第3話


鉱山内部はある程度広くなっており、明かりも点々とではあるが確保されてる。


鉱山内部にはアリア、ガルド、マックスの3人が入り、残りの隊員は入り口付近で待機している。


「しっかし、ストーンゴーレムとはね…自然湧き?それとも兵器?隊長、どう思います?」


「わからん、調査の必要があるだろう。それよりガルド、お手柄だったな。」


「いやいや、それほどでも…訓練用ゴーレムより楽でしたよ。」


「そういや、ガルドは訓練用ゴーレムに肋骨砕かれた事あったよな?」


「うるせぇ、昔の話だ!」


ガルドはマックスを睨む。そして同僚の軽口のせいで訓練生時代を思い出していた。


ゴーレムとは、戦闘や運搬で使用される二足歩行の魔道具で、額の魔力石の性能でゴーレム自体の能力が変わってくる。


逆にその石さえ壊してしまえば、体を維持することが出来ずに自壊するという仕組みだ。


また、ゴーレム自体は低級霊が乗り移ることでも発生する事があり、額の宝石の種類やの構築物で人工か自然湧きかを見分けるらしい。


訓練生時代の手痛い経験を元に学習したことが役に立ったな…とガルドは思った。


しばらく歩くと、事故現場であろう場所にたどりつく。


そこは坑道の右側に大きな穴が空いており、ゴーレムが暴れたのであろう後が残っていた。


中身の入ったトロッコはひっくり返り、線路も一部グシャグシャになっている。


「うわ…こりゃひでぇ…この横穴から出てきたんだろうな。」


そう言いながらマックスが持ってきた灯りで中を照らす。


「…ダメだ、相当深いぞこれ?全然見えねーや…隊長どうします?」


「奥へ進みたいのは山々だが、私たちが迷子では話にならないからな。マックス、入口待機組に伝えて探索用ゴーレムを持ってきてくれ。私とガルドはこの場所を確保する。」


「「了解!」」


そう言って二人が敬礼すると、マックスは入口に向かって走っていった。残ったアリアとガルドは辺りを警戒していた。ガルドはふとアリアの方を見て、彼女の事を考えた。


アリア・ルミナス隊長は他の兵士とは明らかに違う経歴を持つ人物だ。年齢は聞いたことはないが、まだ若い身でありながらその才能を第三方面軍司令官から見抜かれ、第三方面軍所属地域である程度の権限を持っている。


今回レーラントへの配属は志願したらしく、本人曰く「第三方面軍本部から離れた場所ならどこでもよかった」らしい。結局、前隊長であるホーキンスが首都勤務になった為あっさり叶った。入れ違いとなってしまった為、アリアとホーキンスは顔を合わせることはなかった。アリアが来てもうすぐ半年経とうとしているが、既にアリアもこの町の人間と良好な関係を築いている。


「どうしたガルド?私の顔に何かついているか?」


その視線に気づいたアリアが声を掛けてくる。


「いえ、隊長は相変わらずお美しいと思いまして!」


「ほぅ、世事くらいは言えるんだな。それより、今朝苦情が入ったぞ。お前たち昨日賭場で一晩中騒いでいたそうだな?」


実際お世辞でもなんでもなかった。長く少しウェーブした黒髪、黒い目と美しい唇、グラマラスな肢体、もしアリアが踊り子をしていたならば俺でも全部入れ込んじまうな…とガルドは思った。


「いやぁ…何のことだがわかりませんなぁ…」


「ふん…今度私も混ぜろよ?」


「ハハハ…機会があれば…ですね…」


(絶対誘わない。てか誘ったら昨日どころの負けじゃなくなる…)


ガルドは歯切れの悪い返事をしながら内心そう思う。


アリアが就任直後、歓迎会を開いたのだが、その場のノリでカード賭博が開催された。結果はアリアの一人勝ち。武芸だけでなく賭博も達人のようで、アリア以外がすってんてんにされてしまった。


美人だし、誘えば場に花が咲くだけに、何とも惜しい逸材だ…とガルドは感じた。


「そういえば、この町はどうですか?アリア隊長。」


「この町は良い。お前が残った理由が良くわかるよ。ここは本部とも離れているからな。本部に帰るとおせっかい連中がやれ恋人だ、やれ結婚だと騒ぐんだよ。」


「隊長って軍人の中の軍人って感じですし、隊長の結婚は想像出来ませんなぁ。ハハハ…」


そこまで言ったところでガルドは黙り込む。アリアから静かなで確かな殺気を感じたからだ。


(一応、結婚には興味がある…と)


ガルドは記憶の日記帳に書いておこうと決めた。その情報が生死を分けることがあるかもしれないと感じた。


「ガルド、お前こそ帰らなくていいのか?親に顔見世してるのか?」


「いや、俺は家族なんて居ませんしね。根無し草のオレにはここは良い環境です

よ。」


「そうか…すまない。嫌な事を思い出させてしまったか?」


「いえ、全く。確かに俺は風俗街に捨てられた孤児ですが、何とか今日まで生きていたし、生まれについては気にした事ないですよ。それに、今や俺が騎士団員ですよ?世の中何がどうなるかわかりませんなぁ。」


ハハハと笑うガルド。それを見てクスっと笑うアリア。そして、入口方面から大きな


何かが歩いてくる音が響く。どうやらゴーレムが到着するようである。


「さて、おしゃべりはここまでだな。任務に戻るぞ!」


「了解!」


その後、探索用ゴーレムを使った調査が行われた。やり方はゴーレムに映像記録用の魔石を搭載し、照明器具を取り付け、単独で送り込むと言うものだ。


大型の魔力探知機とゴーレムを操る操作盤、映像投影用の大きな鏡も持ち込まれた。


大掛かりな装置に見えるが、この技術自体は70年前の戦争で基礎が確立し、現在は10名未満で運用が可能になり、簡易量産がされたため、特に奇襲されやすい地形の調査や、未探査地区への進軍にはゴーレムは欠かせない存在となっている。


弱点としては呪符で動かすものより精密に動けるが、その分魔力の消費効率が悪い事と、操作盤からの信号が途絶えると操作不能になってしまう事。


あらためて、ゴーレムに魔力注入が行われ、ゴーレムが探索を開始する。


探査用ゴーレムは、大きさは成人男性約1.5人分。材質は鋼鉄で出来ており、頭部に発光する灯り用の魔石と、映像記録用の魔石。左手は鋼鉄の杭に換装されており、いざというときは自力で掘り進めるようにしてある。


「しっかし、昔はあれ動かすのに30人とかいったらしいから、技術の進歩は凄いね。」


戻って来たマックスが石に腰かけながらつぶやく。


「そりゃそうだ。70年前からある技術だ。段々と便利になっていくだろうよ。」


そう言いながらガルドも煙草に火をつける。ガルドもマックスもゴーレムに関しては訓練校で習った程度の知識しかないため、この場では完全にお払い箱状態である。


アリアは、現場指揮官として忙しそうに指示を出している。ゼルはゴーレムの操縦者として操作している。


しばらくするとゴーレムの足音は段々と聞こえなくなっていった。


大きな鏡にはゴーレムからの映像が送られてきていた。そこはまだ、横穴の内部のようで探査用ゴーレムは偶に頭をぶつけているのか、時折映像が乱れた。


ガルドとマックスも映像を退屈そうに眺めていた。


そしてゴーレムが暫く歩き続けると、横穴を通り抜けたようであった。ゼルがゴーレムの頭を右に動かすと何やら立て看板のようなものがあった。


「お?もしかしてあれって…」


「マックスも気づいたか?ありゃ廃坑になった…」


ゴーレムが立て看板に近づき確認すると、「南部3」と書かれていた。


ガルドはゴーレムの出た場所がすぐに廃坑となった南部坑道だという事がわかった。



「南部坑道という場所か…私も赴任後資料で読んだ。確か鉱石の採取量も少なく、その割にクモの魔物が出る為に3年前に封鎖になった…と書いてあったな。」


アリアも不思議そうに鏡を見ていた。


「南部坑道か…入口は封印魔術で封鎖したんだったよな。昔の大陸内戦の時、この鉱山って相当重宝されてたって話だぜ?何でもこの辺りの一帯を仕切る神様が、この鉱山に居るとか居ないとかって話だし?ゴーレムは…わかんないけど。」


「マックス、お前詳しいな?誰かに聞いたのか?」


「ん?あぁ、ほら南部坑道が廃坑になるとき、撤収作業終わってから炭鉱夫とか関係者入り乱れで俺らも飲んだじゃん?あんときに聞いたんだよ。」


ガルドもその時のことは覚えていた。


前領主であるゲイツが安全を優先して南部鉱山廃坑を決めたのだが、聞くところによると急にゲイツから議題が持ち上がり、間を置かずして決議に持っていったからだ。


勿論反対意見もあったが、結果は領主側のゴリ押しで決まった。


当初は採掘量の減少が心配されていたが、逆に死亡事故が無くなり、魔物の被害も皆無となったのだから、良い決定だったと納得している人も多い。


ただ、当時、現場監督だった男は余り納得してなかったようで、廃坑の日の慰労会でガルドは思いっきり絡まれたのを思い出した。


「隊長、そろそろゴーレムの魔力が限界です。戻してよろしいですか?」


ゼルがそういうと、二人の話を聞いていたアリアが近くの計器を確認する。


「何にせよ、今回はここまでだな。…これは新しい領主様の最初の仕事になるかもしれない。ゴーレムを戻せ!」


アリアがそういうとゼルは「了解」と返事をし、ゴーレムを帰路につかせた。


その後、ゴーレムが戻ってきたタイミングで、ジェフが鉱山内部へ入って来た。


その場でアリアとジェフによる緊急会議が行われ、鉱山には緊急警備網が引かれることとなった。


ジェフは既に鉱山の入り口付近に仮設本部と宿舎を用意を指示していたようである。


今日はほぼ全兵士が夜通し交代で見張りに当たることになり、明日からは護衛隊の兵士も当直に加わってくれるよう打診する事となった。


今日に限っては余り寝れないなとガルドは思った。

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