第2話 夏の休日

 夏休みになり一週間が経った。

 

 私は家から近くのショッピングモールNIONの入り口に立っていた。


 私はヒロキを待っている。昨日ヒロキとLINEでメッセージのやりとりをしていると、いつの間にかどこか遊びに行こうということになった。


 というか私がそうなるようにうながしたのだ。


 私とヒロキが住んでいる高杉市は特にこれといった名産があるわけがないベッドタウンで、どこかへ行くとなったらまずは駅前のNIONだった。


 待ち合わせは十三時だったが私は二十分も早く来ていた。本当はそんな早くくるつもりはなかったのだがヒロキにもしかしたら少しでも早く会えるかもしれない、そんな事を思うといつもよりも早く着いてしまった。


「静流〜」


 目の前の駐輪場に自転車を止めたヒロキがこっちに近寄り呼びかけた。


「おっすヒロキ、時間通りに来たね」


「何?僕が遅刻しそうな奴に見えてたの?」


「そんなことないよ…学校以外で会うのは初めてだね、私服はそんな感じなんだ」


 ヒロキは短パンにポロシャツといういかにも高校生な格好をしている。正直モテそうな凝った格好ではない。


「静流はスカートとか履くんだな、意外だ」

今日の私はデニムの長めのスカートにTシャツにスニーカー、小さいバッグを背負っている。


「似合ってない?」


「そのシンプルな感じが静流っぽくていいと思う。」


 お互いのファッションを話しつつとりあえず中へ入った。


 一階はスーパーで食品売り場だ。だだっ広く所せましとたくさんの食材が売っている。


「帰りに妹に何かスイーツでも買ってってあげようかな、ちょっと見ていい?」


 ヒロキには妹がいるんだ、少なくとも高校生ではない妹が。一つまたヒロキの事が知れて少し嬉しい。


 スイーツ売り場でこれはどうだあれはどうだと話し合いながら妹さんは苺が好きらしいので苺がたっぷり入ったケーキを買うことに決めたらしい。


「ケーキは帰りに買うとしてさ、これからどうする?」


「せっかくだしなにか映画でも見ようよ、私見たいの何本かあるんだ」


 というわけで2人で最上階にある映画館に向かった。


 映画館のフロアに着くとポップコーンを食べたり、グッズを眺めたりしている人達がいる。


「アメコミのヒーローのやつも映画やってるな、前作がこの前テレビでやってたけど面白かった」


「それ私も見た、それも見たいけど今日はあのCGのミニキャラがドタバタしてるCMのやつ」


「タイトルの一文字もわかってないじゃないか、もしかしてあれ?」


 映画館の壁際に大きなポスターが貼ってある。ハッピーハッピーラビーという執事のラビーが館主の娘のオジョーに振り回される話だ。


「意見が別れたな、ジャンケンするか!」


「言っておくけど私ジャンケン強いからね」


 三回あいこになり、ヒロキがパーを出し私がチョキを出して勝った。


 そして私達はハッピーハッピーラビーというCGアニメの映画に没頭した。


 

 映画を見終わった私達はせっかくだからフードコートでご飯を食べる事にした。


 私はマプドナルドのチーズバーガーのセットを、ヒロキはテリヤキバーガーセットを頼んだ。


「映画思ってたより面白かった、最後まさかあんな感動する流れになるとは思わなかった。」


「私も、あんな展開になるとは思わなかったけど面白かったから良かったよ。」


 まだ映画の余韻が残っており、二人ともまだ夢見心地であった。

 

 それにヒロキと初めて映画を見たりハンバーガーを食べている、これといって特別な事ではないが今この時間も夢のようで幸せに思う。私は単純だ。


「とにかく今日はヒロキの一目惚れが発動しなくて良かったよ、のんびり出来た」


「そりゃ僕だって年がら年中一目惚れてるわけじゃないさ、でもこのフードコートにもたくさんの可愛い子はいる、衝動にかられそうだ」


 もはやヒロキは冗談なのか本気なのかはわからないけど冗談を言ったと聞いておこう、また少し嫉妬してしまいそうになる。


 聞きたくはないが一つ聞いてみる事にした。


「ヒロキはもし付き合えたら何かしたい事でもあるの?」


「お互いの好きなところを100個言い合う」


「バカじゃないの」


 そんな下らないやりとりしつつ映画の感想を語り、まったりとした時間が流れた。


 

 夏でまだ外は明るいけどあまり夜遅くなると親に怒られるので私達はご飯を食べ終えて帰る事にした。


「妹さんによろしく、私も買ってあげたケーキ食べてもらってね」


「買ってあげたってすごく上から言うな〜でもありがと、ケーキ二個もあったら絶対喜ぶ」


 じゃあまたと挨拶を交わし帰ろうとするとヒロキが私にこう言った。


「今度あるさ、花火大会でも行ったりしない?静流といるのはやっぱ楽しかった」


「……うん、私はいいよ、行こう」


「それじゃあまだ明るいから大丈夫だろうけど気をつけて帰れよ」


 そういうとヒロキは駐輪場に止めておいた自転車にまたがりこっちに手を振り、帰っていった。


 ヒロキから花火大会に誘われるのは予定外だったけど、今日は勇気を出して誘ってみて良かった。


 家に着くまでに花火大会は気合を入れて浴衣を着てみようとかメガネを外してコンタクトにしようかなどと考え、浮かれながら歩いて帰った。

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