第97話【不安】
放課後になると涼介はすぐに教室から出ようとした。
「なぁ涼介、ちょっといいか」
田中が話しかけてきて涼介は足を止める。
「なんだ?」
「数学のことなんだけど、今日も教えてくれないか?」
「あ、それうちもお願いできるかなぁ?」
会話を聞いていたのか春夏もそう言った。
「いや、すまん
今日はちょっと……」
断ろうと思ったが、寸前で辞める。
「ちょっと連絡を取ってくるからそれから決めてもいいか?」
「大丈夫だぜ」
「うちもいいよぉ」
火曜日は凛華がほぼ毎週部活に行っている日だから今日もその日かもしれないのだ。
涼介はポケットからスマホを取り出すとRAINを開いた。
涼介「今日一緒に帰れるか?」
なんと送るか迷ったがシンプルにそう送った。
するとすぐに既読がついた。
凛華「いいですけど、どうしてですか?」
いつもならメールでも「一緒に帰りたい」と言えばからかってくるだろうがからかってこない。
どうやら本当に普通じゃないようだ。
涼介「話したいことがあるんだ」
誤魔化すよりもそう送るのが1番だと思った。
凛華「分かりました
でも私今日は蛍ちゃんと部室で勉強する予定があるんですけど……」
涼介「それなら待ってる」
凛華「分かりました」
部室を閉める時間はいつもと変わらないはずだから時間を指定することは無いだろう。
そう思い涼介はスマホを閉じた。
「悪い、待たせたな
勉強教えてやるよ」
「おう!ありがとな」
「よろしくねぇ」
◇◆◇◆◇◆
3人は机をくっつけて座った。
「そういえばなんで田中は俺に勉強を教えてくれなんて言ったんだ?」
田中のイメージ的に勉強熱心だとは思えない。
「それうちも気になるぅ」
「実はな」
田中は深刻そうな表情をしながら口を開いた。
「昨日4人で勉強したってことを母ちゃんに言っても信じてくれなくて喧嘩になったんだよ」
深刻そうな話をする雰囲気を出したわりにはどうでもいい話だった。
「それでな、証明するために今回のテスト平均点超えてやるよって言ったんだよ
そしたら母ちゃんが出来ない言ってきて、出来たら1万やるって言ってきたんだよ
だからこうして勉強して平均点を超えて見返してやろうと思ってな!」
何となくだが田中と田中母がそうやって喧嘩するのが想像できた。
「随分賑やかなんだな」
「そうか?
うるさいだけだ」
「でもぉ、そのくらいが楽しいとうちは思うよぉ」
そんなふうな話をしながら涼介は2人に勉強を教えながら時間を潰した。
◇◆◇◆◇
「じゃあ、俺達はもう行くからな」
「おう!
今日はありがとな」
「じゃあ、田中くんまたねぇ」
春夏が手を振ると田中は嬉しそうに手を振っていた。
時刻は17時ちょっと前とそろそろ凛華達が勉強を終える頃だと思い終わりにしたのだ。
「涼介くんは今日誰かと帰る予定があるのぉ?」
「あるな」
「そうなんだぁ
彼女さんとかぁ?」
「いや、ただの後輩だ」
「そっかぁ」
そのまま話していると春夏は用事があると2階で別れた。
涼介は1人で下駄箱まで来て凛華を待った。
外ではさっきまで降っていなかった雨が降ってきていた。
◇◆◇◆◇◆
しばらく待ったが凛華が来る気配はなかった。
凛華にRAINを送ってみたが、既読がつかない。
涼介は気になり1年生の下駄箱の方まで来てみた。
人はおらず、凛華の下駄箱がどこか分からないため帰っているかの確認が出来なかった。
「はぁ……」
どうしたものかと思いながらため息を吐いた。
ふと足元を見るとそこには見覚えのあるストラップが落ちていた。
しっぽがピンク色の犬のストラップ。
司が持っていたもの色違いのものだった。
涼介はそれを拾うとポケットに入れた。
「涼介先輩?」
そう言われて振り返るとそこには涼介が待っていた人物………ではなく蛍だった。
「蛍か……」
凛華ではないとガッカリしたが凛華とのRAINを思い出した。
「凛華がどこにいるか知っているか!?」
慌ててそう聞く。
「え、えっと……凛華ちゃんなら私より先に部室を出ましたけど……」
蛍が言っていることなら本当なら凛華と合わないことが不思議だ。
「何分前か分かるか?」
「確か私が部室を出る10分前だったと思います……」
蛍がまっすぐ部室からここまで来たのなら涼介よりも早く凛華が着いたのかもしれない。
それだったら待っていても凛華が来ないのは納得出来る。
しかし、一緒に帰る約束があったため先に帰るなんて考えられない。
だとしたら凛華に何かあったのかもしれない。
「涼介先輩……?」
「あぁ、すまん
教えてくれてありがとな」
蛍に呼ばれて慌てて反応する。
そして蛍に礼を述べると涼介は校内を見て回ることにした。
◇◆◇◆◇◆
部室を覗いたり、1年生の教室を見てみたが凛華はいなかった。
RAINの既読もついておらず、どうやら本当に凛華は帰ってしまったようだ。
RAINの既読がつかない、約束を破る。
そして1年生の下駄箱に落ちてたあのストラップ。
凛華に普通じゃないことがあったとしか思えなかった。
涼介は不安に思いながらも帰るためにバッグから折りたたみ傘を取りだした。
開こうとしたが、傘を開くボタンのところが壊れていたため開くことが出来ず、濡れて帰るしか無かった。
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