廻栖野 芽流

 第一印象、ギャル。超ギャル。

 俺がこの女を見た時、最初に思った感想だ。

 案の定、中身を予想を裏切らずギャルだった。

 クラスの上位カースト達と群れ合い、休み時間になる度にギャーギャーと周囲の目など一切気にする事なく、騒ぎ散らしていた。

 そんな上位カーストグループの中でも、この廻栖野芽流は頂点に君臨するカーストトップの存在である。

 その理由としてはやはり彼女の見た目によるところが大きいだろう。

 俺は二次元にしか興味は無いが、一般的目線から見ればこの廻栖野芽流はかなり美人な方だと思う。

 黄金比に整った端整な顔立ち。吸い込まれそうな大きな眼。化粧をしているせいか大人びて見えるが、俺の観察眼から見て本来は童顔よりの顔立ちなのだろう。

 どうやら幼く見えることは彼女に対してコンプレックスなのかもしれない。

 故にギャルギャルしくしてみせてるのだろう。

 着崩した制服に短いスカート。まさにギャルの代名詞。

 パフェみたいに盛られた金髪。あれホントどうやって整えてるんだろう?

 背丈は俺よりも低いが女子の中ではそこそこ高い方かな。俺が172センチなので、推定165センチくらいだと思う。

 なんか凄く詳しいなと思うかもしれないが、俺は基本ぼっちだ。アニメ鑑賞をしていない時は暇なので人間観察に勤しんでいる。なのでクラスの奴の事くらいだいたい知っている。

 以上がクラスでやる事の無い俺が暇潰しに人間観察をして得た廻栖野芽流の情報である。

 我ながらストーカーみたいだなと思う。

 だからと言って、今屋上でこの女と出会ったのは俺がストーカーだからとかじゃない。

 紛れもない偶然だ。


「あんた確か同じクラスの……えーと、名前は忘れたけど暗くてぼっちの奴だよな。返事くらいしろよ!」


 陽キャはすぐ怒鳴るから嫌いだ。俺くらい寛大な心を持てよ。

 俺はコンビニ店員にお会計の時に無視されても平常心だし、なんだったらお金入れた自動販売機が無言で無動でも平常心だぞ。いや、あの時は少し取り乱したな。入れたの千円だったし。

 とりあえず、これ以上ブチ切れられても困るので返事をすることにする。決して怖いからとかじゃない。


「俺は弁当をここで食べる為に来たんだよ。後、俺の名前は多田野だ」


 自分でぼっちとかオタクとか語るのはいいが人に言われると腹が立つ。なので名前は伝えておくことにする。


「ふん。そうかよ。でもここで飯は食うな。今はアタシが独占中だ」


 廻栖野はしっしっと手を振る。帰れということらしい。

 その行動は温厚な俺でもカチンときた。

 なんだこの女。何様のつもりだ?


「おい、屋上はそもそも立入禁止だ。俺も人のことを言えないが、お前が独占するのはおかしな話だろ?」


「うるせーな! アタシはここで一人になりたいんだよ!」


「お、俺だってここで弁当が食いたいんだ」


 突然、大きな声出すなよ。少しびっくりしちゃっただろ。


「ああぁーっ! グダグタとうるせぇなぁ! なら力ずくで追っ払ってやる!」


 そう言うと廻栖野は俺の方へと近づいてきた。

 さすがに女子に負ける気はしないが、かなり怒っている様子。

 これは戦略的撤退が有効手段と見た。

 決して怖いわけではない。ほ、本当だよ?

 俺は踵を返し屋上から出ようとする。

 その時。


「ほぇ?」


 マヌケな声が響いたと思えば、廻栖野の身体が宙に浮いた。そして床へ向かって倒れていく。

 昨日は雨だ。恐らく足を滑らせたのだろう。

 そんな思考を巡らせながらも俺の身体は反射的に廻栖野へと向かっていた。

 ドスン。

 そんな音が聞こえた。

 背中に激痛が走る。頭は打ってない。良かった。

 俺はゆっくりと目を開ける。

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