第45話【それぞれの準備】
木曜日の昼休み……それは書道部に体育館が貸し出されている時間だった。
舞は軽く食事をするとゴールに向かってボールを投げ始めた。
一球目は入らず。
二球目は入った。
三球目、四球目は入らず。
五球目は入る。
一定の確率ではなく、投げたボールがたまたまがゴールに入ったという感じだった。
「お疲れ様
練習は順調かな?」
突然後ろから声がしたので舞は振り返った。
「いやぁ全然ダメダメですなぁ
案外入らないもんだね」
「そうかい」
司は落ちているボールを一つ手に取ると軽く回してから構えた。
数秒ほどゴールを見つめるとボールを投げた。
司の手から離れたボールはそこにコースがあるかのように綺麗な弧を描きゴールに入った。
「ゴールをしっかりと見て、投げれば必ず入ると思うよ」
入ったのを確認すると舞にそう言った。
「えぇ……司なんかずるい!
ていうか、今の嫌味にしか感じなかったよ!
普段の涼介がやってることと同じにだったよ
こっちが必死にやってるのに涼しい顔してサラッとやっちゃうんだもん……」
俯き消え入る声でこういった。
「本当にずるいよ……」
「えっと……涼介も涼しい顔してやってるけど、頑張っていると思うよ?
今も部室に行ったら爆睡してたもん
早く帰って何かしているんだよきっと」
確かに最近来ていた部活にまた来なくなった。
だから、司が言っていることは真実なんだと思えた。
「そうなんだ……
ねぇ、司」
「なんだい?」
「私に投げる時のフォームを教えて」
舞は真剣にそう言った。
「舞は今でも綺麗だと思うよ」
司のその言葉に舞は顔を赤くした。
「もお、バカ」
◇◆◇◆◇◆
「凄いです
凛華ちゃんすぐに出来ちゃうんですね」
放課後になると凛華と蛍が部室で裁縫をやっていた。
「そんなことないです
蛍ちゃんの教え方が上手だっただけです」
凛華は嘘をついていなかった。
実際教え方は分かりやすかった。
それでも、元々凛華は教えられたことをすぐに出来るというのもあったのだが。
「わ、私なんて全然ですよ…
本当にこれしか取り柄がないんで」
「そんなことないです
蛍ちゃんには蛍ちゃんの良さがありますよ」
「そんな……私に出来ることは凛華ちゃんも出来ます
私が凛華ちゃんのために何かやるって無理だったんです」
「私だって失敗くらいしますよ」
落ち込んでいる子供を母が慰めるような優しい声で凛華は言った。
「わ、私は凛華ちゃんの倍くらい失敗してますよ」
「私にも出来ない事くらいあります」
「それでも、私よりは多くの事ができます」
凛華が何か言うも蛍はそれに反論する。
「今だって友人を慰めようとして逆に落ち込んじゃっていますもん」
「それは私が悪いです」
このままでは埒が明かない状態だった。
「蛍ちゃんは私の噂知ってますか?」
「噂ですか?」
聞いた事ないと言っているような反応だった。
「中村凛華の周りには人が沢山いる。
それと同時に中村凛華の周りは沢山人が入れ替わるって噂です」
「そんな……それは凛華ちゃんの友達が多いだけ…ですよ」
「いいえ、ほとんど失望させてしまってるんですよ
それに私実は友達が少ないんですよ」
無理やり笑った顔を蛍に見せた。
「だったら……私が友達になってもいいですか?」
「えっ」
自分のダメなところを言って元気づけようと思っていたため、友達になろうなんて言われるとは思ってもいなかった。
「私なんかでいいんですか?」
「はい!
凛華ちゃんにはいい所いっぱいあるって改めてわかったので友達になってくれたら嬉しいです」
ただで真っ直ぐな純粋な笑顔が凛華の目には映っていた。
この日二人は本当の友達になった。
「友達なら敬語辞めますか?」
「そ、そうですね」
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