第三の手稿


 わたくしは夜半、轟く胸を押さえつつ、これまでの経緯を書き記しながら、来訪者を待っておりました。ドクター・ロンフルマンのお指図で乗り込んできたのは四人の屈強な男どもで、城の下男と見紛う扮装の彼らは各自、馬を木に繋ぐと、テキパキと作業にかかりました。警備の関門はなにがしかの手を使って、やすやすと突破したのでしょう。

 彼らはコンスタンティン様のご遺体をシーツに包んで運び出しました。一人だけくだんの小部屋に残って、殺人の痕跡を拭う役を務めるようでした。

 わたくしは燭台を捧げ、他の三人について庭園へ下りました。僅かな明かりしかないにもかかわらず、慣れているのか、一同は驚くほど手際よく秘密の花園をシャベルで蹂躙し、薔薇の株を掘り起こして、あっという間に墓壙ぼこうを設えると、月明りで青白く光るミイラのようになった亡骸を横たえました。の掃除をしていた男も程なく駆けつけ、置き去りにされていたコンスタンス様のダブレットやタイツ、そして長短それぞれの剣と、例のボロ布……もとい、コッドピースを静かに重ねて置き、少しずつ土を被せて元通りに薔薇を植え込むと、何事もなかった風に始末を終えました。

 ロンフルマン先生がお考えになったのは、証拠を秘匿して、何ゆえかは定かならねども――ご一緒か、あるいは別々のご事情でか――ともかく、ご姉弟きょうだいが出奔されたていを装うことでした。そうして時間を稼ぎ、ご遺体が骨ばかりになって性別の見分けがつかなくなれば、もし誰かがここを掘り返したとしても、一緒に埋められた装束から、亡くなったのはコンスタンス様だと判断されるだろう……と。

 ですから、当初は共に葬る気でいたあの指環をグッと握り締めたまま、作業に立ち会いました。とはいえ、後日どなたかに見咎められてはことです。わたくしの手許てもとにこれがあると余人に知れたら、弁解しようがございません。コンスタンティン様の行方について、きつく問いただされるに決まっています。そこで、メアリに頼まれてまとめた貴重品の中に紛れ込ますことにしました。せっかくコンスタンス様がくださったのだから、大切にしなければ申し訳ないと思いつつ、やはり、どうにも忌まわしく、不吉な目印のように感じられたので。いいえ、決してメアリに、わたくしの代わりに災難が降りかかればよいなどとよこしまな考えをいだいたわけではなく……。

 ああ、夜目にも美しい紅薔薇の群れが風を受け、わたくしを嘲笑うようにざわめき、揺れています――。

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