第2話


 ゲーム開始から、一ヶ月がたった。現在生き残っているのは、白・十一人、黒・十人だ。


 この一ヶ月で、分かったことと言えば、質問に正直に答えれれば駒を取られようとも、消えることがない。まるで、何事も無かったかのように初めの位置に戻る。

 また、質問を嘘、偽りで答えると即退場。それで、一人うしなった。

 そして、ゾンビは授業以外の時間はでない。これは、仕組まれているのだろう。




    ~ ~ ~




 ピエロからの質問は、日を追うごとにだんだんとその人にとって触れて欲しくないような内容へとなっていった。


 誰かに触れた欲しくない内容それは、自分の過去。

 知られたくないのは、黙っていることで自分を守ることになるから。


 最初の犠牲となったのは、江波真衣さんだった。

 彼女を前にいつものようにピエロが問う。


「貴女は、家族に貴女だけ残され、心中された」


 と。

 それまで、意気込んでいたのにそれを聞いた途端、目を見開き驚いていた。

 そんな、彼女にかまわず続ける。


「一人残された後、親戚中たらい回しとなる。そして、居心地が悪くなり夜遊びを始める。それが中学一年後半。二年になったある日、ある不良グループに目を付けられたせいで、たった一人の親友がレイプされそのショックで、自殺。失ってしまった。」


 真衣さんはピエロを、恨みのこもった目で睨みつけていた。


「さぁ、答えは?」


「・・・」


 答えない。ただピエロを睨みつけるだけだ。


「あれ、答えられませんか?脱落、でいいですか?」


「・・・はい、そうです。」


 ようやく答える。けれど、そう発した声は何の感情もこもっていない。


「突然、家族に死なれて、親戚中をたらい回し。迷惑かけたくなくて、帰らなかった。中一の時、喧嘩の仲裁に入って殴った相手がいい噂を聞かない不良グループだった。奴らに目をつけられて、たった一人の親友を奪った。奴らは、なにをしたと思います?ピエロさんなら知っているでしょう?レイプしたんですよ。あたしの目の前で。その後、彼女は自殺しました。あたしのせいでっ!

 なのに、誰もあたしを責めてくれなっかた。遺書であの子が、嘘を、ついたから。あたしは、関係ないって。


 これで、満足ですか?」


 だんだんと早口に興奮しながら、吐き捨てるように言った。


 いつも明るくって、人を落ち着かせるのが上手い人だから、大きな闇を抱えていとことに驚く。

 僕は、無意識に江波さんの方を見ていて、スクリーンがチェス盤に変わっていたことに気づかなっか。

「九十九?」

 茅君に呼ばれようやく意識が、スクリーンへと向く。

 白のポーンを前に進めた。

 その後、江波さんは自室へと引きこもった。誰も彼女に話しかけることはなっか。

 江波さんが出てくるのは、授業だけとなり、その様子は暗くどうやって話しかければいいのか、分からず皆彼女のことはそっとしておいた。


 二日、という時間はすぐにきた。

 回答者は、ポーンの土佐蒼大さんだ。


 内容は、彼の過去だった。


「君は、家族を殺した人殺しです。」


「ちがうっ!」


 即座に強く否定する。泣きそうに、どこか焦る様に。


「そうですか。では、その真相は?」


「え?」


 それを、言えというのか。みんなの前で。

 土佐さんは、目を大きく見開いて立ち尽くしていた。


「違うのであれば、言えるでしょう?あの事件の真相を」


 ここで、僕が止めに入れば強制退場となるだろう。今は、彼の番だ。


「…小6のとき、家に帰ったら、家族が殺されていた。ぐちゃぐちゃになってもう誰か分からないくらいだった。それから、警察が来て、家の中を、調べていった。家が荒らされていなかったこと、死んだ時間と俺が家に帰ってきた時間が一緒だったこと、から、あいつらは、俺を捕まえたんだ。おれは、やってないのに」


 言い終わると同時に、土佐さんは崩れ落ちるように座りこんで泣いた。


 ピエロは、それを聞いて満足したのか気が付くと、スクリーン画面が変わっていた。

 こんな時でも、ゲームは進むのか


「・・・だよ。なんなんだよ。おれ、あいつに何かしたかよ。人の過去、聞いて、楽しいのかよ。おれはっ!」


「やってないんだろ」


 泣きながら叫ぶ土佐さんの言葉を引き継ぐように、言ったのは暮人だった。

 暮人はいつの間にか土佐さんの前に立ち見下ろしていた。彼は、驚いたように暮人を見る。

「誤認逮捕、だろ。大体お前が、人なんか殺せるような奴じゃないだろ。」

「そう判断するのは、どうなんだ?俺たちはまだ、一ヶ月やそこらの付き合いだろ。そんなんで、分かるのか?もしかして、嘘かもしれないだろ」

 まるで、土佐さんを人殺しと決めたように言ったのは、立花さんだった。


「や、それないだろ。蒼大が言ったのな本当だ。じゃなきゃ今ごろ、退場させられたるだろう。」


 羽柴歩さんがかばう。

「そうだよ。土佐さんは人殺しなんかじゃない。花、疑いすぎ」

 市ヶ谷さんが、怒ったように言うと、立花さんは分の悪い顔をした。


 僕は当時すでに引き籠っていたから、中学生が家族を殺したというニュース何て見ていない。おそらく、警察が、彼を逮捕したのは何かしら理由があるのだろう。だから、その事件は秘密裏に処理された。とはいえ、どんな理由があろうともそれは許されたことではない。

 土佐さんが少年院に入って、たった三年で出られたことも引っかかる。そして、その後何事も無かったように、暮らしているなんて、おかしいのだ。当時を知っている人が居て、何かしら噂とかになってもおかしくはない。まるで、何か公表したらまずいこと事件のようだ。


「蒼大の過去何て今は、どうでもいいんだよ。お前の、過去を否定したところでここから出られないんだから」


「そうだよ。ここで、誰の、どんなことを知ろうとも、関係ない。人の死を目の当たりにしていようとも、ね。私たちは、生きなくちゃいけないの。

 それに、私は、どんな過去があったとしてもこうして出会えてよかったとおもっているから。だから、大丈夫だよ。私たちは、一緒だから。真衣も、蒼大君も、元気ないとみんな心配するし、調子狂っちゃうよ」


 蒼大と、姫倉さんが二人の調子をも出そうと言った。

 土佐さんと江波さんの目から涙が流れる。

 二人はすごいな。あっという間に、二人を元気ずける言葉の力を持っている。僕にはできない。うらやましいな。


「ほら、九十九君も何か言ってあげて」

 姫倉さんが突然言う。

 土佐さんと、江波さんがこっちを見る。

「えっと・・・ぼ、僕も、土佐、蒼大君と真衣さんと同じクラスで、チームメイトになれて、よかった、です。」

 名字で呼ぶのはなんか違う気がして、勇気を出して名前で言った。恥ずかしくって、顔が熱い。

「はは、なんで敬語なんだよ。俺も、九十九と一緒でよかったよ。」

「わたしも。よかったです」

 二人が、笑ってそう言ってくれた。

「そうだな。最初は、頼りなかったけどお前がキングでよかったよ」

「暮人お前、あれだけ九十九を嫌ってたのに、ふっ」

 暮人が僕を褒めると、歩さんがからかうようにつついた。

「うっさい」

 暮人が、歩さんに向かって攻撃する。が、それを綺麗にかわす。二人とも、戦闘能力が高いから、ヒートアップしていく。

 しだいに、

「いいぞ、もっとやれ」

 とか、

「怪我したら危ないからやめようよ」

 なんて声が投げ掛けられる。当の二人はそんな声が聞こえているのか、いないのか分からないが、彼らは笑みを作りその喧嘩を楽しみだしていた。

 レベルの高いそれに、僕は見入っていた。


 だから、気づかなかった。僕と、純さんを睨んでいる彼に。





    ~ ~ ~





 薄暗い部屋。この部屋を、照らす明かりは無数の画面。

 画面に映し出されたいるのは、白と黒のゲームの様子。画面前に座っているのは、ピエロ。

 ピエロは、黄色の鳥のぬいぐるみから渡された、資料に目を通す。

 そして

「やっぱり」

 と、つぶやいた。


 資料には、瀬戸茅の写真が添付されていた。

 鬼灯茅。

 瀬戸は、母親の旧姓。鬼灯家の第三子。

 鬼灯家は、古くから浅井家に仕えるか家系だ。

 高校入学前に、暴力事件をおこす。それにより、おちこぼれクラスへ。

 日高澪とは、知り合い。

 浅井九十九をひどく憎んでいる。






    ~ ~ ~






 真夜中。僕は、寝付けなくって共有室にある本を借りようと思って、本棚の前まで来た。

 一冊の本を手に取って、自室に持ち帰る。その本を開くと、封筒に入った手紙が挟まっていた。

 封筒には、宛名も宛先も書かれたいない。悪いと思ったけど好奇心に負けて、封筒を開けてその手紙を読んでしまった。

 内容は、残酷な真実だった。




 このゲームの参加者へ

 これを読んでいるということは、ゲームに突然参加させられた、ことだろう。ゲームの進行が、どこまで行っているのか分からない、もしかしたらすべて知っているかもしれないな。知らないと、想定して真実を記しておく。

 この世界は残酷だ。どこまでも。無慈悲で、生きていることが辛くなるくらいに。これを読んで、絶望するかもしれない。けれど、君たちは知らなければいけない。

 この世界は、このゲームと一緒だ。塀の内側にいるものは、何も知らず平和。すべてを知るものは、その責任と重圧を背負う。

 世界は、各国が巨大な塀を作り居住区域と立ち入り禁止区域と分かれている。日本は、東京・名古屋・大阪・福岡・札幌の五都市。それに対して疑問に思ったことはないか?なぜ五都市以外絶対に立ち入ってはいけないのか。その、五都市でも移動は飛行機以外禁止なのか。

 そもそも疑問にすら思ったこたが、なかっただろう。そうなのは、政府によって仕向けられたいるからだ。

 何故、各国が塀によって居住区域を確保してるか。それは、この世界に、ゾンビが存在するから。奴らは、長い年月人間の生活区域を侵しているのだ。

 安全な居住区域から一歩でも出てしまえば、そこにゾンビがおり、たちまち奴らの餌食になる。

 ゾンビの存在は、世界政府機関(対ゾンビ機関)によって隠されている。そして、彼らによって研究が行われている。

 ゾンビは正体不明の生物。再生不可能にするには、首を切り落とす。再生能力は個々違うが、確実なのは首を狙うこと。ゾンビは、死体から生まれる。人間だけを襲い喰らう。知能はないが、群がるのが特徴とされている。

 機関、通称軍が、ゾンビと戦っている。

 軍を率いているのは、九家と呼ばれる九つの一族だ。彼らは、この世界を牛耳っている。近づかない方が得策だろう。

 このゲームは、軍人を選抜するためのものだ。社会から見放された子供を集めて、機関が主導で各国で行われている。

 奴らは、君たちのすべてを知っている。死にたくなっかたら、正直に質問に答えろ。

 ここで死ぬのも、生きて軍に入っても待っているのは地獄だ。

 だけど、どうか生き残ってくれ。俺たちの人生を踏みいじりやがった奴らはに、報復する覚悟があるのならばな

 君たちがどこまで生き残るか祈ってる 


                          より


 全部読み終えた僕は、力をなくしたかのようにベッドに寝込んだ。

 最後のところだけ文字が霞んでいて分からくなっている。けど、これがこのゲームに生き残った人が書いたことだけは、読んで分かった。

 ゾンビに初めて襲われた日に思った、このゲームはこの世界にどこか似ている。あれは、合っていた。

 何も知らされずに、隔離された世界。それを不思議に思うこともなかった。まるで、そう思うことすら禁じていたかのように。


 どうして、こんな事あんなところにおいてあったの?こんなもの見てけさえいなてれば、読まなければ真実何て知らずに済んだ。

 この手紙は、僕にとってパンドラの箱に似たものだ。

 ここから出られたとしても、今まで通りの生活はもう送れない。手紙を読むかぎり待っているのは、残酷な世界との戦いだ。

 そんなもの知ってどうしろというんだ。

 皆に言うことなんて、できないよ。



 集中、していなかった。

 ずっと手紙のこと考えていて、頭が回っていなかった。

 だから、間違えた。そんなの言い訳。けれど言い訳しなければ、壊れてしまいそうだ。


 ポーンがとられた。

 それは、上野香弥さんだ。次で、取られることくらい分かっていた。それを、避けることもできた。けれど、しなかった。


「あ・・・・」


 思わず声が漏れる。

 彼女は、前回今回ともに回答者じゃなかった。つまり、強制退場の対象者だ。

 くまと犬のぬいぐるみが現れて彼女を連れていく。あまりにも、あっさりと。

 僕はただ見ていることしかできなかった。


 ガシッ


 歩君に胸倉をつかまれる。


「おい、何やってんだよっ!!これまで、お前の指示で犠牲者が出ることなんてなっかた。皆信じてたのに、裏切るんじゃねぇよ。こんなミスすんなよ。お前のミス一つで人が死ぬとこ忘れてんじゃねぇよ」


 そう言って、手を離されて尻もちをつく。

 歩君は、そのままどこかいってしまった。他の皆もどこか行く。


 本当に何やってんだろう。

 歩君の言った通りだ。僕の選択一つで、言葉一つで皆の生死に関わっているのに。他のことに気を取られてこの結果だ。

 普通のゲームなら切り替えられる。けれど、これは普通じゃない。もう取り返しがつかない。もう、僕には、


「九十九」


 暮人が、呼ぶ。皆と一緒に出ていかなかったのか。いっそ出ていってくれた方がよかった。

 どんな顔して、目を合わせていいのか分からずうつむいたままでいる。

「お前、これからどうするんだ?」

 そんなの僕にだって分からない。

 どうすればいいのかなんて分からない。だいたい僕には初めから荷が重すぎたんだ。

「おい、どうするんだって聞いてんだよっ!」

 勢いよく再び、今度は暮人に胸倉をつかまれ無理やり視線を合わせられる。それが嫌ですぐに、視線をそらした。

「ちょっと、落ち着いて」

 割って入って来たのは、純さんだった。彼女もまだいたのか。

 純さんのおかげで、暮人につかまれていたことから解放される。

「今日、ずっと上の空だっただろ。」

「私もそう思った」

 二人に気づかれてたんだ。

「そんなことで、選択間違えて、仲間一人犠牲にされちゃたまったもんじゃない。俺らが騒ごうが、九十九、お前が俺らのキングなんだ。だから、なんか悩んでんなら言えよ。解決できるかもしれないし、一緒に悩むことくらいできる。だから、言ってくれ。俺ら友達、だろ」

「頼むよ」と、力なく言う。


「・・・ごめん、言えない」


 言えない。あぁ言ってもらったのは、嬉しい。けど、あのことはまだ、僕には言う勇気何てない。

「はぁ九十九」

「ちょっと」

 怒る暮人を、純さんがおさえる。


「もう、・・・もう、どうすればいいのか分からない。犠牲者が出ないように僕なりに頑張った。なのに、結局僕は」


 死なせてしまった。自分で自分を責める。


「そっか。じゅあ九十九君はどうしたい?どうする、じゅあなくてこれから、九十九君は、どうしたい?」


 これから僕がしたいこと・・・


「・・・僕は、ここから、生きてでたい」


 そのあとに、どんなことがあってもここにいては何も分からない。それに、あの手紙を書いた人に会ってみたい。

 ここから出て、その先のことはここから出て考えればいい。僕は、初めから死にたくなかった。こんなところで、死んでたまるか。

「うん。私もそうだな。まだ、やりたいことあるから。ここから出て、やりたいことがしたい。暮人くんは?」

「俺は、俺もここから出たい。出てやる。こんなゲームに連れてきた、ピエロを一発殴らないと気が済まない。」

 そう息巻く暮人に、純さんと二人で笑う。彼らしいと。

「てか、ここから出たいのは皆一緒だろ」

「いいんだよ。もー」

 暮人が言ったことに、純さんが頬を膨らませ言う。


 覚悟をしないと。しよう。僕を友達だと言ってくれる、彼らのために。

 生きる覚悟

 勝つために誰かを犠牲にする覚悟

 ここから出た後の覚悟

 全てを知った後、知っていたのに黙っていた罰を受ける嫌われる覚悟



 早くこのゲームを終わらせよう。テックメイトまでもう少し。

 その前に、裏切り者を探さないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る