第14話

アヤはガルドの方を向こうともせず、剣を構える。


「これ使ったら…だがやるしかねぇんだ!」


ガルドがそう自分自身に言うとダガーを構える。突如、アヤの周りを突如無数の赤い蝶が飛び始めた。もちろんガルドにも見えている。それはあのパーティー会場で見た赤い蝶だった。


そしてアヤのアカネアゲハに蝶が止まり始める。すると紫色の光を纏いアカネアゲハが怪しく輝き始めた。ガルドはアヤを少しだけ見る。背中には赤い蝶の羽のようなものが薄っすらと見えていた。


(アヤ…一体何もんなんだ?)


だが、ガルドはその疑問を頭の隅に追いやる。そしてダガーを、いやデーモンイーターと名前の付いた武器を構える。そしてこれが自らの人生最期の一撃になることも知

っていた。


そう、あの女神の話には続きがあった。


”ですが、まず私の信徒となってください。そうしなければデーモンイーターは起動すらしません。そしてサイズのコアにデーモンイーターを突き立てる。そしてデーモンイーターを仲介して私は奪われた魔力を取り返し、サイズから離れます。そうすればサイズは一気に弱体化し、消滅するでしょう…”


「そうか、じゃあさっさと契約して奴をぶっ飛ばしに…」


”我が信徒の死をもって”


そう言われて、ガルドは全身が震えるのを感じた。


「え?…」


”デーモンイーターの発動にはあなたの肉体が必要となります。サイズが消滅したあかつきには、あなたの魂を天なる世界へ導きましょう。かつてオブライエンがそうしたように、あなたもまた、英雄となるのです。オブライエンの時と比べ今のサイズはあの時ほどの力は持っていません。今回は消滅させることが出来るでしょう”


女神はさも当然のように話していた。ガルドは思った。この女神にとって個人の犠牲など大したことではないのだ。要は1人を犠牲にして大勢が守られるのであれば英雄という都合の良い言葉で遠慮なく犠牲にするという事だ。


とんでもないなこいつ…とガルドは思った。


そして、自らの死についてガルドは触れる。


元々捨て子だった彼は一日一日が勝負だった。それに負けたとき死ぬのだと理解はしていたが…それが眼前に迫ると、立ち止まってしまう。


しかし、このいけ好かない女神が見せたあの光景がもし本当なら…


そしてそれが俺一人の命で避けられるのなら…


ガルドはふとあの町での生活を思い出していた。それはガルドにとって光輝くものだ

った。時には迷惑もかけた。だが、最後はみんな笑って許してくれた。初めて故郷と呼べるものなのだろうと思った。


その故郷を守るのに、なんのためらいがあるだろうか?


そしてガルドは力強く答えた。


「わかった、やるさ。それが必要ならな!」


それを思い返していると、アヤが先に地面を蹴った。


「壱の型桜…いざ!」


そういうと、無数の斬撃を繰り出した。サイズはそれを正面から受ける。無敵という自信からか、反応できなかったのか、その真意は不明だが正面から受けたサイズは胸元を鎧ごと切り裂かれ、その下から赤い球状の物体が出てくる。


「そこだああああ!!!!!」


間髪入れずにガルドが突進する。そして赤い球状の物体にデーモンイーターを突き立てる。


すると、デーモンイーターが光始める。光はガルドを包み込んだ。大量の魔力が


「うあああああああああああああああ!!!!貴様!それをどこで!!!あの女神か!!!」


サイズはたまらず叫び声をあげる。


「良いのか!!貴様も死ぬぞ!!!」


ガルドは既に消えかけている自分を認識して不敵に笑った。


「ああ!てめぇをぶちのめせるなら!あの町を守れるなら!命くれぇ賭けてやるよ!!」


すると、サイズの体から何かが出ていく。ガルドはそれがエリアだとわかった。


”勇者よ、サイズを滅ぼすのです。”


「いいさ、この勝負は…俺の…か…ち…」


その言葉を最期に、ガルドは姿は光の中に消えた。


光が終息するころ、そこには誰もいなかった。サイズも、そしてガルドも消えてしまった。


アヤは刀を一振りすると鞘へ戻した。


すると扉が開き、ホーキンスとワグナーが中へ入ってくる。


「外の連中がみんな崩れ落ちたぞ!やったなガルド!」


そう言いながら近づいてくるホーキンス。だが、そこにいるはずのガルドを発見することは出来なかった。


「おい、アヤちゃんガルドの奴はどうしたんだ?」


それを聞いてアヤは俯き泣き始め、ホーキンスの胸に飛び込む。


「おじさん!ガルドさんが…ガルドさんが!!」


そう言われてホーキンスは前を見た。そこにはガルドが見せていたダガーが落ちており、ロングソードもその場に落ちていた。どうしてそうなったのかは分からなかったが、ガルドが消滅したことを察したホーキンスは槍を落とした。


そしてアヤの頭を抱きしめながらホーキンスは涙を流した…。


「馬鹿野郎…教えただろう…どんな状況からでも生きて帰るのが兵士の仕事だって…馬鹿野郎…」


ワグナーは入口付近で倒れていたマックスを介抱した。マックスはいくらか外傷はあったもののどれも軽微であり、すぐに目を覚ました。


「目が覚められましたか?」


ワグナーが声を掛けると、マックスは目をぱちぱちする


「あれ?ここは…たしか俺は…いきなりゴーレムが襲ってきて…それから…」


ホーキンスはアヤを放すとマックスの元へ行き、座り込みマックスを抱きしめた。


「なんすかおやっさん?ガルドの奴はどこです?あいつまたどっかでサボって…」


そこまで言うと右手に何かを握っていることにはじめて気が付いた。マックスが手を

広げると、そこにはガルドが愛用していたマッチ箱があった。


マックスは全てを察したように、ホーキンスの体を掴んだ。


「おやっさん!違いますよね?ガルドの野郎サボってるだけですよね!?…何とか言ってくださいおやっさん!」


そういうとホーキンスは力なく頭を横に振った。


「嘘だろ…相棒…ガルド…ガルドオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


マックスの叫びが坑内に虚しくこだました。それに答える声はどこにもなかった。



しばらくしてからホーキンスはマックスをつれて外の様子を見に言ってくるといい出ていった。今頃他の兵士も目を覚ましているだろうということだった。


ワグナーは「しばらくここに居させてください」とだけ言い、今だ泣いているアヤと最奥部に残っている。


二人が立ち去った後、しばらくするとアヤはぴたりと泣き止み、顔を上げる。


「さてっと…」


アヤの目は眼光が赤くなっており、普段とはまるで別人のように落ち着いている。


「アヤ、影は大丈夫なのか?」


ワグナーは冷静な顔でアヤに話しかけた。


「ああ、あいつは優しいからな。ひとしきり泣けば落ち着くだろう。」


「しかしあの人間。一応最後に仕事したんだな。お前が事態を収拾するよりは多少マシになったか?」


それを聞くとアヤはワグナーに向かってニヤっとする。


「ワグナーが人間を評価することもあるんだな?」


「ふん…一応聖堂協会に属しているからな…一応は。」


フッとアヤは笑った。


正直サイズと対したときに、あの程度の敵であれば力を解放さえすればすぐ倒せることはアヤにも分かった。


だがあのサイズのコアを直接破壊することになり、恐らく暴走した魔力により鉱山は崩落。大規模な土砂崩れが起こり、町ごと巻き込んでいただろうとアヤは思った。


別にそれでもよかったのだが、本当にここに来た目的を達成することが困難になる。その点デーモンイーターでエネルギーを吸収しつくしてしまえば安全に倒せる。


その点でガルドはよくやったとアヤは内心思った。


「しかし、ガルド…あいつは私の蝶が見えていたみたいだったな…」


「ふん、これだけゴミのように人間が居るんだ。一人くらい変わり者が居るだろうよ。」


ワグナーはそう言いながら、デーモンイーターを拾い上げる。


「…また模造品か」


「当たり前だ。そもそも作り手が模造品だからな。偽物は本物を造れんよ。」


そう言いながらアヤはやや呆れ気味にワグナーへ言葉を返した。


「それでアヤ、これからどうする?さっさとこの地を去るか?」


「いや、最後まで付き合おう。それにやり残したことが2つあるからな。」


そういうと、アヤは少し笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る