ギャルの変身
俺がお茶菓子と飲み物を運び自分の部屋に入ると。
「あ、この服とってもメルさんに似合いそうですよ」
「そ、そうか? こっちのこれ、絶対に二葉ちゃんが着れば可愛いと思うよ」
廻栖野と二葉はついさっき会ったばかりなのにもう意気投合していた。
ファッション雑誌を眺めながらきゃっきゃっと楽しそうにじゃれつき合っている。
「お前ら俺のいない間、随分と仲良さげで楽しそうだな」
「うわっ! お兄ちゃんいつからいたの?」
「うおっ! 多田野いつからいたんだよ?」
はいはい、どうせ俺は邪魔者ですよ……。
「あっ、お兄ちゃんが自分は邪魔者だみたいな顔してる」
「そうなのか? どれどれ」
廻栖野のはそう言うとグッと顔を近づけてきた。
つい反射的に後ろへ退いてしまう。
「こら! 逃げるな!」
廻栖野は俺の腕を掴み逃げられないようにと自分の方へ引っ張ってきた。
廻栖野の大きな瞳がジッと俺を見つめているのが分かる。
これは耐えられない!
「やめろ。恥ずかしいだろ」
「んんんー……。ダメだぁ。全然分からん。多田野、お前の表情筋はもう死んでるよ」
「死んでないわ。失礼なことを言うな」
諦めたようで掴んでいた俺の腕を離し、床にごろんと転がる廻栖野。
もう少しあの見つめ合う状況が続いたらヤバかった。ナニがヤバいって? それはご想像にお任せします。
「お兄ちゃん。やらしいこと考えてたでしょ?」
「二葉。お前は俺の顔色ばかり読まずに、もっと空気を読もうな」
「ところでさ」
床に転がっている廻栖野が思い出したかのように切り出した。
「アタシを変身させるって言ってたけど、結局どうするんだよ? まさかアタシを家に連れ込む為の嘘だったのか!?」
「それは無い。可能ならば自分の家に他人など絶対に足を踏み入れてほしくない」
俺は思っていることを即答。寸分の狂いの無い本心である。
「真顔で否定すなし! じゃあいったいどうするんだよ!」
速攻否定された廻栖野はムカついたようで、語気を強め再び尋ねてきた。
「落ち着けって。おい二葉」
「んー?」
俺の持ってきたお茶菓子を頬張りリスみたいになりながら俺に返事をする二葉。
なんだこいつ。可愛いなおい。
「
「んにゅるほぉどぉ。ほじゅのじゅんにゃるたにゅかにゅへんしゅんしゃせぇりゃねるにぇ」
「食べ終えてから喋りなさい」
二葉はお茶菓子と一緒に持ってきた紅茶をグッと飲み干し……。
「なるほど。確かに星乃ちゃんなら変身させられるね」
さっきの宇宙人語を翻訳してたぶん同じ台詞を口にした。と思う。
「ほしの? そいつはいったいどんな奴なんだ?」
首を傾げる廻栖野に二葉はニコッと笑顔を向けて言った。
「星乃ちゃんはねぇ。コスプレイヤーなの」
「こすぷれいやー?」
頭にハテナマークを浮かべる廻栖野をよそに、二葉はスマホを取り出し電話をかけ出した。
「もしもし? あっ、星乃ちゃん? 星乃ちゃんに変身させてほしい子がいるの! うん。そうだよ。すっごく可愛いの! だからね。うん。今すぐで! じゃあよろしくー!」
二葉は電話を終え、
「星乃ちゃんすぐ来るって!」
そう言いながら俺達にブイサインを送る。
「そうか。よかった。じゃあ俺はこれで失礼させてもらうよ」
「お、おい。多田野どこ行くんだ?」
部屋を後にしようとする俺に廻栖野が静止を促す声を上げた。
「いや、正直俺、星乃が苦手なんだよ。だから後のことはお前達でやってくれ」
「はあ? 苦手ってなんだよ。そもそもお前に得意な人っているのかよ?」
おやおや、出会って間もないのにもう俺のことを理解し始めているな。
さすがカーストトップの人間は人を見る目が肥えている。
「いないな。人類はみんな敵だ」
「ならお前、自分自身も敵だよ、多田野……」
そんなしょうもない問答をしていたその時、インターホンの音が鳴り響いた。
「あっ、星乃ちゃん来たみたい」
二葉が窓から外を見下ろし、そんなことを言う。
「マジかよ。速すぎるだろ」
星乃の家はすぐ近所だ。しかし、それにしても速すぎる。まだ連絡して五分も経ってないぞ。まるで二葉が連絡した時にはこの多田野家の前にでもいたかのようだ。
……星乃ならありえる。
俺は背中から嫌な汗が吹き出すのを感じた。
今ならまだ間に合う。逃げるんだ!
そう意を決して俺は自分の部屋を出ようと扉を開けた。すると、
「あらまぁ。わざわざ扉を開けて出迎えてくれるなんて。さすが私のカズくん♡」
星乃が目の前に立っていた。
こいつ瞬間移動でも使えるのだろうか?
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