第2話

この町の見回りは少し特殊になっており、魔物が出現する可能性がある鉱山を主軸として行われている。


その為、鉱山側を常に2人体制で回るのが鉄則であり、今日はガルドとマックスがペアとなり回っていた。


また基本的に戦闘も少ないため軽めの装備であり、ガルドは支給されているサーベルとナイフを身に着けており、救護兵のマックスはボウガンに加えて小さな医療用肩掛けカバンを下げていた。


「あ~…だるぅ…」


そう言いだしたのはマックスだった。鉱山から少し離れた場所で2人とも座れそうな石に腰かけていた。


「なんだよマックス。まだ朝だぜだらしねぇ。」


「何言ってんだよ…昨日徹夜でカードやってたの忘れたのか?眠いったらありゃしねぇ。」


「お前は昨日一人勝ちだったからよかったじゃねーか。」


「け、お前らがツイてなさすぎるんだよ。昨日はごちそうさん!」


ガルドは少しイライラした様子で煙草に火をつけた。


「で、ガルドは新しい領主についてどう思う?」


「あぁ、ウラガンだろ?知ってるよ。首都の領主長争いで蹴落とされた野郎だ。」


「そうそう。奴は横領罪だったかな?領主長争いに負けた後は随分追及されてたみたいだぜ?」


「それで田舎に逃げてきた…って訳が…まぁ政治家なんて叩いて埃が出ない奴は一人もいねーよ。」


「まぁ実際そうなんだろうけどさ…まぁ俺としては賭場と風俗に寛容な領主ならだれでも良いんだけどな!」



「マックスはそうだろうな…」


ガルドがそこまで言ったところで、


ドーン!


という音ともに鉱山の入り口から砂煙が上がっているのが見えた。


ガルドとマックスは何を言うまでも無く現地へ向かって猛スピードで走っていく。

鉱山の入り口までは走ってすぐ到着できる程度の距離だった。ガルドたちが到着したころには鉱山労働者たちが入り口まで避難している最中だった。ガルドは避難してきた労働者の肩を捕まえて「大丈夫か!?」と声を掛けた。


「ガルドか!?ゴーレムだ!ゴーレムが襲ってきやがったんだ!」


すると次の瞬間、鉱山入り口から石でできた大男が歩いて出てきた。大きさは成人男性二人分。全身が石で出来ており、顔の部分には一つ大きな宝石がついている。


口は存在しないはずだがどこからか「オオオオオオ!」というような唸り声が聞こえてくる。その右手には金属でできた大きな杭が付いている。


「全員下がれ!ストーンゴーレムだ!」


ガルドがそう叫ぶと、サーベルを抜刀し、ストーンゴーレムの前に飛び出る。マックスは「こっちだ!」とその場にいた人を離れた場所へ誘導している。


「へ…旧大戦のポンコツがまだ鉱山の中でおねんねしてやがったのか…」


そういうとガルドはサーベルを前方に構える。久しぶりの緊張感が体を過るのが分かった。


先にストーンゴーレムが動いた。右手を高く上げ、そのまま振り下ろす。それを見てガルドは体を右に回転させ攻撃を躱す。直後ガルムが居た場所に右手が振り下ろされ、ドン!という音と共に大きな穴が空いた。


(こりゃ喰らったらひとたまりもねぇな…さっさと決めるか)


再度ガルドが剣を構えなおす。ストーンゴーレムが今度は両手を振り上げようとした。


その時、ガルドは地面を蹴り、一気に距離を詰めると、次に振り上げようとしていたストーンゴーレムの右手を踏み台に天高く舞った。


空中で剣の刃先を下に向けると、そのままストーンゴーレムの額の宝石めがけて剣を突き刺す。


全身石でできたストーンゴーレム。いくら鉄製の武器とは言え分が悪いように思うが、ガルドのサーベルは額の宝石にブスリと刺さった。手ごたえを感じたガルムはストーンゴーレムから飛び降りる。


額の宝石がパリン!と音を立てて割れると、ゴーレムは動かなくなり、直後力を失ったように手元から石の連結が取れていき、やがてストーンゴーレムの体は完全に自壊し、ただの石へと戻っていった。


その石の中から自らのサーベルを発見したガルドは、サーベルを腰の鞘へ戻す。


すると後ろからは拍手と喝さいが聞こえてくる。


「流石ガルド!やるじゃねーか!」


「ガルド助かったよ!今日は一杯おごらせてくれや!」


ガルドは振り返ると「いえーい!」と言いながらピースサインをする。


「ガルド!大丈夫か~?」


その人混みをかき分けマックスが走りながら声を掛けてる。


「おう、マックス。そっちはどうだ?労働者は全員無事か?」


「あぁ、今確認してもらってるが多分大丈夫だろうってよ。山の奥の方から現れたらしくてな。慌てて全員引き返したんだと。」


「そいつは良い知らせだな。念のため、応援が来たらもっかい鉱山内部を確認しないとな。」


その後、程なくしてアリア率いる応援部隊が駆けつけた。そこには領主代行の姿もあった。領主代行は息も絶え絶えという感じでガルドの肩を掴む。


「おお!ガルド君、怪我は無いかね!?みんな無事か!?」


「ジェフ領主代行、全員無事です!」


それを聞いたジェフはホッと肩を撫でおろす。


「それは良かった!一時はどうなるかと思ったが…しかし、ゴーレムとはな…」


「ええ…それより、ジェフ代行は何故ここに?」


「ああ、丁度詰所で新領主様のお迎えについてアリア君と話していたんだよ。そしたら「鉱山にゴーレムが出た!」と聞いてね、居てもたってもいられなくなって駆けつけたのさ。私も魔術くらいは心得があるからね。」


そういうとジェフはえっへんというような顔をする。そして、握手を求めてきたジェフに対して少し照れた様子でガルドは応じた。その時、手にチャリっと何か渡された感覚があった。


「ガルド君、本当にありがとう。少ないがこれは皆を代表しての感謝の証だと思って

くれ。内密に受け取ってくれたまえ。また何かあった時は是非頼むよ?」


ガルドがそう耳打ちされると金貨が十数枚手の中に見えた。これだけで、ガルドの月の給料の半分くらいの量である。ガルドはそそくさと金貨をしまうと、すぐ振り返

り、ジェフに敬礼をする。


「光栄であります代表代行!これよりガルド隊員は、鉱山内部の偵察に行ってまいります!行くぞ皆!」


そう言って回れ右した所で、アリアから頭をゴツッと小突かれる。


「それは私が言うことだ。よし、気を抜かずに行くぞ!」


アリアの声と共にガルドも鉱山内部へ向かい歩き始めた。

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