第7話 美しい転入生

 教室に入るとなんだか騒がしかった。


 私は後ろのドアから入ったのだが、前の席の方で誰かを囲むように人だかりができている。


「おはようさん静流」


「おはよう三月、あれ何?」


「なんやら転入生らしいで、みんな気になって話しかけにいってるみたいや。みんなミーハーやなぁ」


 転入生か、違う高校からきたという事は編入試験でも受けたのだろうか、入試の時に一回受けたのにもう一回テストなんて大変だな。


 予鈴のチャイムがなり、いつもより早く先生が入ってきた。転入生を囲っていた群れも散り散りになり、転入生の後ろ姿だけ見えた。


 私も席に着くと、うつぶせになっているヒロキに話しかけた。


「ヒロキはもう転入生見たの?」


「まだだよ、僕が来た時にはもう人がいすぎて男子か女子かもわからなかった」


「後ろ姿しか見てないけどあれは女子だな、というかあの制服どこかで見たな」


 先生がみんなに聞こえるように説明をはじめる。


「もうわかっている人もいるだろうけど今日このクラスに転入生が来ました。ちょっと前出てくれる?」


 そう言われると転入生は席を立ち、黒板の前に立ち私達の方に向いた。


「泉あさひです。よろしくお願いします」


 あっ。


 あの子は昨日職員室に案内した子だ。同い年だったのか。昨日も思ったが綺麗な顔立ちだ。


 髪も短いのに可愛いと思えるのは、本当に顔立ちがしっかり整っているからと思わされる。


 仲良くなれるかな。


 ふと泉さんと目があった。あっちも気づいたような顔だった。


 そんな事を思っていると隣でヒロキが固まっていた。


「どうしたのヒロキ?」


「また来てしまった、この気持ち」


「あんたまさか……」


「どうやら僕の心を撃ち抜いてしまったようだよ、あさひちゃんは」


「まだ話した事もないのにちゃん付けで呼ぶなバカ」


 授業が終わるごとにクラスのみんなが泉さんの周りに群がり、ヒロキも話に行こうと何度も試みたが、跳ね飛ばされボロボロに帰ってくるのみであった。



 お昼休憩になり、三月が私のところに来た。


「おーい静流、あーちゃん連れて来ていい?」


「あーちゃん?」


「今日の主役や、あーちゃんこっちこっち」


 三月がそういうと、前の席からこちらに向かってくる。


 今日の主役こと、泉さんが現れた。


 泉さんは軽く会釈してくれた。


「昨日はありがとう、おかげで助かりました」


「いやいや職員室案内しただけだし」


 私は焦って反応した。


「せっかくやから三人でご飯食べようや、私らは周りの子らみたいに色々聞いたりせぇへんで」


 三月は机と椅子をこっちの席に持ってきた。どうやら泉さんも含め三人でご飯を食べようとの事らしい。


 しかし席が一つない。となれば隣の席のヒロキにどいてもらい、泉さんを座らせるのが一番手っ取り早い。


「ヒロキ、悪いんだけどお昼だけ席貸してくれない?」


 そういうと静かにうずくまっていたヒロキが立ち上がり、泉さんに席をゆずった。


「ありがとうございます、代わりに私の席使ってくれていいので」


 ヒロキは席を離れて、クラスの友達のとこにでも向かうと思いきやそのまま泉さんに向き合った。


「泉さん!」


「?」


 え?まさかこんなみんながいる前でお前はいつものあれを繰り返すつもりなのか!


「良かったら僕と」


「僕と?」


 またヒロキの泣き顔を見てしまう事になる!



「友達になってくれない?」



 クラスの注目を浴びる中、ヒロキの口から出たセリフはいつもと少し違うものだった。


 こ、こいつ、ちゃんと学習してやがる!



 クラスのみんなはただ静かに見守る中、泉さんはゆっくり答えた。



「こちらこそよろしくお願いします、私の事はあさひでいいですよ」

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