第10話
不思議な事に今日初めてチームを組む4人にも関わらず、隊列が完成しているとガルドは走りながら思った。
先頭をホーキンス、少し下がった位置にガルドとアヤが左右に分かれており、一番後方をワグナーが付いてくる。装備を考えればこれが適正ともいえる。
そしてワグナーとアヤがそれを瞬時に判断した辺り、やはり相当の修羅場をくぐって来たのだろう…とガルドは思った。
坑道内をしばらく走ると、例の大穴が空いている地点にたどり着いた。そこで数名の兵士が倒れている。その中にはゼルの姿があった。そして辺りは荒らされており、ゴーレムの制御版等はすべて破壊されていた。
「ゼル坊ーーーーー!!!!」「ゼル!!!!!!!」
ホーキンスとガルドが駆け寄る。そしてゼルを少し抱き起こし、脈を確認する。どうやら気を失っているだけのようだった。
ガルドはゼルの体を見回す。幸い擦り傷程度の外傷があるだけだった。
ワグナーとアヤも倒れていた兵士を見てくれているようだった。ワグナーが「こちらの方々は大丈夫です!」と答えるとアヤも「こっちの人たちも大丈夫だよ!」と言った。
そしてガルドは辺りを見回す。そして例の大穴の傍には壊れたボウガンと医療用カバンが落ちていた。ガルドはそれに見覚えがあった。そうマックスのものだ。
ガルドはハッとなり、穴に入ろうとするが、それを見たホーキンスが羽交い絞めにする。
「おいガルド!なにやってる!」
「行かせてくださいおやっさん!マックスが!相棒が!」
「お前ひとりで何が出来る!冷静にならんか!!」
ホーキンスの静止を振り切ろうとするガルド、そしてそのガルドの前にアヤが立った。
刹那、アヤはガルドの鳩尾に拳を叩きこむ。それを受けたガルドはガクっと崩れ落ち気を失った。
ガルドはまた、月の出ている草原に居た。
(ここは確か…)
そう思いながら、ガルドは前へ進む。
そしてやはりアヤが居た。だがアヤだろうか?
よく似てはいたが全然違うと今のガルドには分かった。
ガルドは恐れず歩を進め、その少女の前に立った。
「君は誰だ?ここで何をしてるんだ?」
そういうと、アヤによく似たそれは涙を流し始めた。
”急いで、こうして抑えていられるのも後わずか…”
「後わずか?何の話なんだ?」
”ここに封印したものが解き放たれる、祠が破壊されてから私はアレを抑えられなく
なりました。このまま復活すれば…”
そういうとガルドの脳裏にあるイメージが浮かぶ。
それは崩壊したレーラントの町だった。空は赤く、建物は破壊され、人々は皆死に絶えている。
その光景にガルドは震えと冷や汗をかいた。
「なんだ…これは?」
”そう遠くない未来の光景です。このままでは町は滅びます。”
「…どうすれば良いんだ?」
ガルドはいつになく真剣な表情をした。
”わかりました…”
少女が話した事は、ガルドにとって驚きなもの。
そして真に覚悟を必要とした話だった。
それを聞いたうえでガルドは力強く答えた。
「わかった、やるさ。それが必要ならな!」
”素晴らしい、我が信徒よ。これを…”
そう言って少女は綺麗なダガーを差し出してきた。
”まずは町へ、脅威が迫っています。そして…これ…と…を…”
突如少女の声が途絶え始める。ガルドはダガーを受け取ると「わかった」と一言だけ返した。
そして少女は、今朝見た夢と同じく恍惚な表情を浮かべた。
”いいよ、おいで”
そう言って彼女はガルドの顔にてを伸ばす。
だが、ガルドはそのアヤに似たものをを思いっきり殴り飛ばした。
「ふう…スッキリしたぜ!この偽物野郎!本物のアヤはもっと美人なんだよ!こうやって俺の夢に現れるくらいにな!」
ガルドは笑った。大胆に笑った。
殴り飛ばされたアヤに似たものが立ち上がる。するとそれは姿を変えた。その姿は女にも見えるし男にも見える。
「許さない…許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない許さない許さない許さない許さないゆるゆるゆるゆる…
段々何を言っているのか分からなくなり、最後には悲鳴に近い叫び声へと変わっていった。
それを聞いてもガルドは動じない。その不定の存在に向かって前進する。
「このクソッたれやろうが!テメェをぶちのめすのはこの俺!ガルド様だ!覚えとけ!」
そう言いながら不定の存在の前に立ち、もう一発殴り飛ばした。ガルドはすこぶる気分が良くなった。
そうすると、不定の存在は霧散する。
”オマエ、ガルド…オボエタ、ユルサナイ!”
ふとそんな声が聞こえてきたが、ガルドは気にも留めなかった。
そして、ガルドは目を覚ました。
ガルドが目を覚ますと最初にアヤの顔が目に飛び込んでくる。
「ガルドさん…起きた?ごめんね…」
アヤは明らかに落ち込んだ表情を見せた。そんなアヤをみてガルドはフッと笑った。
「大丈夫だよ…それより…アヤちゃんって可愛いし、モテるよね?」
ガルドは急にそんなことを口にする。アヤは顔を少し赤くした。
「か、可愛いかな~?モテるかな~?照れちゃうな~」
アヤはニヤニヤしながら体をクネクネさせながら露骨に照れている。
「こらガルド、起きた早々若い娘を口説くな!」
後ろからホーキンスの声が聞こえた。そしてワグナーも心配そうに近寄ってくる。
「申し訳ありませんガルドさん。あなたを止めるためとはいえアヤが思いっきり殴っ
てしまい…」
そういうとワグナーは頭を下げる。
「いえ、良いんです。お陰で今回の黒幕に会えましたからね。」
ガルドは立ち上がると、背伸びをする。
「黒幕?どういうことだガルド?」
ホーキンスは首を傾げる。ワグナーとアヤも顔を見合わせた。
「でも、今はあんまり時間がねぇ…とりあえずおやっさん、ワグナーさん、アヤちゃん!外まで走るぜ!」
そういうとガルドは鉱山の外に向かって一目散に駆け出した。
「おい!ガルド、こいつらはどうするんだ!」
すると足をとめ、ガルドが振り返る。
「今はダメです!寝ててもらった方が都合がいい!後、今のところはマックスも無事です!」
そういうとまた駆け出すガルド。他の三人はとりあえずガルドの指示通り駆け出した。
そして外へ出る。するとアリア、ウラガン、ジェフの三人が走ってきた。
ガルドたちを見かけてジェフが声を掛ける。
「おお、ガルド君…君は…」
「大丈夫、俺たちは正気です!それより3人は無事ですか?」
「あ、ああ…我々は大丈夫だ。それより他の兵士たちが…」
「分かってますよ。襲い掛かって来たんでしょ?」
ガルドがそういうとジェフ達が驚く、そして後ろにいたワグナー、アヤ、ホーキンス、も驚いた。
「ジェフ代行、説明は後です。とにかく町まで撤退しましょう!」
ガルドがそういうと前方から数人の兵士たちが集まってくる。その姿は肩を落とした状態で、目にはまるで生気が無い。操り人形のように歩を進めてくる。
「突破します!奴らは町までは来れない!」
そういうとガルドが町に向かって走り出した。それに続く形で他のメンバーも全力疾走した。
兵士たちの動きは遅いため、特に引っかかることもなく7人は鉱山を後にした。ガルドの言う通り追撃は無かった。しかし、町につくや悲鳴と怒号が響き渡る。見ると数匹のゴーレムがが町中で暴れていた。
町を守るため戦ったであろう駐留部隊、護衛隊が数人が既に息絶えていた。残りの数人がゴーレムに挑むが挟み撃ちにされてしまいその重たい拳をもろに受け、吹き飛ばされてしまった。
そして、一匹のゴーレムがエミリーのパン屋に向かい突進していく。
「やめて!お店を壊さないで!」
そう言いながら店の前に立ちふさがったのはエミリーだ。エミリーはガタガタと震えながらパン生地を伸ばす棒を持って立っていた。
ゴーレムは構わず突進を続ける。
エミリーが目をつぶる。しかし、エミリーが想像していた衝撃はついに来ることはなかった。
エミリーが恐る恐る目を開ける。するとゴーレムは動きを止め、刹那頭部が転げ落ちた。ゴーレムはそのまま崩れ落ちる。崩れ落ちた先に誰かが立っていた。
それは、先日馬車に乗っていた人物。新領主のウラガンであった。
ウラガンは、飛び出そうとしたガルド、ホーキンスよりも早くゴーレムを切り裂いたのだ。
ウラガンはエミリーに近づき怪我がない事を確認する。
「娘よ、動けるか?」
「は、はい…えっと…」
「新領主のウラガンだ。すまないが頼みがある。この辺りの人々に声を掛け領主館へ向かってくれ。怪我をしているものには優先的に手を貸してくれると助かる。領主館内で怪我人の手当てを行う。」
そしてウラガンはやや大きな声でジェフを呼んだ。
「はい、ウラガン様!」
「うむ、ジェフよ。この娘と手分けして民を領主館へ誘導してくれ。動けないものや手助けが必要なものには積極的に周りと協力して移動してくれ。これは民より信頼の厚い貴公が最もふさわしいだろう。そして…同行出来ない愚かな領主を許してほしい…」
「ウラガン様はどうされるのですか?」
「私は…この町の領主だ。我が民を脅かし、我が兵を痛めつけた愚か者に然るべき処罰を行う。」
そのウラガンの表情は静かな怒りに満ち溢れていた。
それを見て、ジェフは「承知いたしました!ご武運を!」と答え、エミリーと手分けして住民の移動へ移る。
その場に残ったウラガンは、息絶えた兵士の苦痛に歪む目を静かに閉じた、
そして立ち上がるウラガン、その横にはホーキンスが居た。
「ガルドたちは町の南側を見てもらうために移動した。ここは俺たちで抑えるぞ。」
目の前にはゴーレムが6体。ウラガンは剣を自分の前に逆さに立てた。
「石で出来た木偶人形!貴様らは万死に値する!お前たちの死刑を執行するのは銀翼の兄弟だ!行くぞ兄弟!」
「お!それ久しぶりに聞いたな!じゃあいっちょ暴れるか!兄弟!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます