Vol.7 見上げて
空が好きだ。よく晴れた、青い空が。
日常の中で、何の気なしに、顔を上げて空を見てみたことはあるだろうか。あの、人類が決して手出しできないような、神聖な青。その青に、どうしようもなく惹きつけられてしまう、私がいる。
何を映した色なんだろう。刻一刻と変化していく、あの不思議な色は。まるで、私の全てを見透かされているようで、けれど、全てがゆるされているような。見ていると、自分の中の何かが、すーっと浄化されて、透明になってゆく気がするのだ。
青空、といえば、夏を連想しがちかもしれない。夏なら、快晴の日。昼下がりに、日陰の中から見上げるのがいい。太陽を遮ると、実は周りの空気まで、くっきりと蒼いことがわかるから。
今の季節、秋の間は、夕方に勝るものはないとおもう。空が、沈みゆく夕陽に色を明け渡す、その直前。色の移り変わりが、他の季節に比べて、とてもゆっくりしている。だから、青が水色になって、存在感を増してくる薄い桃色と肩を並べて、やがてふたつが溶けあい、熟れたような橙に染まってしまうまでを、じっくりと堪能できる、贅沢な期間だ。
この先訪れる冬は、早朝にすべてが詰まっている。冬の朝日は、持っているエネルギーが違う。夜の間に凍てついた、街を、人を、生きものを、くまなく照らそうとする。取りこぼしがないよう、時間をかけて顔を出す。キンと冷えた空気の中で、その光を受けたところは、柔らかに温かい。今日という一日を、精いっぱいに生きる力をくれる。いつまでも寒いわけじゃない、じきに暖かくなるからね、と。
春だけは、夜空がすき。青というより、濃紺に近い色だけれど。ほんの少し、紫がかった感じで、夜が優しくなる。起きていても、痛々しい孤独感に満ちていない。世界から、突き放されたような気持ちにもならない。これが、真っ黒だったらそうはいかない気がするし、太陽が沈んでしまっても、青の気配を残してくれているから、独りじゃないと思えるのかもしれない。なんだかちょっと、寄り添ってくれる感じすらある。そうして、明日へ向かう気持ちを、そっと後押ししてくれるのだ。
いま、目の前のことに疲れていたら、顔を上げて。
ちょっとだけでいい。空を、見上げてみて。
その時間、その場所で、その瞬間のあなたでなければ見られなかった、空があるから。
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