第9話

ガルドたちは鉱山入口に作られた、仮設本部へ通された。そこで、ワグナーとガルドからの説明があり、これまでの情報を全員で共有する。


ジェフとウラガンは少し驚いた様子で話を聞いていた。アリアは話を聞きながら紙に書き、隣に座っているホーキンスと時折何かを話していた。


「…というのが現在分かっている情報です。」


ワグナーが締めくくると、ウラガンは両手を組んで考えるそぶりを見せる。


「なるほど…その祠…というのは少し気になるところではあるな。魔導書というものは扱いが難しい。それに新たに示されたというのも不気味だな。ジェフ君、どう思う?」


ジェフも同じように考え込んだ表情をしている。


「…少しお話しておいた方が宜しいでしょうね。」


そういうとジェフは少し覚悟したように話し始めた。


「あの最奥部についてですが、実は封印以前は前領主ゲイツ様も通われていました。

私も何度が同行いたしましたが、ゲイツ様によると女神に供物を捧げることで、町と人の平和を祈っていました。」


そこまで話すとジェフは胸元から鍵のようなものを取り出す。


「南部鉱山が封印される直前は何やら慌てられていたご様子でした。南部鉱山を絶対封印しなければならないっと。そして強引な手段でしたが、南部鉱山を封印しました。そして無くなる少し前に「もし南部鉱山に何かあればこの鍵で封印を解くように」と鍵を頂きました。恐らくこれで南部鉱山へ入れるはずです。」


ジェフは鍵を見ながら決意した表情を見せた。


「こちらからもよろしでしょうか?」


そう声を上げたのはアリアだった、先ほどからホーキンスと何か打ち合わせをしていたようであった。


「今、ホーキンス殿とも話し合いましたが、やはり南部鉱山への調査を行うべきでしょう。ですが、鉱山の内部調査となりますとゴーレムでは魔力感知に限界がありますし、ここは少数での進軍を提案いたします。」


「そこでアリア隊長と少し話をしていたんだが。ここは鉱山内部に詳しい俺が調査隊長を請け負うよ。」


アリアに続いて、ホーキンスが立ち上がりながら言った。

ガルドは適任だと感じた。この中では恐らくホーキンスが一番南部坑道の構造に詳しいだろう。


「で、メンバーなんですがね?俺のほかに潜った事あるのはこの中じゃガルドだけだ。ガルドは決定として後二人位が適任だと思うんだが…」


「では私たちが適任でしょう。」


そう言ったのは、ワグナー神父だった。因みにアヤはエミリーから貰ったパンをパクパク頬張っている。


「いやいや、ワグナー神父。アヤちゃんの強さは昨日の組手で知ってますが、神父、実戦経験は?」


ガルドは心配そうに聞いた。


「ええ、勿論ありますよ。最もこれを使った実践がほとんどですがね。」


そう言ってワグナーは懐から黒い鉄の塊を出した。それは何かを発射する機械だった。


「ほう…それは鉄砲か?この大陸ではあまり見ない代物だな。」


ウラガンがそうつぶやくと、ガルドとホーキンスは驚いた。


鉄砲とは隣のアーデンスト大陸の技術で作られたもので、こちらの大陸ではかなり珍しい代物だ。というのも、この鉄砲は量産や調整、メンテナンスが複雑で、弾丸の生成にも気を遣う。弓矢に比べて射程は長いそうだが、前述の理由からこのザーブルグ大陸では首都近郊でしか流行っていない。それを軍属でない人間が扱うというのはかなり珍しい事例だと思った。


「ええ、弾丸の種類を変えることである程度の魔物に対応できますから、戦力にはなると思います。それから回復魔術も使用できます。アヤについては…ガルドさんのお墨付きならば問題ないでしょう。」


「うん!私もアヤ君の強さは知っているからね。まず間違いないと思うね!」


ワグナーに続いて、ジェフが同意した。


アヤは、マントの下に持っていた武器を取り、右手で高々と持ち上げた。


「今日はアカネアゲハ振り回すよ~!」


ガルドはその武器の驚くべき美しさに見とれた。それはサーベルに似ているが全然違う。鞘から察するに刀身がやや湾曲しており、全体的に黒を基調とした色だが、握りの部分が赤と黒で構成されており、全体的に美術品のような完成度だった。


「アヤちゃん、変わった武器を持ってるね。ちょっと見せてもらっていいか?」

ホーキンスがそういうと、アヤは「うん!」と言って武器を渡す。ガルドもそれを見

に行った。ホーキンスが少しだけ抜刀すると。それは見る者の心を奪うような綺麗な刀身をしていた。


「ほぉ…こりゃカタナというやつだな。」


「おやっさん、カタナってなんですか?」


「カタナはヤヨイの国というところで作られいる武器でな。精度が高く、美術品としての価値もあるようなものだな。だが、その切れ味は恐ろしいらしいぞ?アヤちゃんはこれをどこで手に入れたんだい?」


「それね、シュベリルの領主様がくれたの!」


ガルドはえらく遠くの地名が出たなと思った。ちなみにシュベリルというのはこのレーラントから馬車でも約1週間程度かかる場所である。


「アヤの説明では分かりにくいでしょう。実はそのアカネアゲハは、シュベリルに立ち寄った際に昨晩のように町の繁栄と平和を願い舞い踊らせて頂きました。それを気に入られたシュベリルの領主様より、お礼の品という事で頂きました。」


ワグナーがそう説明すると、アヤは「そうそう!」と相槌を打つ。


「よし、これで4人決まりだな。他の兵士についてはすべてアリア隊長の指揮に従うように護衛隊側は俺から伝えておこう。みんなは準備を進めておいてくれ。それからアリア隊長とウラガン、っとウラガン様は俺についてきてくれ。ウラガン様が居た方が護衛隊もいう事を聞くだろう。」


ホーキンスは「ワハハ」と言いながら仮設本部を出ていく。


「…どこに行ってもセバンの奴は変わらんな。」


ウラガンはぼそっとそう言いながら出ていく。それにアリアも続いた。


残ったメンバーはそれぞれ準備を進めていく。ガルドは一度詰め所へ戻り装備を取って来た。ガルドが戻ってて来ると。ジェフが南部坑道内部の地図を用意して確認していた。


「そういえばジェフ代行。ウラガン様とおやっさんってなんか関係があったんですか?」


ガルドは装備の確認をしながら、ジェフに尋ねる。


「あぁ、さっきのかい?あの二人は同期なんだよ。君とマックス君みたいな感じかな?入隊した日も同じ、訓練時代も、最初の派遣先も全部一緒だったらしい。途中からウラガン様は兵士としてではなく政治家としての道を志し始めたって話だよ。」


あの二人にそんな過去が…とガルドは考えた。


「そうだ!ガルド君にこれを渡しておこう。これが無いと最奥部に入れないからね。頼んだよ!」


ジェフはガルドに南部鉱山の鍵を差し出し、ガルドも受け取った。


それからガルドは他のメンバーをチラッと見る。


ワグナーは鉄砲を磨いていた。ワグナーの所持している鉄砲は中折れの2連式で、銃身はそこまで長くはない。また、引き金が二つ付いている。弾は通常のものとは別に法術された色違いの弾丸も用意されていた。後は接近戦用の細身のショートソードが二本置かれていた。


そしてアヤ。アヤは先ほどのアカネアゲハと革製のカバンをテーブルの上に置いているが、特に作業はしていない。武器もあのカタナ一つだけなのだろうか?そう疑問が過った時、アヤと目が合う。アヤは「えへへ!」と笑ってくる。ドキっとしながらガルドはなんとか笑顔を作る。


そして頭をブンブンと振ってから自分の作業に戻る。今回はアイテムカバンを持参する。カバンの中に回復剤、包帯といった治療薬。水と食料を少々後は明かりになるものだ。防具はハードレザーの鎧を着ており、腕や足にもレザー製防具を取り付けている。これは魔術による耐性付与が行われており、見た目以上に防御力は高くなっている。また、剣もいつものサーベルに加え、もう一本ロングソードを所持している。このロングソードには氷の属性が付与されており、いざとなった時は2小節の呪文で刀身に氷の刃を展開できる。


そうして各自が準備をしていると、ホーキンスが戻ってくる。


「全員準備は出来たか?そろそろ出発するぞ!」


ホーキンスも準備完了といった状態で、プレートアーマーにハルバード、義手の左手には盾を装備している。顔つきも余裕こそあるが、その完全武装具合に本気度を感じ

取ったガルドだった。


全員が立ち上がり、最終確認をしながら装備を身に着けていく。


ドーン!!!


その時だった。大きな爆発音が辺りに響き渡る。その場にいた全員が音の方を振り向く、方角から予想するに鉱山内部のようだ。そして誰が何を言う暇も無く、全員が臨時作戦本部から飛び出した。

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