第15話
その後しばらくの時間が流れた。
事態はある程度終息に向かった。町を襲おうとしたゴーレムはあの後直ぐに動きを止め全てその場で自壊した。
大クモも洞窟内で死骸が見つかり、火の魔術で焼却処分された。
死者は全部で15名。いずれも町を守ろうと戦ったものばかりで、そこにはガルドの名前もあった。
事件解決から一週間後、領主誓いの儀が町の広場で行われた。そこにはウラガンの姿があった。
「まず、今回の事件で、この町を救った英雄たちに敬意を表したい。そして私は誓う。この町をこれからも守り続けていくと!そのために、矮小な身ではあるが全身全霊を持って努力していくことを誓う!そして領民よ!この悲しみを乗り越え、共に歩もう!彼らが守った未来を私たちの手で作るのだ!」
そういうと拍手が沸き起こる。前線で体を張って戦ったウラガンは今や前領主に勝るとも劣らない信頼を勝ち得ていた。その後あらためて葬儀が行われた。そこではワグナーとアヤが死者を弔う踊りと音楽を披露し、皆の心をいやした。
ゼルはエミリーと交際を始めたようだが、周囲から「え?まだ付き合ってなかったの?」という反応しか返ってこず、ゼルはちょっと複雑な気持ちだった。
ホーキンスは領主誓いの儀が終わった翌日、護衛隊と共に首都への帰路に就いた。最後にはウラガンと拳を合わせ、お互いの健闘を誓った。
ジェフは新領主ウラガンの元で忙しそうにしている。偶に完成した前領主ゲイツの墓へ行き、現状を報告しているようだ。
アリアは今回の一件を受け、部下を失った責任は全て自分にあると退役する事となった。もちろん第三方面軍司令部はもちろん、首都本部もその責任を負う必要はないと必死に説得したが、アリアはそれを押しのける形で退役した。
そしてマックスは…
アリアの後任となったマックスは、レーラント駐留部隊長の任を引き継ぎ昼間は忙しそうにしていた。
だが、夜になると自室に閉じこもり、賭博の誘いもすべて断っている状態だ。
そんなマックスが今夜は出かけようと思った。行先はガルドの墓だった。
墓地へ行くと、一際立派な2つ墓が並んでいた。一つはオブライエン。もう一つはガルドだ。今回の事件を自らの命と引き換えに救った英雄として埋葬されていた。とは言っても体が消滅しているため、使用してた武器などが収められている。
マックスは煙草に火をつける。そしてガルドから託されたマッチ箱を見つめる。
「…ったく、勝手に死んでんじゃねーよ馬鹿が…」
「おいおい馬鹿って事は無いだろ?相棒」
ふとそんな声がする。振り向くとそこにはガルドが居た。
「ガ…ガルド!」
そういうとガルドは驚いた顔をする。
「あれ?もしかして見えるの?いや~誰にも気づいてもらえなくてよ~。流石俺の相棒だ!」
そう言われてマックスがガルドをよく見るとやや透けている状態だった。
マックスはガルドに言いたいことが沢山あった。だがどれも言葉にならない。そしてマックスの目から涙があふれる。
それを見てガルドは寂しそうな顔をした。
「すまんな、こんなことになっちまって…だが、マックス。今日はお前に頼みがあって来たんだ。」
「…なんだよ、頼みって。」
「おう、俺とカードで勝負してくれ。お前が勝ったらそのマッチ箱やるよ。だけど俺が勝ったら…そん時言うわ。お前カード持ってんだろ?」
そういうとマックスは懐からトランプを取り出す。よく暇なときにガルドたちと遊んでいた為、癖で持ち歩くようになっていた。
言われるがまま、いつものカードゲームがが始まる。ガルドは「お!いきなりキタキタ!」と声に出しながらニヤニヤする。
…そうやって分かりやすいから俺が勝つんだよ…マックスはそう心の中で思った。
「よし、チェック!」
ガルドが宣言する。マックスはもう一度手札を確認する。
7が4枚で4カードだ。勝ちはほぼ確定。しかし、このポーカーに何の意味があるんだ…とマックスは思った。
「なぁマックス、俺は旅に出てくるよ。」
ガルドが不意にそういった。
「長い旅になるだろうな。でも俺は帰ってくるつもりだ。だからそのマッチ箱預かっててくれ。それ気に入ってんだよ。」
「じゃあ、今取りに来いよ。俺じゃ無くすかもしれないぜ?」
ガルドは寂しそうに笑う声が聞こえる。
「それが出来れば苦労しねぇよ。出来ないからお前に頼むんだ。」
「…チェック」
マックスがそういう。マックスは顔を上げない。そして震えた声を出した。
「勝手に託してんじゃねーよ…お前…本気で帰ってくる気かよ?」
「当たり前じゃねーか、俺が根無し草なのはお前だって知ってるだろ?帰るのはここしかねーよ。っとじゃあオープンだな…じゃあ、相棒!ちょっくら出かけてくるわ!オープン!」
勝ち誇ったガルドの声がした。手札をお互い地面に広げる。
「4カードだ。そっちは…」
マックスがそう言ってガルドの方を向く。そこには誰もいなかった。
そして地面にはスペードの10、11、12、13、エースが置かれていた。
「…ロイヤルストレートフラッシュか…俺の負けだな。わかったよ…相棒。…ったく背負わせんなってんだ。」
そういうとマックスはガルドから預かったマッチ箱からマッチを取り出し擦る。ボッ
と火が付くと煙草に火をつけ、火のついたマッチを夜空に掲げた。
ガルドは街外れまで歩いてきた。幽体となってなお飛ぶことが出来ないようで、普通に歩いている。しかし、誰に声を掛けても気づいてもらえないのがここ数週間ずっとだった。
あのデーモンイーターによる消滅の瞬間だった。誰かに身体を引っ張れたような気がしたのだ。そして肉体だけが消え、ガルドの意識も闇に飲まれた。だが、気づくと何故か鉱山の外に出ていた。
そして、そこからは「俺はここに居るぞ!」と大声を上げようが誰も気づいてくれないのだ。
そしてある人物と再会し、その人物から魅力的な提案を受けた。
「お前が従者になるなら、肉体を見繕ってやれるかもしれない」
その提案は確かに魅力的だ。だが、その前にあのポーカーで自分を占った。
結果はロイヤルストレートフラッシュ。人生で初めてだった。思いは決まった。だが聞かなければならないことがあるとも感じ、その人物と初めて出会った場所で待ち合わせていた。
「よお、待たせたな。」
ガルドがそう声を掛ける。そこにいたのはアヤ、ワグナー、アリアの3人だった。そう、ガルドは消滅の瞬間アヤに助けられ、身体の提案もアヤからであった。
「どうだ決心はついたか?」
そう声を掛けたのはアリアだった。この提案をしてきたのもアヤだった。
「まぁ大体…しかしアリア隊長までつながっていたとはね…あんたら何もんなんだ?」
「じゃあお前の隊長として最後の仕事をしてやろう。」
そういうをアリアは耳のイヤリングを外した。するとアリアの髪が金髪になり、耳が尖り長くなった。眼光も青色となり、月明りの下だが、やや色白になったのが分かった。
「あらためて私はアリア、エルフだ。もう500年ほど生きているかな?そしてワグナーは魔族だ。私と同じく数百年生きている。そして…ハァハァ、アヤは…アヤママだああ!!」
そう叫ぶとアリアはアヤに抱き着き、「ままぁ…ハァハァ…ままぁ…」と甘えている。
アヤはというと完全に呆れた顔をしており、もう好きにしろというかんじで関心を持っていない。
完全に不意を突かれたガルドは口を開けたまま固まっている。
「まぁ…お前がその反応をするのも無理はないな…アリアは公国に忍ばせていた私の使いの一人だ。まぁ今回の件でアリアの任務は終わったからな。」
そこからアヤはこれまでの経緯を説明する。その内容にガルドは驚きの連続だった。
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