第96話【心配】

いつもの曲がり角。

そこにいつも自分を待っている影はなかった。


涼介は珍しく自分の方が早く来たのだと思い凛華が来るのを待っていた。


少しずつ肌寒くなってきているため、長く待ちたくない。

だからいつも凛華は待っていてくれているのだと思うと申し訳なくなる。


そういえば、いつから待つようになったんだろうな。


最初は偶然時間が同じで見かける程度だと凛華は言っていた。

それがいつの間にかここで待ってわざわざ合流してから一緒に行くことになっていた。


最初は週に3回〜4回程度だった。

それがいつしか毎日。

いつの間にかお昼ご飯まで週に何回か一緒に食べるようになっていた。

部活に行くのも積極的ではなかったが、最低でも週一で行くようになった。

体育祭も真面目に参加した。


そう考えると、凛華と会ってから色々変わった。


そんなことを思いながら5分以上待ったが来る気配はなかった。


寝坊か?


凛華も決して完璧では無いため有り得ないとは言いきれない。


凛華を呼びに家まで行こうかと考えたが、寝坊だとしても司がいるため、遅刻することは無いだろう。

そうなるとわざわざ呼びに行く必要もなかった。


実際約束して一緒に行ってるのではなく、相手が待ってたから自分も待ってるという、感じだから呼びに行く理由にもならない。


呼びに行って「そこまでして私と一緒に行きたかったんですね」と言われてからかわれてもめんどくさい。


だから涼介は1人で学校に行った。


◇◆◇◆◇◆


「昨日から凛華の元気がなかったけど何か知ってるかい?」


お昼休み、司と一緒に部室でご飯を食べていると突然司がそう言った。


「わからないな」


最後に凛華と話した時に凛華の誘いを断ったがそれだけの理由で落ち込むわけは無いだろう。


「そうかい」


「そんなに酷かったのか?」


「うん

どこか上の空って感じだったね」


「それは大変だな」


どうやら朝来なかったのはそれが原因のようだ。


「ちなみにお前は心当たりがあるのか?」


「いや、さっぱりだよ

まず僕が凛華を怒らせることなんて滅多にないからね」


「滅多にってことは怒らせることはあるんだな」


涼介にはその滅多に怒らせることがないの滅多すら想像できなかった。

確かに普段温厚な司が大事な妹を怒らせることなんて想像が出来ない。

凛華も司とは良好の関係だと思うし、よっぽどの事がない限り怒らないだろう。


「まぁね

最近だと確か2年前だったかな」


「随分前だな」


「そうだね

あの時の僕は受験でいっぱいいっぱいだったからさ」


「失礼なことでもしたのか?」


司が凛華に対してそんなことをするなんて想像もできない。


「いいや、家族旅行の時に凛華とお揃いで買ったストラップを落としちゃってね」


「なんかカップルみたいだな」


「そうかい?

まぁ、その事が凛華にバレて大喧嘩だったね

結局近くの交番に届いていて事なきを得たけど」


「それは良かったな」


「まぁね

でもそのおかげで今も大事に持ってるよ」


司はバッグから犬のストラップを見せた。

しっぽが青色なのが特徴的だ。


「悪い、随分脱線しちゃったな」


「そうだね

でも、涼介でも知らないなら他の事なのかな?」


「多分な

俺もあいつにあったら聞いといてやるよ」


「ありがとね」


司には日頃から恩があるためこういう時に返さないと返す時がない。


だから涼介は放課後にでも凛華に会おうと思ったのだった。

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