第13話

夕暮れ時、4人が鉱山に近づくと、数名の兵士とゴーレムが偵察しているのが分かり、茂みに身を隠す。


「やはり正面突破は無理だな…。おやっさんどうします?」


望遠鏡をのぞき込んでいたガルドがそういうと、ホーキンスは片目をつぶる。


「そうだな…南部鉱山へ行くだけならけもの道だが、裏道がある。そっちを使うか。」


4人はそそくさと移動を開始する。

ホーキンスが案内したけもの道には敵は配置されておらずあっさり南部鉱山入口へたどり着く。しかし鉱山の入り口には流石に兵士が配置されていた。その数3人。


「アヤ、殺すなよ。」


ワグナーがそういうと、アヤがスッと消えた。そして次の瞬間、兵士たち3人は一斉に倒れた。


ガルドとホーキンスがあっけに取られているとアヤ全員を無邪気に手招きする。


「忍び歩きか?あそこまで行くと達人だな…」


ホーキンスはそう言いながらアヤの方に向かった。


「ワグナーさん…アヤちゃんってやばいですね…」


「まぁ、あれも見慣れてくると普通に感じるんですがね。私が麻痺しだしているのだと思っています。」


そう言いながら二人も続いた。


しかし、南部鉱山の入り口は封印の鎖とカギは切断され地面に落ちており、施錠はされていなかった。


「封印魔術を無理やり破壊したみたいですね。かなり強引な手口だ。」


ワグナーは現場を見ながらそう感想を漏らした。ガルドは直感した。恐らく待っているのだと。


(許さない…か、ケッ!上等だ!)


ガルドは顔を両手で叩き気合を入れる。


「恐らく奴は俺らを待ってます。このまま進みましょう。」


「よし!中に入るぞ!」


ホーキンスがそういうと先に中に入り、残りのメンバーがそれに続いた。


4人が内部に入ると敵は一切いなかった。そして不思議な事に青白い明かりが点々と奥まで続いている。まるで侵入者を歓迎するかのような仕掛けだった。


途中数度戦闘があったが、全く手ごたえが無いものばかりだった。


そのままホーキンスを先頭に歩を進める4人。そしてしばらく歩くと大きな扉の前にたどり着いた。


「ここが最奥部だ。」


ホーキンスがそういうと、ガルドはジェフから貰った鍵を差し込み鍵を回した。


カチャリという音と共に鍵が外れた感触があった。


そして扉を開ようとすると、後ろから複数の大きな足音が聞こえ、それはやってきた。ゴーレムの大群である。その数は20体。


ホーキンスとワグナーは互いに顔を見合わせ頷くと、アヤとガルドの前へ出た。


「ここは俺たちに任せろ!」


「ガルドさんは扉の中へ!アヤ、ガルドさんを守りなさい!」


「すまねぇおやっさん!ワグナー神父!アヤちゃん、行こう!」


「はい!」


ガルドとアヤは、扉を開けると中に入った。そして扉とゴーレムの間にはホーキンスとワグナーが立ちふさがる。


一方扉から中に入った二人は大きな空間に出た。そこには大きな祠があったが既に何者かによって破壊されており、祠の中に収めてあった女神像も朽ち果てていた。


突如、空間がぐにゃりと歪む。そして黒い球体が現れた。球体は徐々に何かの形に変形していく。


「覚えてるか?人間?サイズだ…夢で会ったな。」


サイズと名乗ったそれは、徐々に成人男性の姿をしていた。黒い鎧を身に着け、茶色い髪の毛。だが下半身がクモになっていた。そして目もまっかになっており、ガルドを睨みつける。


ガルドは動じることもなく、サイズの前へ立つ。


「おお、覚えているぜ。俺に殴られた負け犬野郎だったな?なんだ?またぶん殴られたいのか?」


ガルドがそう挑発する。が、サイズは大きな声で笑った。


「これを見ても笑っていられるかね?」


そういうとサイズは上空に映像を映し出す。それはレーラントの町に向かうゴーレムの大群だった。5体や10体ではない。恐らく50体以上、もっと多いかもしれないとガルドは感じ、サイズを睨みつける。


「てめぇ…!」


「ハハハハハハ!どうだ!俺もそこまで暇じゃなくてね!さて、決着を付けようじゃねぇか!」


ガルドは剣を抜き、地面を蹴った、サイズに斬りかかる。が、ガルドの前にある人物が立ちはだかり剣を止めた。マックスだった。マックスはうつろな目でガルドを捉えると、手に持っていたナイフで斬りかかる。


ガルドはそれを回避し、一度後方へ下がる。


「相棒、お前との喧嘩はいつぶりかね?」


そういうとガルドはサーベルを鞘に戻り、拳を構える。マックスは相変わらずうつろな目をしたままガルドに斬りかかる。ガルドはマックスのナイフを持った手を掴みそのまま勢いを利用して投げ飛ばす。


「マックスが格闘戦で俺に勝った試しは一度もねぇんだよ!」


そういうと立ち上がったマックスの顔面にガルドの体重の乗った拳が当たる。


マックスは入口方向まで殴り飛ばされると立ち上がらなくなった。


「残念だったサイズさんよ?今度から護衛はもうちょい選んだ方が良いぜ?」


「最後はお友達の手で死んだ方がお前も本望と思ったが…まぁいい。どの道お前は俺の悲願の為に死ぬのだからな!」


「そんな凝った事してくれたのか?わざわざご苦労なこった!」


そういうと、サーベルを抜きサイズに向かって突進する。そして地面を蹴り跳躍するとサイズに向かってサーベルを斬り下ろした。しかし、サーベルは空中で何かに阻まれるように動きを止める。そしてサイズは右腕でガルドを薙ぎ払った。はじき飛ばされ着地するガルド、見るとサーベルに大きなヒビが入っていた。ガルドはサーベルを投げ捨てる。


今度は氷のロングソードを抜き、2小節の呪文を唱え氷の刃を形成する。再び地面を蹴って斬りかかる。


しかし同じように障壁にはじかれ、氷の刃は霧散した。


「どうした人間?俺を殴ってみろ?」


サイズは笑いながら構えようともしない。


その刹那、パリン!というガラスが割れたような音が辺りに響き渡り、サイズは後方へ下がった。


サイズの前にはアヤが立っていた。アヤは真剣な表情をし刀を自分の前で横向きで持つ。


「迅雷…展開!」


アヤがそういうとアカネアゲハが青白く光りはじめ、バチバチと音を立て始めた。


「貴様…魔法剣か」


サイズはそういうと、空間を切り裂き右手を入れる。そこから大きな鎌を取り出した。


「ガルドさん、下がって!」


アヤがそういうと、サイズに向かって突進する。そのスピードは瞬間移動とも感じるような速度だった。サイズの懐に飛び込んだアヤは挨拶代わりとばかりに横に一閃。


サイズは避けることが出来ずに纏った鎧を大きく切り裂かれる。


サイズは意表を突かれながらも右手の大鎌をアヤに振り下ろす。アヤは切り裂かれたように見えたが、いつの間にか空中に飛んでおりアカネアゲハを振り下ろす。


サイズは何とかこれを大鎌で防御したが、サイズの顔は少し焦燥を感じているような顔つきになっていた。アヤはそのまま後方へ飛び、ガルドの近くに降り立った。


「おい人間、お前が殴った奴の心配をしたらどうな?結構いいのが入ってたぞ?」


そういうアヤをガルドは見つめる。顔はアヤだが、ここ数日で見たどの表情とも違う顔つきだった。


眼光は赤くなっており冷たい目つきをしている。表情は少し笑っていたが、全体的な雰囲気が変わっており、ガルドは自分よりかなり年上の歴戦の戦士に会った感覚に陥る。


色々疑問はある、がマックスに用事があるガルドはその提案を受け入れた。


「ああ、ちょっくらマックス見てくるから、暫く頼むぞアヤちゃん。それと野郎は俺が止めを刺す!それだけは譲らねぇ…奴だけは許せねぇ!」


その雰囲気から何かを察したのか、アヤはサイズの方を向き直る。


「いいぞ、そのダガーを使えば…私が奴を倒すよりはマシな事になるだろうさ。」


そういうとアヤは、地面を蹴りサイズに向かって突進する。ガルドはマックスの所へ

駆け寄った。


「おい!マックス!相棒!」


そう声を掛け様子を見る。どうやら意識を失っているだけのようだ。マックスを扉付近に移動させ、ガルドはアヤの方を向いた。二人の戦いは一見すると互角だが、終止アヤが優勢に見えた。


アヤの素早い斬撃にサイズは対応するのがやっとという感じだ。サイズの表情には明らかな焦りがあるが、アヤはまだ余裕がある感じった。


そしてアヤが繰り出した斬撃がサイズの大鎌をへし折る。すかさずアヤはサイズの首を跳ね飛ばした。


しかし、その落ちた頭は笑い声をあげる。


「小娘にしてはやるな!…だがその程度だ、俺は死なない!」


そういうとサイズは落ちた頭を拾い上げ胴体にくっつける。


「そうでなければな。久しぶりに良い運動になりそうだ。」


アヤはそういうと再びサイズに斬りかかる。その様子を見ていたガルドは、気を失っているマックスに回復剤を使用し、アイテムカバンを下ろす。そしてマックスの右手に普段愛用しているマッチ箱を握らせる。


「そりゃ大事なもんだ…後は頼んだぜ、相棒。」


そういうと、ガルドはアヤとサイズ方へ走っていく。そしてたどり着くと「アヤ!」と声を掛ける。

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