第二の手稿②

 いつか、ではなく早急に、別の指環に換えていただきとうございました。紅薔薇を包んで金色に光るうてながコンスタンティン(略)様の指をギチギチ締めつけているのは、皮膚の状態を見れば明らかでしたので。ああ、しかし、まさか、このことが惨劇の前触れだったとは――。

「我が同志、共に赤い薔薇の記章バッジを授かった将来有望な少年には、こちらを。おっと、女性陣の前では憚られるな」

 軍旗から遠ざけられているコンスタンティン(略)様には、代わりに同じ紅薔薇の意匠の指環をお与えになったという意味にも受け取れるお口振りでしたが、ともかくも、エドガー様はコンスタンス(略)様を伴って衝立の向こうへ移動されました。お二人は何やら小声で問答を交わされておりましたが、しばらくして戻られますと、コンスタンス(略)様はエドガー様と同じように、脚衣ショースの真ん前に派手な色のコッドピースを丸々と隆起させていたのです。

 殿方がお召しになるショースは下半身に密着しつつ、御不浄でののため、中心部が縫い合わされず空隙になっておりますので、そこに股袋を取り付けると、実用面でも装飾の意味でも、ちょうどいい塩梅になるそうですが、本当は女の子であるコンスタンス(略)様は穴の開いていないタイツをお穿きになっていますから、たった今、お二方がどういったご相談をし、いかにして問題の品をお取り付けになったのか、わたくしには推し量りかねましたが……。

「うむ、よく似合う」

 コンスタンス(略)様は引きった愛想笑いでお応えになりつつ、内心はご不快そうでしたけれど、それにしても、エドガー様はご姉弟きょうだいが入れ替わっておられるのを承知していらっしゃるのでしょうか。ご存じなければ、単なる無邪気なお振る舞いに過ぎますまいが、ご了解の上だとしたら……そのまま元に復さず各々ご成長あそばすことを望んでおられるとでもいうのでしょうか。いえ、一種の悪辣な冗談とも受け取れます。いずれにせよ、わたくしには、ここまで流れに身を任せつつ、葛藤を包み隠して虚勢を張っていらっしゃるに違いないコンスタンス(略)様が、大変おいたわしく思えるので、エドガー様の贈り物が残酷な一撃として、お胸に刺さったのではないかと、気を揉んでおりました。

「それでは失礼する。また、近いうちにお目にかかろう」

 エドガー様は颯爽と立ち去られました。一陣の風が通り過ぎた後、コンスタンティン(略)様は改めて複雑な面持ちで、ご自分の左手をお見つめになるのでした。指先は碌に血が通わず、蠟のように青褪めていますが、それが一層、指環の赤い薔薇を引き立てているとも申せました。嬉しい、けれど、痛い、このまま外せなくなったらどうしよう……。そんな想いが愁眉に滲んでいるのでした。

 そう、コンスタンティン(略)様の表情の半分は喜悦でした。お誕生日プレゼントであり、エンゲージリングとも解釈できる代物ですから、多少の苦痛には耐えてみせるとでも言いたげな、決意に似た色を瞳に湛えていらっしゃるのです。そして、ツイッとコンスタンス(略)様に向けられた眼差しは、高らかな勝利の凱歌を口ずさんでいるかのようでした。

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