第3話 再会

 次の日、チャドは二日前の商人の館に訪れた。

 襞襟職人に会いたいと願うと、気の良い奥方はチャドを館内に招き入れた。

 年頃の男が結婚適齢期を過ぎた女に会いに来たということに、奥方は余計な気を回したのだろう。チャドの横を歩きながら、『腕の良い娘よ』『真面目だわ』『エリザベス女王は専属の襞襟職人を持っているというけれども私もそうしたいくらいだわ』などと襞襟職人を褒め、チャドの反応を探るように見た。チャドは曖昧な返事をして、奥方をかわした。


 襞襟職人は同じ部屋にいた。前回同様に窓際に立ち、木製の人形にかけたゴシックスタイルの襟を観察しているところだった。

 先日とは違う大きな百合の花のように開いたレースの襟は米粉糊でパリッと仕立てられ、尖った花弁の先が襞襟職人の手に突き刺さりそうだった。

 意味深な目つきで二人を交互に見てから奥方が去ると


「来ると思っていたわ」


 チャドが言葉を出すより先に襞襟職人が声をかけたので、チャドは心臓が飛び上がった。

 しかし、襞襟職人の視線は襞襟に注がれたままである。真剣に生地の細部に目を這わせる女の横顔をチャドは観察した。


「私はマーゴ」


思ったよりも高く、女らしい声をしているとチャドは思った。


「……俺はチャド」

「そう、チャド。それで私に言うことは何」


 チャドは躊躇ったが、考えていた単語を並べだした。


「……川沿いに家を借りようと思う。大きさはこの部屋ぐらいの広さだ。前の住人の家具付きだ。二歩先には居酒屋もあるし惣菜屋もあ」

「決まりね」


 マーゴは襞襟から手を離し、エプロンをさっと首から抜くと大雑把にたたんだ。


「行動が早い男は好きよ。今日はこれで私は仕事が終わりなの。外に出ましょう」

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