第二の手稿③

 だとしたら、コンスタンティン(略)様は、いずれ周囲に正体を暴露しようとも、女性として暮らすことを選ばれるのか。女の心でエドガー様を慕っているのか、それとも、男としてエドガー様を特別な方と考えながら、女の装いを続けて寄り添われるおつもりなのか。あるいは、エドガー様とは関係なく、ただコンスタンス(略)様と美しさを競い、張り合いたいお考えなのでしょうか。ああ、頭が混乱してまいりました。わたくしには判じかねます。

 コンスタンス(略)様は、どう思っていらっしゃるのでしょう。恐る恐る視線を向けますと、傲然と顎を上げ、コンスタンティン(略)様に向かって半ば命令口調で、

「来い。そのままでは辛かろう。手伝うぞ」

 エドガー様が帰られたのだから、遠慮せずに指環を外してはどうかと、コンスタンス(略)様はおっしゃいました。次に対面が叶うまでに、細工師にリングを広げさせ、サイズを調整してもらうがいい――と。コンスタンティン(略)様は胸の前で両手を重ね、同意を示して小さく頷かれました。

 ご姉弟きょうだいは別室へ移動されましたが、わたくしは、ふと嫌な予感に駆られましたので、小間使いのメアリに目配せしました。メアリは無闇に足音を立てず、猫のように静かに行き来できるのです。わたくしは密偵の帰りを待ちながら、室内をグルグル無意味に歩き回りました。すると、

「……!」

 密やかな足取りが取り柄のはずのメアリがバタバタと駆け戻ってまいりましたが、顔は真っ青、唇をわななかせ、呼吸も覚束ないありさま。必死に手振りで何事か訴えようとしています。わたくしはピッチャーを傾けてカップにエールを注ぎ、メアリに飲ませました。ややあって、

「大変です、コンスタンス様が!」

 はて、メアリはご姉弟きょうだいしていることを知っていたろうか。知らないはずですが、いずれにしろ、どちらが何をなさったのか判然しません。自分の目で確かめるしかなくなったわたくしは、お二人の行き先までメアリに案内させました。

 着いたのは、奥方様がお輿入れの際に持ち込まれたお道具を整理して、普段お使いにならない品々を収納された小部屋でございました。なるほど、香油の陶器瓶くらい、あるかもしれません。それを潤滑剤として指環を取り外すご算段かと思いつつ、扉を開けると――。

「あっ……」

 世にも凄惨な情景が目に飛び込んでまいりました。わたくしは立ち込める臭気に嘔吐を催し、しばし身動きも取れませんでしたが、勇を鼓して、

「メアリ、ロンフルマン医師せんせいがいらしているはずです。急いでお呼びして。くれぐれも内密に」

「は、はい」

 メアリが飛び出して行き、わたくしは改めて現実に向き合わねばならなくなりましたが、あまりに異常な状況に置かれますと、却って頭の芯が冴え、悲鳴さえ漏らさず、自分でも不気味なくらい平生以上に冷静な対応を取ろうとするものなのだと、そのとき理解しました。

 冷たい床に仰向けに横たわっているのはコンスタンティン(略)様。既にお召し物を剥ぎ取られ、血に染まった下着アンダードレス姿で、瞼も唇もポッカリいたお顔は蒼白。いえ、もっと恐ろしかったのは、お手が……左手から薬指が切り離され、失われていたのです。傍には血溜まりに沈んだ短剣が。

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