2

そんな願いは叶わぬまま。

両親の喧嘩は日に日に増していく一方だった。

俺に対しての扱いも、毎日酷くなっていく。

新しい服も買って貰えず、食事は一週間に一度が当たり前になった。

風呂にもまともに入れて貰えなかった。

感情は失われ、気が狂いそうだった。

普通だったら死んでいる。

そう思ったが、何故か俺は生き延びていた。


普通だったら…


俺は薄々気づき始めていた。

自分の異様な生命力に。

母親も実は気づいていたのかもしれない。

俺がなかなか死なないことを不気味に思っていたのかもしれない。

俺に対しての母親の口癖は段々「気持ち悪い」に変わって言った。

息をして、横たわる俺を気味悪がるような発言が増えて言った。

父親は相変らず、俺に対して興味はないようだった。

親の喧嘩を見てるだけ、放置されてるだけ。

その方が幸せだったのかもしれない。

ある日までは。


「クビになった」


ある日…父親がそう呟いた。

その言葉を聞いた母親は発狂して、今までにない程の暴言を浴びせた。

父親は途端、俺の首を掴んで叩き落とした。

ボキッという鈍い音が響く。

俺は声にならない叫びを上げた。


「…!!」


激痛のあまり意識が朦朧となる。

父親は何度も俺の体を潰すように蹴り上げる。

全身がバキボキと鈍い音を響かせる。

意識が途切れる前、母親が父親を殴るのが見えた。

死んだように動かなくなった俺を、父親は放り投げた。


「死んだな…捨ててこいよ」

「んなことよりてめぇクビになったって…!金はどうすんだよ!!」


意識は途切れているものの、声が微かに聞こえてきた。

母親は俺のことを知らないで、金金と叫び続けている。

父親は俺を捨ててこいとゴミを見るように指を指す。


どう…して…


動かないはずの首が動き、見上げた。

2人は物を投げあっている。

どうしてこんなことに。

どす黒い感情が込み上げてきた。


「…え?」


ふと、罵倒が聞こえなくなった。

耳鳴りが響く。


「…?」


周りが止まったように見える。

実際にはそう感じただけだ。

自分の体に起こっている現象が信じられなかった。

さっきまで激痛が走っていた体から徐々に痛みが引いていく。

折れたらしい腕は動くようになり、感覚が戻っていく。


これは…何?


歪んでいた体はミシミシと音を立てて元に戻っていく。

これは…体が再生している。

ありえない、信じられない話だ。

人間は怪我が治るまで時間がかかるということは知っている。

放置されてる間、部屋にあった多くの本を読見漁っていたから知識だけはある。

ゆっくりと立ち上がる。

痛いところはもう、どこにもなかった。

そんな俺に気づいた母親が目を見開いた。

父親も、同じような表情をしていた。


「お…おま……」

「なん…で…」


その顔は恐怖で歪んでいく。

化け物を見たような顔。

俺は自分がとんでもなく、異様なものだということを改めて自覚した。

異様な速さで怪我が治る、特殊な体だということを。

そして自身も恐怖で震えていた。

自分が何者なのか、分からなかった。

沈黙が流れる。

父親の酒瓶を持つ手が震えている。

薄暗い部屋に、時計の音だけが響く。


「きり…お前…」


後ずさりながら、軽蔑する視線で俺を見る。

震える手で指差す。

静かに口を開き、強く激しく言葉を放った。


「この…悪魔…っ!!」

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