

 やっぱりそう思うよな。誰が聞いてもそう感じると思う。


「廻栖野。星乃のほんと……ぐふっ!」


 そこまで言いかけた俺の脇腹には星乃の肘が突き刺さり、台詞は途中で遮られてしまった。


「た、多田野!?」


 廻栖野が俺呼んだ……気がしたが床に倒れた俺にはその姿は見えない。分かるのは聞こえてくる会話だけ。


「それよりあなたのお名前はぁ?」


 星乃の声に威圧感を感じた。どうやら少し機嫌がよくないようだ。


「……アタシは廻栖野芽流めぐすのめぐ


 なんとなく星乃の雰囲気を察したのか廻栖野は余計なことは言わず自分の名前を名乗った。


「見た目も可愛いけどお名前も可愛いわぁ♡ よろしくねぇ。メルちゃん」


「……なぁ。あんた、アタシを変えてくれるって話だけど、そんなこと本当にできるのかよ?」


 廻栖野は星乃に食ってかかるように疑問をぶつけた。まあ、そう思うのも当然だよな。星乃は口調からして見た目からして胡散臭さい。初対面ならみんな感じることだ。

 後、どうでもいいが二葉。倒れている俺をつんつんするのはやめろ。俺はう◯こか。


「できるわぁ。見た目だけならあなたが望む理想の姿。どんな姿にだって変身させてあげられるわよぉ♡」


「アタシが望む理想の姿……?」


「そう。特にあなたは可愛いから多少の無理も聞くわよぉ。そうだわぁ。まずは試しに宇宙人とか超能力者とか未来人を探してる女子高生とかどうかしらぁ♡」


「ダメだ」


 ジンジンと痛む脇腹をさすりながらも、すかさず俺は二人の会話に割り込み星乃の意見を否定する。

 声に反応し星乃と廻栖野の視線は俺へと向いた。


「多田野。大丈夫か?」


「ああ、もう少し位置がズレていたら命を落とすところだった」


「それはないだろ。まあ何事もないようでよかったよ」


 ギャルのくせにそんな優しい言葉をかけてくれるなんて。これがギャップ萌えというやつか。うむ。悪くない。

 そんな見た目に反し優しい廻栖野とは裏腹に、自分の欲望に忠実な星乃は次なる欲望を口にする。


「むぅ。なら歌って戦うFなロボットアニメの歌姫……」


「却下」


 言い終える前に却下。

 長く喋らすと問題発言しそうだからな。


「そーれーなーらぁー、今流行りの鬼滅……」


「断固拒否」


 それは完全にアウト。もう口開くなお前。


「だったらこの子をどんな風に変身してあげればいいのよぅ!」


 星乃は子供ようにその場で地団駄を踏む。

 やめろ。音が響いてご近所迷惑になるだろうが。


「廻栖野を今のギャルから清楚系美少女に変身させてほしい」


「えぇ〜、そんなの全然面白くないわぁ」


 そう言うと星乃はほっぺをぷくーとフグのように膨らませ、床にへたり込んだ。どうやらいじけてしまったようだ。

 マズいな。星乃はいじけるとしばらくは話を聞いてくれず、何もしてくれなくなってしまう。

 ああ、本当に面倒くさい。

 俺がどうしたものかと悩んでいると。


「お兄ちゃん。二葉に任せて! とっておきの手段があるんだよ」


 二葉がそんなことを言い、自身の無い胸を張り上げドンッと叩く。

 すると二葉は星乃の元へ向かう。そして何やら耳元でひそひそと囁いていた。

 そんな二人を俺と廻栖野はただ見つめる。

 ひそひそ話が終わり、二葉が星乃から離れた瞬間。突然星乃は立ち上がり目をキラキラさせながら俺と廻栖野の方へと向かってきた。


「清楚系美少女。やりましょう! 私の手にかかれば日本一いえ、世界一の清楚系美少女にして差し上げますわぁ♡」


 先ほどとは打って変わってテンションマックスな星乃。

 いったい二葉はこいつに何も吹き込んだのだろう。

 まあとりあえず、星乃がやる気を出してくれてよかった。

 これでやっと次のステップへと進める。


「それでは今からメルちゃんを清楚系美少女に変身させます。皆さんこの部屋からご退場願いますわぁ♡」


 って俺の部屋でやるのかよ!

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