どうしてこうなった
「……ただいま」
「あっ、お兄ちゃんお帰……り?」
帰宅し玄関を開けると妹の二葉がいた。
二階の自分の部屋へ行こうとしていたらしく、階段の手摺に手をかけ、俺の方を振り向きながら返事をした二葉。しかし、何かに驚いた様子でこちらを向いたまま固まってしまっていた。
「お、お兄ちゃん……。後ろにいる美人さんは一体何? まさか、お兄ちゃんの彼女!?」
「違う! なんでアタシがこんな根暗陰キャと!」
俺が口を開くよりも早く言い返す廻栖野。
気持ちは分かるが言葉にされるとさすがに傷付くのだが。
屋上でのやり取りの後、具体的にどう廻栖野を変えるか話をする為に我が家へと連れて来た。別に話をするだけなら家じゃなくてもいいのだが、こいつのギャルな見た目を変えるには話を通しておかなければならない奴がいるのだ。
「で、ですよねぇ〜。根暗で無表情でアニオタの兄にこんな美人な彼女ができるわけないですよねぇ〜」
妹よ。せめてお前くらい俺の味方をしてくれてもいいだろう。
「美人とか言うなよ……。照れる……」
「あらら。顔真っ赤になっちゃった。やだ、この人可愛いぃ〜」
きゃっきゃっと喜ぶ二葉と照れて俯向く廻栖野。
ダメだ。このままでは話が進まず、玄関から先にも進めない。
後、俺だけ蚊帳の外なのも気に食わん。そこが一番気に食わん!
「おい。二人で俺を差し置いて楽しそうにするんじゃない。泣くぞ? ここでギャン泣きするぞ?」
意味の分からない脅しを加えたおかげか二葉と廻栖野の視線は俺の方へ向いた。
「んんん? お兄ちゃんまだ玄関にいたの? 影薄すぎて気付かなかったよ」
「あれ? 多田野まだそこにいたの? アタシ、俯向いてたからもう家に上がったと思ってた」
やっぱり泣いていいよな? 大声で泣き叫んでいいよな?
「ああ〜、お兄ちゃんが今にも大声で泣き叫んでやるみたいな顔してるよ。虐めすぎちゃったかな?」
「えっ? あれで泣きそうなのか? さっきから変わらない暗そうで無表情な面に見えるけど」
廻栖野は俺にケンカを売ってるのだろうか。買ってやりたいが、今日は持ち合わせがないので勘弁してやる。命拾いしたな。
「お兄ちゃん顔に出にくいんですよ。ホントにすこぉ〜〜〜〜ししか変化ないから」
「そ、そうなのか。それは悪かったな多田野」
「謝んなよ。もっと泣きそうになるだろ」
「ホントに泣きそうだったのか」
なぜか廻栖野のは二葉にスゲェーと称賛の拍手を送っていた。
「へへんっ! お兄ちゃんの生態は熟知してるからね! 大体のことは分かるよ」
「やめろ。そのドヤ顔やめろ。お前はお兄ちゃん博士か。腹立つわ」
「その顔じゃあ怒ってるかどうかも分からないね。二葉以外!」
だからドヤ顔するんじゃねぇ! これはもうお仕置きが必要だな。今度から心霊番組観た後、「怖いからトイレついて来て」って言われても絶対一緒に行ってやらん!
そんな一大決心をしている中、廻栖野が口を開く。
「おいおいおい、お前ら兄妹で仲がいいのは分かるがいつまで漫才やってんだよ。いつまで経っても玄関から進まねぇじゃねぇか」
おい。その台詞、お前が言うんか。
「それもそうだねぇ。ではでは、とりあえずお兄ちゃんの部屋まで案内しますね。ほらほら、お兄ちゃん、いつまでも玄関に突っ立ってないで」
言いたい事は色々あるが、これ以上何か言うと本当に玄関から進まないので大人な俺は黙って従うことにした。
「俺の部屋はこの階段を登った……」
「ああ、部屋には二葉が案内するから、お兄ちゃんはお茶菓子持って来て」
二葉に手を引かれながら階段を上がっていく廻栖野の後ろ姿を眺め、いつも通りぼっちになった俺。
大人な俺は声は出さない。だが身体は正直である。頬は薄ら濡れていた……ような気がするたぶん。
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