第5話 ただ一緒にいたいだけ
夏休みも終わり、二学期が始まった。
学校に着き、下駄箱で上靴に履き替え廊下に出ると、見知らぬ制服の子がいた。
どこにいこうとしているのか、明らかに道に迷っているみたいだった。
私は話しかけてみた。
「あの、どうしました?」
「職員室はどこでしょうか?」
「職員室だったら……連れて行った方が早いので来てください」
この学校はそこまで広くないのですぐに職員室に着いた。
軽く礼をされ、こちらも頭を下げた。
ショートの髪で短くても可愛いと思わせる顔立ちだった。何年生だろう。
そろそろ予鈴がなりそうだったので早歩きで教室に着くとほぼ全員が揃っていた。すると教室のみんなから視線をもらう。
どこからかあいつ誰って声が聞こえてきた。
「静流おはようさん」
もう席についている三月にあいさつされた。
「なんや静流の雰囲気が変わってみんな驚いてるみたいやな、可愛いもんな〜メガネ外した静流」
「な、何言ってるの。別に中身は何も変わってないんだから私は私よ」
「おーいみんな沸いてるけどただの静流やぞ、あんま気にするなよ」
三月がそういい、周りは驚いたりがっかりしているようだ、何もがっかりする事はないだろう。
そんなにメガネ外しただけで印象は変わるものなのか?
みんなの視線を浴びながら久しぶりに窓際の私の定位置の席に向かう。
目の前に飛び込んできたのは久しぶりのヒロキの泣き顔だ。
せっかく会えて嬉しいのにヒロキが落ち込んでいたら悲しい気持ちになる。
「さっそくまたフラれたの?」
「フラれたしなんなら二度と話さないで下さいって言われたよ」
私は席につき、話を続けた。
「どんな子?」
「テニス部の子でさ、朝練やっててあまりにもその姿はまぶしかったし、何よりポニーテールが可愛かったんだ」
ポニーテールか、私も今度やろう。
「あんたもさ、すぐ好きです〜とかじゃなくてさ、友達からお願いします〜とかじゃダメなわけ?」
「僕は好きになったら好きですって言いたい、そして付き合ってラブラブになるんだ」
こいつは完全にバカな恋の妄想をしている。
「そんなんじゃいつまで経っても彼女できないよ」
「わかってはいるんだけどね」
いつもならほどほどで泣き止むヒロキだが、今日は一向に泣き止む気配はない。
久しぶりにフラれたからダメージがでかかったのだろうか。
周りのみんなはそんなヒロキを笑うだけだし、先生ももう慣れたのか特に関わろうとしなかった。
今日は午前中で終わりだが、まだ泣いていた。
「もういつまで泣いてんのよ、そんなんじゃ新学期の気分が台無しじゃないの」
「そんな事言ったって、涙が心の底から溢れるように流れてくるんだ、僕にはどうしようも出来ない」
なんだかポエムみたいな事言い出したぞ。
「過ぎたことばっか考えてないでさ、また新しい恋探せばいいじゃない。コンビニ行ってアイスでも食べようよ」
そういいヒロキを連れ出した。教室を出る時に何人かの男子にあいさつされた、今日はいったいなんなんだ。
私達はコンビニに行きアイスを眺めた。
ヒロキはあずきバーを選び、私はバニラのカップアイスを選んだ。
アイスを買うとコンビニの飲食できるスペースで食べることにした。9月にはなったが外はまだまだ暑い。
二人してアイスを黙々と食べる。体に冷たさが伝わり、心地よさを感じた。
ヒロキも落ち着いてきたのか、涙もおさまりあずきバーをかじる。
アイスにかじりつき、食べ終えた私は口を開いた。
「花火大会よかったね」
「そうだな、打ち上がった時つい二人とも会話止まったもんな」
「また行けるといいな」
今度も二人で。
「そうだな、行けそうだったら行こうよ。また静流の浴衣姿が見れるしね」
「そんなに良かった?」
「良かったも何も話しかけられた時誰かと思ったもん、メガネもつけてなかったし」
「みんなそのことばっか言うけどそんなメガネのあるなしが重要なのかよ」
「静流は……可愛いっていうか綺麗なんだなって思った」
急に何を言い出すんだこいつは。
「今日も何人か男子に話しかけられてたろ? これから静流のモテ期が始まるのかもしれない」
「私がまだ一回もモテ期来たことないような言い方すんな。それに私は色んな人に好きになってもらうより、一人の人に好きになってほしい」
「静流は誰か好きになったことあるの?」
なんて言えばいいんだろ。
「もしよ、もし好きな人ができたら。そんなあんたみたいに色んな人を好きにならないのよ私は」
「静流はきついなぁ」
「あんたが軽いのよ。今度誰かを好きになったらまずは友達から誘ってみるのよ、いい?」
何アドバイスしてるんだか。
「わかった、今度はやり方を変えてみるよ、僕の事もわかってもらえるようにする」
「じゃあ帰ろ」
私達二人はコンビニを出た。ヒロキは自転車、私は学校まで遠くないので歩きだ。
「静流の家そんなに遠くないんだろ? 後ろ乗る?」
またこいつはそんな事言って、ドキドキしちゃうじゃない。
「乗る、自転車に乗れば涼しいしね」
私はヒロキの自転車の後ろに乗った。男の人の自転車の後ろに乗るのはお父さん以外初めてだ。
「肩でもお腹でもいいから捕まっておいてくれよ」
そう言われ私はヒロキのお腹に手を回し、出来るだけそっとシャツだけをつかんだ。
ほんとはくっついて抱きしめたい。
「ヒロキ」
「何?」
「どうせなら遠回りして土手まで走ってよ」
「どうして?」
少しでも長くいたいから。
「青春って感じがするでしょ」
自転車は風を切り、近くの土手を走りそのあとにちゃんと私の家まで送り届けてくれた。
ヒロキは私の家を眺めた。
「一軒家だね〜まだ新しいな」
「外側が綺麗だから、そう見えるだけだよ」
「じゃあ帰るよ、また明日」
ヒロキが帰ろうとした時、私は呼び止めた。
「良かったら、良かったらでいいんだけどちょっと家に上がってかない?」
自分でも大胆な事言ったと思った。
でも私はただ、ただヒロキと一緒にいたい。そう思うだけだ。
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