第103話【切なさ】
片付けが終わると時刻は14時頃だった。
平日のましてやクラスメイト達が授業を受けているというのに、自分は彼女と二人きりということに背徳感を覚える。
「先輩……隣りに座ってください」
「わ、わかった」
ソファーに座っていた凛華の隣りに座る。
「映画でも見ませんか?」
「別にいいが……体調は大丈夫なのか?」
今日凛華は風邪で休んでいるのだ。
無理をさせるわけにはいかない。
「はい、あれは……体と言うより、心の問題だったんで……」
「そ、そうか……それはもう解決したのか?」
「まぁ、一応解決しました……
と、とりあえずです!
これを見ましょう」
凛華は足元に置いてあった映画を見せてきた。
見たことは無いが名前は知っている。
「見たことありましたか?」
「いや、ないな」
「なら、これにしましょう!」
◇◆◇◆◇◆
あの夢の屋上の夕焼けはこの映画の名シーンでした。
見直すまですっかり忘れてました。
1人の女の子が1個年上の先輩に恋をするという物語でした。
まるで私達みたいです……。
でも、私の方が幸せです。
そんな感想を抱きながら凛華は涼介の方を見た。
目を泳がせて動揺していた。
先輩ってもしかしてこう言う恋愛映画になれていないんでしょうか?
途中手が当たったことがあったがその時も動揺していました。
「先輩……どうでした?」
凛華はわざとらしく甘えるような声で言う。
「えっと…まぁ、その、いいと思ったぞ
ラストのキスシーンとか……まぁ、本当に良かった」
「そうですよね!
私もあのシーンはいいと思いました!
憧れちゃいます」
「そ、そうか………」
ふふふ、動揺してますね。
先輩は今私とどの距離で接したらいいか迷っているはずです。
私もそうですし……。
だからこそ、今が攻め時です。
私はもう少し先輩とイチャイチャしたいです。
付き合う前にやっていた事で動揺されても困ります。
凛華は涼介の左手に少しずつ右手を近づけていく。
そして、涼介の手のひらに手を重ねた。
「っっっ」
涼介は声を出さなかったが驚いているようだった。
「ダメ……でした?」
「いや、ダメじゃない…
むしろ嬉しいな…」
やばいです。
今すぐに抱きつきたいです。
先輩最高です。
「私もですよ先輩」
凛華は必死に自分の欲求を抑えながらそう言った。
そして、しばらくの沈黙が流れる。
すると涼介が意を決した様な顔で凛華を見た。
「1ついいか?」
「なんですか?」
「俺たち付き合ってるってことでいいよな?」
「そうですね」
改めて言うとすごく恥ずかしいです。
「よかった……」
涼介は安堵した様子でいた。
「どうしてそんなこと急に聞いてきたんですか?」
「告白の返事を貰ってなかったからな」
あっ……。
すっかり忘れてました。
凛華は涼介が眠っている間に思いついたことを完全に忘れていた。
◇◆◇◆◇◆
「あの……私からも先輩1ついいですか?」
「なんだ?」
「あの告白の件一旦保留してもらってもいいですか?」
「…………は?」
意味がわからない。
今付き合っているという認識でいいと言っていたのに、告白の方は保留なんて意味がわからない。
「落ち着いてください、これには理由があるんです」
「……お、おう……」
「まず、先輩は月曜日の放課後と火曜日の放課後に私という好きな人がいるにもかかわらず、違う女の人2人きりで歩いてましたよね」
「………すまん」
とにかくそれしか言えなかった。
確かに凛華からすればおかしいことだろう。
「だから、その罰です
そして、過度なスキンシップもダメです」
「わかった」
「それで、私に告白するのは文化祭の日です」
「なんでなんだ?」
凛華がイベント事で告白されたいという性格をしているとは思えない。
「文化祭の一日目の舞先輩のクラスが何するか分かりますか?」
「いや、わからない」
「舞先輩のクラスは告白祭りというものをするそうです」
ここまで来ると話が見えてきた。
「先輩にはそこで有志の枠で私に告白してもらいます!」
やはりそうだった。
全校生徒全員の前で告白をしろと言うあたり凛華らしい。
「……………」
さすがにそれは相当の覚悟が必要だった。
「先輩ちゃんとこっちを向いてください」
そう言われ凛華に顔を合わせると凛華が涼介の頭のこめかみ辺りをしっかりと抑えてきた。
見つめ合うような形になり、咄嗟に目を背けてしまう。
「ちゃんと見てください」
そう言われ凛華をしっかりと見る。
可愛い。
最初にその感想がでてきた。
しばらく見ているとさっき見た映画のキスシーンを思い出してしまった。
あのシーンは先輩の方が後輩の子の方肩を抑えていたけどな……。
今は逆だった。
しかし、1度そのシーンを思い出すとなかなか頭から離れなかった。
もしかしたらここはキスするところなのかもしれない。
そう思ってしまう。
凛華もただ涼介を見ているだけだった。
それがキスをしてくれるのを待っているかのように見えてくる。
心臓の音が聞こえてくるほどドクンドクンと波打っていた。
息が荒くならないようにじっと堪える。
凛華は何かを感じとったのか涼介の頭から手を離す。
そして、今度は涼介が凛華の頭の後ろの方に手を回した。
そうすると凛華は目を閉じてじっと待った。
涼介も目を閉じ少しずつ凛華に近ずいていく。
顔と顔がゆっくりと近づいていく。
あと少しでお互いの唇が触れ合うという所で涼介の唇に何かがぶつかりこれ以上先に進めなくなった。
思わず目を開ける。
凛華の人差し指が涼介を止めていた。
「ダメですよ先輩
私とこれ以上したかったら私に告白してください」
あぁ……。
凛華はこれを伝えたかったのだろう。
辛い
その一言に限る。
飢えたライオンの前に最高級の肉を置き我慢しろと言っているようなものだ。
凛華ともっと濃密に触れ合いたいと思っても我慢しなければいけない。
そして、触れ合いたければ覚悟を決めろと凛華はそれを伝えたかったのだろう。
「ふふ
先輩凄い切なそうな顔してますね」
今ニヤリとしている凛華の顔が涼介にはイタズラ好きの小悪魔に見えた。
「それじゃあもっと耐えられなくしちゃいますね」
凛華は涼介に顔を近づけ、その頬にキスをした。
「今はこれで我慢してくださいね先輩」
凛華は楽しそうに微笑んだ。
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