第3話
翌日、僕を見る目は人殺しと言うものと、どうすればいいのか分からないというものだった。
前者は、歩君・花さん。後者は、蒼大君・仁乃さん・真衣さん・渚君の四人だ。暮人、純さんはいつも通り。
授業ぎりぎりとなり、茅くんが来た。彼は、昨日何事もなかったかのように、僕に「おはよう」と挨拶をしてくれた。それが、嬉しかった。
次の日。僕たち、白の番。
歩君が、僕を強く睨んでいることに気づきながらそれを無視して、スクリーンの前に立つ。
スクリーンにピエロが現れ開始を告げる。
「今日は、誰ですか?」
ニヤニヤと言う。まるで、今日の犠牲者を問うかのように。
犠牲者が出るかどうかは、「回答者の答えによるります」と、言うように僕は、挑戦的に彼を見た。
すると、ピエロは一瞬驚いた表情を見せそして、声を出し笑った。
「羽柴歩」
僕は、彼の名前を告げた。歩君は、僕を殺さんばかりにさらに強く睨む。
「では、羽柴歩。貴方は、山里渚と、今は黒側にいる今井優也とともに人を殺した。頭部を何度を殴り、子供三人で大人一人を」
「あぁそうだ。」
歩君は即答だった。
もしかすると彼は、この質問がいつか来ると分かっていたのだろう。
僕は、彼の過去を聞いて驚いたがそれを表には出さない。
「歩っ!」
渚君が彼の名前を呼びかる。
渚君は、知られたくなかったのだろう。
「まだ、終わっていませんよ」
ピエロが、訝しげに言う。
まだ終わっていない?質問は、三人で人を殺したことではないということ?
「殺した人は、今井優也の父親。その遺体は、バラバラに解体し貴方の家の庭に埋めた。この、殺人計画を立てたのが貴方だ」
「そうだ。すべて本当だ」
ピエロは、その後何も言うことなく消えた。
僕は、正しく駒を動かす。
二日後。白の番。
僕は、山里渚くんを指名する。
質問内容は、
「白を裏切り、黒に情報を売っていた」
渚君か歩君、どちらかを指名すればいつかこの質問が来ることを、想定していた。こんなに早く来て時間を使わなくって良かった。
質問の返答は、是。
渚君は、駒が進むのを見、走って出ていった。彼が、どんな顔をしているのか分からなかった。そんなこと、どうでもよかった。
渚君を追うように歩君も出ていった後で、僕は自室に戻る。
花さんの横を通り過ぎたとき、
「今度の犠牲者は、彼らかよ」
と、言われた。
自分の部屋に戻った後は、真っ暗な中でベッドの上で縮まる。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫。」
何度も、そう繰り返す。でないと、くじいてしまいそうだから。僕のエゴで誰かをわざと犠牲にしなければいけないことに、耐えられそうにない。
どれくらい経ったか。あれから、数分か、数時間か。
僕は、誰か、純さんに抱かれていた。いつ彼女が入って、来たのかも分からない。
繰り返していた言葉も、止まり驚く。
「純、さん?」
どうして、と顔をそちらに向けると意外と近くにあった顔に再び驚く。
「ふふ。なぁに、やってんの?もっと堂々としなきゃ」
状況が呑み込めずいる。
「九十九君が何をしようとしているか察しはついてるよ」
僕は誰にも、言っていない。これからしようとしていることは、人を殺すかもしれないことだ。
「それについては、追及しない。何か言う資格何て私にはないからね。でも、これだけは言わせて、一度始めたものは、途中でやめないでね。」
純さんは綺麗に笑う。
その名前も知らない誰かの顔を、思い出させる笑顔に目が離せなくなる。
「なにやってんの?」
ふいに、声をかけられて我に返り純さんから顔を背ける。
誰かに見られていたと知り、顔が熱くなる。今僕の顔は、真っ赤に染まっているだろう。
「どうしたの?暮人君」
僕を抱きしめたまま純さんが問いかける。
「どうやったらそんな状況になるんだよ」
ドアから声をかけ、部屋の中に入って来た暮人が聞き返す。
そこで、僕が未だに純さんに抱きしめられていたことに気が付く。そっと彼女の腕を外そうとするが、反対に強く力を入れられる。
困惑する僕と、呆れたように僕たちを見る暮人に純さんは、
「思い悩んでいるみたいだったから安心させようと思って。いいじゃん。あ、暮人君にはやらないから安心して。」
と、さも当然と言うように言った。
「頼まねぇよ。九十九お前もそいつになんか行ってやれ」
羞恥心で顔を赤くする暮人が僕に振る。特に何もないなと思いながら、とりあえず、
「もう大丈夫だから、離して」
と、お願いする。すると、なぜか頬を膨らませ不貞腐れて離れてくれた。
なんで?
「暮人君はどうして此処に?」
僕の横に座り直した純さんが聞く。
「あいつらどうするつもりなのか、聞きに来たんだ」
暮人の言うあいつ等とは、歩君と渚君のことだろう。
「別にどうするつもりもないよ」
「それじゃあ、示しがつかねぇだろ。あいつらは俺たちを裏切って自分たちだけ生き残ろうとしてたんだぞ」
僕の答えに、暮人は怒りを露わにする。
それもそうだろう。僕は、二人に対して何もしないと言ったから。
「彼らは、僕たちを裏切って自分たちだけ生き残ろうとは思ってないよ」
「なんで言いきれるんだよ」
「このゲームはどちらかしか生きて出られないから」
暮人の疑問に答えたのは、純さんだった。
「そう。黒に付いたところで死なないとは限らない。むしろ、黒が勝つと死ぬ確率の方が高い。多分、死を覚悟して裏切ったんだろうね。その理由までは分からないけど」
そもそもどちらかが勝ち、このゲームが終ったとき残った敗者がどうなるか分からない。それは、あえて言わないでいた。
「けど、何もしないのは俺は反対だ」
「それでも、僕は生きて欲しいんだ。けど、何かあったときそのときは一番先に犠牲になってもらう。すぐに切り捨てられる駒、そういうのも必要でしょ」
弱気なところを見せないように、笑って見せる。
「お前が一番容赦ないよな」
そんなことないよ。切り捨てる覚悟をすることだけで精一杯なんだ。弱音を、吐かないようにするここで内心必死。
「それ、どういうこと?」
ドアが開いていたらしく、そこから覗いていた蒼大くんが驚いたように言った。
まさか彼が聞いていたとは、思わず僕も、暮人、純さんも驚いた。
「歩と渚を駒って、本気?裏切り者だからって殺すのかよ」
「此処にもいた、甘ちゃんが。さっさと居なくなってくれた方が俺らは生き残れる確率が上がるんだよ」
もう一人の甘ちゃんは、僕のことだろう。暮人はまだ納得していないのかな。
「すぐ、じゃないよ。そんなときが来ないといいけど」
補足するように言う。
「蒼大君は、嫌?」
純さんが、彼を見つめ聞く。
それは駒として殺さずに生かすことか、それともすぐにでも退場させないことか。純さんからその真意は、読み取れない。
「俺は、すぐにでも、居なくなって欲しい。」
「なんだ、駒として扱うのも反対するかと思った。」
蒼大君の予想していなかった答えに、暮人は意外そうに言う。
「でも、死んでほしくない。さっきまで普通、じゅあないけど、クラスメイトだったんだぞ。俺らを、裏切って殺そうとしてた。だから、殺す、ってのは、なんかためらうっていうか、」
蒼大君は苦しそうにそう言った。
僕も同じだ。殺したくない。だから、少しでも生きていられるように、できれば一緒にここを出られるように駒、として扱うことにした。それが、甘いってことは理解している。
ここから先、誰かを切り捨てる時が嫌でも来る。それは、このゲームからでた後の方が多くなるだろう。それなら、今残虐になっておけば心を、殺すことが上手くなる。
もちろんそんなこと、言えないけど
「それでも、生きたいんだ」
蒼大君に邪魔されるされるのは、避けたい。だから、駒、とするを後押しすることをあえて言う。
すると、以外にもすんなりと
「わかった」
と、言ってくれた。
「だだし、駒と扱って二人を退場させるときは事前に言ってくれ」
蒼大君の条件に、僕は頷いた。
そしてそれは、すぐに予想していなかったときに訪れた。
* * *
あれから、一週間後。三時間目、日本史の授業。
犬のぬいぐるみが、授業中にも関わらず話を脱線させた。内容は、神と崇められ同時に化け物と恐れられた姫の話。
とある国に生まれた姫。姫は、神から六つの力を授かった。
その時代、ゾンビが人々を襲い混沌の世界だった。
姫は神から授かった力で、ゾンビと戦った。戦い人、人が安全に住める地区を作り上げる。
長い戦いの中、姫はたった二十という若さでこの世を去った。
姫は死ぬ間際、五人の側近に己の力を渡していた。
石化、人形使い、重力操作、気候操作、腐敗の力、それぞれの力を譲り受けた側近たちは、姫に変わって人々を守るために人の頂点に立った。
ただの作り話だと思った。多分皆もそう思っている。だけど僕は、最後まで聞いて違うとなぜか思った。
それは、彼が突然意味のない話をするとは、思えなかったからか、それともどこかで聞いたことがある話だったからか。
ぬいぐるみが話終えるのと同時に、黒板の前にスクリーンが降りてきた。そこに現れたのは、ピエロ。
どうして、いままで質問時間以外姿を見せること無かったのに。
何か起こる前兆だと思い、身構える。
「こんにちは!これから、スペシャルなチャンスを皆さんに与えます。これで、駒が動くということが無いので安心してください。それでは、始めます」
「あのう、これから何を、するのですか?」
皆の疑問を代弁するように、真衣さんがピエロに問う。
「いつもと同じ、ですよ。ただ、私の質問に答えればいいだけ。」
彼が何かを企んでいる、ことは読み取れる。だけど、それを阻止できない。
「回答者は、立花悠さんです」
これは、ピエロのじきじきの指名のようだ。
「貴女は、市ヶ谷さんのこと、彼女の一族のこと、すべて知っていますね。」
仁乃さんの方を見ると、彼女は青白い顔で立花さんのことを見ていた。当の立花さんは、何一つ顔色を変えず、
「いいや、知らない」
と、答えた。
「ふ、フハハハハハハハ」
誰かが、歩君が可笑しそうに声をあげて嗤う。そして、
「よくやった。立花」
と、彼女を褒めた。
どういうことか分からす、彼を見る。歩君は、未だ可笑しそうに嗤っていた。
「立花さんは、僕たちとグルだよ。」
そう言ったのは、渚君。
「ねえ、九十九君僕たち、裏切り者は二人だと思っていた?
裏切り者は、僕、歩、そして立花さんの三人だよ」
暴露する彼。彼女も裏切り者だったなんて思っていなかった。だって、彼女は市ヶ谷さんに気がある歩君のこと嫌っていたから。
「九十九、お前本当に甘いよな。さっさと俺らのこと捨てればもう少し違った結果になったのによ」
嘲笑うように、歩君が言う。
「これで、このチャンスは失敗。報酬も受け取れない。ざまぁ」
え?それって、つまり
「悠は、私のこと知っていたの?」
嘘だと、否定して欲しいと、市ヶ谷さんが言った。
そうだ、失敗ということは、立花さんは嘘をついたということだ。
「本当に、残念ですが。失敗、です」
ピエロが、追い打ちをかけるように言った。
「嘘だっ」
市ヶ谷さんが、叫んだ。
「うそ、でしょう?知っていることが嘘で、本当に知らない、そう、でしょ」
今にも泣きだしそうし市ヶ谷さんは、立花さんに縋りつく。
「ごめ、ん」
立花さんは、そう言った。
「なんで、」
市ヶ谷さんは、力を失くしたようにその場に座り込む。
「仁乃、生きて。自由に、憂いはあたしが払うよ」
「え?」
飛び切りの笑顔で、言った立花さんは銃を取り出し二発撃った。
撃たれ、倒れたのは羽柴歩と山里渚。彼らは、朱い血を流しもがく。苦しそうに。生に縋りつくように。
「立花悠さん、質問に正直に答えられなかったため退場、です」
無情にもピエロは、そう告げた。
この場にいた、犬のぬいぐるみが彼女を連れていく。
「待って、…待って、連れていかないで、裏切り者でもいい、私の全ていてもいい、私を嫌いでもいい、から、いかないで」
市ヶ谷さんは、手を伸ばす。が、それは届かない。
教室を出る、直前立花さんは立ち止まり、振り返った。そして、
「大好きだよ、仁乃」
と告白した。
「残念ながら立花さんのせいで、大切なチャンスは失敗です。そして、羽柴歩、山里渚の両名の死亡。これにより、白の駒は七名。頑張ってくださいね」
ピエロは、そう言って消えた。
授業は終わったが、教室から出ようとはしなかった。
市ヶ谷さんが、泣いてその場から動こうとしないから。純さんと真衣さんが、慰めようと彼女の背中をさする。
「…で、なんで、私なんかのそばに、いてくれたのかな」
泣きながら、自嘲気味につぶやいた。
「何にもない、親からも、見放された空っぽなのに。…ねぇ、あなたもそうでしょう?浅井君」
僕?
泣いて赤く染まった市ヶ谷さんの瞳が僕をうつす。
「どういう、こと?」
どういう意味か分からず聞く。
「出来損ないだから、いらない子だから、こんなところに入れられた。じゃなきゃ、浅井のご子息がこんなところ、来ないでしょ」
やっぱり、意味が分からない。確かに、父親は会社経営をしている。つまり、僕は社長令息となる。けれど、それとこのクラスにいることとは、関係ないはずだ。
「隠しているの?」
なにを?
そこで、本当に僕が何も知らないと理解した彼女は僕から視線を逸らす。
市ヶ谷さんは、そのあとよろよろと歩いて行ってしまった。
市ヶ谷さんは、変わった。優しく微笑むことが無くなり、誰に対しても親切だったのに冷たくなった。
昼休み、僕は暮人と蒼大君と一緒にご飯を食べながら話していた、話題は市ヶ谷さんのこと。
彼女は、純さんと、真衣さんと一緒にご飯を食べている。一人にして欲しいと雰囲気が言っているが、構わずといったように二人は常に一緒にいる。
因みに、茅君は今この場にはいない。昼休みに入ると同時に、出ていってしまった。いつもは、僕といてくれるけど、居ないから暮人が来てくれた。蒼大君は、いつも一緒に食べてくれる。
暮人と茅君が話しているところ何て見たことが無い。だいたい暮人が茅君を避けている。
「仁乃ちゃん、かわったよな」
彼女を見ながら言ったのは、蒼大君だった。
「そうだな。前も、今も無理してそうだけど」
「どういう意味?」
暮人の言ったことが分からないような、蒼大君が聞く。
前は、優しく優等生で何かを抑え込んでいるようだった。そして、今は悲しむことをやめている。
「自分を押し殺しているってこと」
「悪い?」
聞こえていたのか、市ヶ谷さんはこちらを睨みつけていた。
「ずっとそうやって生きてきたの。これ以上嫌われないために。いい子
ちゃんの仮面を演じて必死に。本当の自分なんて分からない、愚かで、悪い子なの」
初めて市ヶ谷さんの本音を聞いた気がした。いつも、自分よりも他人を優先してきた。
「そうかな、僕はとってもいい人、だと思うよ。それに、無理して笑っているより、今の方が自然だよ。」
こんな時、気の利いた一言すら言えない。
この後、チャイムが鳴りこの話は終わった。
夕方。質問の時間。
酷だと思ったが、守るために市ヶ谷さんを回答者に選んだ。
「市ヶ谷仁乃さんあなたは、この世界の真実を知っていますね」
彼女は一度深く息をした。そして、
「いい「ちょっと、待って」
嫌な予感がして、彼女の言葉を遮る。ピエロが、怒りそうだが、気にしない。だって、市ヶ谷さんは嘘をつこうとしているから。そう思ったのは、勘だけど、退場せれるのは駄目。
止めたのは、いいけど何を言えばいいのか分からない。何か、言わないと。
「悠ちゃんは、仁乃ちゃんを守ったのよ。彼女の思いを無駄にするの?生きて欲しいという願いを」
そう言ったのは、純さんだった。
彼女と目が合う。そして、頷いた。純さんも気づいたんだ。
「市ヶ谷さんは嫌われないために、立ち向かった。逃げ出さずに。僕は、逃げた。愚かだも、悪い子でも、いいよ。立花さん言ってたでしょ、”生きて”って。死んだら、彼女の思いを裏切ることになるよ。」
「ずるいな。九十九君は、そうやって悠のこと出して」
「そろそろ答えてくれません?」
痺れを切らしたピエロが苛立ちながら言った。
市ヶ谷さんが、ピエロに向き直る。
「はい。だって、私市ヶ谷の人間だもの」
彼女の表情は見えなかったが、声はどこか誇りの色が混じっていた。
「正解です。市ヶ谷仁乃、さん」
ピエロは、なぜか”市ヶ谷”を強調して言い、消えた。
そして、消えた後映ったのはチェス盤ではなく、真黒な画面だった。
「どういうことだ?世界の真実って?」
暮人が言う。
それに対して、市ヶ谷さんは、
「今は知らない方がいい。でも、ここを出れれば知ることになる。嫌でも。」
と言った。市ヶ谷さんは、どこまで知っているのだろうか。
「楽しんでますかぁ?」
そう言って現れたのは、ピエロだった。再び現れた彼に驚く。
どうして、次は駒を動かすはずなのに。
「もー面倒なのでゲームを終わらせてしまいましょう。
回答者は、姫倉純さんです。」
そう言ったピエロは、指を鳴らし反対側にスクリーンを出す。そこには、チェス盤が映しだされていた。
* * *
真っ暗な部屋。
そこには、瀬戸茅が一人いた。
茅は女の子が写った写真を見ている。
「もう少しだよ、澪。あと少しであいつは、死ぬ。だから、早く起きて」
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