第104話【いつも通り】
凛華と付き合い始めて最初に迎える朝。
涼介は緊張しながら家を出た。
あの後まともに凛華と話せなかったな……。
だから今も緊張している。
人に興味が無さそうと言われ、実際あまり興味が無いと自分では思っていた涼介だが、初めて恋人ができこうも緊張するとは自分でも思っていなかった。
そんなことを考えているといつもの曲がり角が見えた。
2日ぶりに凛華の待っている姿を見て涼介は安心する。
「おはようございます先輩」
「お、おはよう」
やはり凛華の顔を見ると緊張する。
「先輩は相変わらず朝は眠そうですね」
「まぁな…」
本当は緊張しているだけなのだが、それは言わない。
というか、言えない。
それでまたいじられると耐えられる気がしないからだ。
そんなことを考えていると凛華と手がぶつかる。
そして、凛華が涼介の手を握る。
思わず凛華の顔を見た。
「ダメでした?」
「い、いや全然」
どうやらこれはスキンシップにはならないようだ。
2人は自然と恋人繋ぎというものしていた。
相手の手の温もりが伝わってくる。
相手にはどう伝わってるのか、手汗とか大丈夫かなど色々気になる。
そのせいか無言になっていた。
だが、その無言はどこか心地よく、いいものだった。
こうして手を握るだけで幸せな気持ちになれた。
今はこれだけで満足できる。
涼介は自分の気持ちをコントロール出来ていた。
さすがにこれ以上したらヤバいな……。
抑えきれなくならない程度にしなければ凛華を傷つけるかもしれない。
涼介はそう思っていたのだ。
それに凛華との約束もあるしな。
文化祭で全校生徒の前で告白する。
相当の覚悟をしなければいけないが、やるしかない。
あと舞に頼まないとな……。
舞に参加したいと言えばきっと参加はできる。
だから必要なのは覚悟だけだ。
顔を見るだけで緊張する俺に出来るか分からないがな……。
さすがに付き合う前より接することが出来なくなっているのはまずいだろう。
しかし、涼介にはどう接すればいいか分からなかった。
いつも通りと言われてもいつも通りというのがわからない。
「先輩?」
凛華が心配そうな声でそう言ってきた。
そんな不安が凛華に伝わっのかもしれない。
「どうしたんだ?」
何も無いような感じで言う。
「いえ、ちょっと痛いなって思いまして」
「すまん、強く握りすぎたか?」
どうやら無意識のうちに力を強めていたようだ。
「大丈夫ですよ
先輩はそれだけ私と離れたくないんですもんね?」
「…………」
ずるいな……。
離れたくないのは事実だがそれを言うのは恥ずかしい。
「まぁ、そうだな
お前とは離れたくない、ずっと一緒にいたいな」
しばらく無言になったあと涼介はそう言った。
「…………」
凛華は無言になる。
何も言い返してこない。
「……ずるいです!
そんなこと言うなんてずるいじゃないですか!」
どうやら照れていたようだ。
「いや、お前だってずるいだろ
お前と離れたいわけないだろ!」
「もぅ、またです
先輩顔見るの恥ずかしがってるくせにそういうことは言えるのがずるいです!」
どうやら凛華はカウンターしてこないだろうと思っていたようだ。
「いや、お前から聞いてきたんだろ」
お互い睨み合う。
そして笑いあった。
「なんか、さっきまで顔をまともに見れなかったのが、嘘みたいだな」
「さっきまでの先輩が緊張しすぎなだけですよ」
「そうだな
お前に嫌われたくなくて、どうすればいいかわからなかったのがやっといつも通りってのがわかってきたぞ」
「……だから、そうやってサラッと言うのがずるいって言ってるんですよ!」
凛華は顔を赤くしながらそう言った。
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