第49話【お見舞い】

最近、いつもの曲がり角で待っていても先輩が来ません。

別に約束しているわけじゃないし、最近の先輩が毎日忙しくて疲れているのは知っています。

昼休みも部室で寝ていることが多いので邪魔するのも悪いです。

私も蛍ちゃんと一緒に食べてますから気にしてないですけど……。


待ち始めて5分経っても先輩は来ませんでした。

先輩が来なかったのはこれで6回目。

そんなことを思いながら凛華は一人で学校に行った。


◇◆◇◆◇◆


昼休みに蛍の所へ向かう前に部室を覗く。

それが最近の凛華の習慣だ。


窓から覗いてみるといつも涼介が寝ている所に涼介の姿は無く。

部室は空だった。


どうしてだろうと思ったが、まだ涼介が来てないだけだと思いそのまま蛍の所に凛華は向かった。


「あっ、凛華ちゃんこっちです」


二人は学食で食べていた。

学食にいると凛華は目立つ。

最初は周りの視線に怯えていた蛍だが今ではすっかり慣れたのか普通に話している。


「そういえば涼介先輩が風邪で学校をお休みになったの知ってました?」


「えっ、そうなの?」


「はい、今日司先輩と体育の場所が一緒になった時に聞きました」


「知らなかった

でも、なんで私に?」


蛍がわざわざ教えてくれたことが気になったので聞いてみた。


「気のせいかもしれませんが涼介先輩と凛華ちゃんは仲が良い気がしたので……」


何故か少し申し訳なさそうに蛍はそう言った。


仲がいい……ですか。


そこの部分だけ気になって、このあとの授業に少しだけ集中できなかった。


◇◆◇◆◇◆


目が覚めると頭が重く、痛かった。

なんだかポカポカとして頭がボーッとした。


風邪……だな


一応「風邪引いた。休む」と司にRAINを送りまた眠りについた。


次に目を覚ましたのは誰かの気配があったからだ。


誰が来たのか確認するために涼介は目を開けるとそこにはナースが居た。


まだ風邪が治ってないから幻覚を見ているのかもしれないと思い目を瞑った。


「今起きましたよね先輩」


自分を呼ぶ幻聴すら聞こえてきた。

これはますますやばいと思い布団を深く被った。

しかし、すぐに布団を全て捲られる。


「何やってるんですか先輩」


そろそろ現実逃避を辞めようと目を開けた。

そこには凛華がいた。

しかもナースの服を着ている。


「なんでいるんだ?」


「先輩が風邪引いたって聞いたんでお見舞いに行こうと思っていたら近くで綾子さんに会いまして、それで事情を説明したら家に入れてくれて、この服まで用意されて……」


そこまで言うと凛華は笑って誤魔化した。


「はぁ……で、綾子さんは今何やってるんだ?」


「なんか、数分前にまた仕事に戻るって家を出ていきました」


それは色々大丈夫だろうかと心配になったが今はそれどころじゃなかった。


「俺は寝てだいぶ良くなったから帰ったらどうだ?」


「本当ですか?

とりあえず、熱計ってみましょう」


どうにかして帰らせようとしたが無駄だった。

凛華は体温計を取り出し涼介の腕を無理やりあげて脇に挟ませる。


「自分で出来るから」


「いえいえ、そんなこと言わずに今は私に任せてください」


「いや、ほんとに……」


測り終わった体温計には「37.5」と表示されていた。


「まだ少し熱がありますね

ちょっと直に確認してみましょう」


凛華は楽しくなってきたのか自分の頭を涼介の頭に近ずけおでことおでこをくっつける。


「んー、ちょっと熱い……ですかね?」


「あとは寝てれば治るからお前は帰っていいぞ」


もう一度言って何とかして凛華を帰らせようとするが、そこで涼介のお腹が大きな音をたてた。


「…………」


「ご飯は食べましたか?」


「そういえば朝から何も食べてなかったな」


「やっぱりですか

ちょっと待っててくださいね」


凛華は急に部屋を出ていったかと思うと一分くらい経った頃に戻ってきた。


「お粥を持ってきました先輩」


「ありがとう」


まだ少し頭が重い感覚があるのでこれはありがたかった。


「それじゃ、口を開けてください」


「は?」


凛華はスプーンでご飯をすくうと涼介の口に運ぶ。


「ちょっと待て、なんでそうなる?」


「あっ、ふーふーしてませんでしたね」


凛華は一旦スプーンを自分の口元に戻すとふーふーと息をかけてまた涼介の口元に運んできた。


「ほら、熱くないので食べてください」


「いや、待て自分で食えるからいい」


「いえいえ、私は先輩専用のナースなんですから気にしないでください」


「いや、そういう問題じゃなくて」


必死に抵抗している涼介の口を塞ぐように凛華は無理やり涼介の口にスプーンを入れた。


「……美味い」


「ふふ

それは良かったです

まだまだ沢山ありますから遠慮しないでくださいね」


「あ、あぁ」


涼介は諦めてお粥が無くなるまで凛華から「あーん」を受けた。


「ご馳走様でした」


「はい、お粗末様です」


「まぁ、なんだ、その、今日は来てくれてありがとうな」


一応お痒を用意してくれた凛華に対してお礼を言った。


「何言ってるですか先輩

まだまだこれからですよ」


「えっ?」


凛華はノリノリでそう言った。

涼介の一日はこれで終わる……わけではなかった。

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