第44話【準備】
教室に入り自分の席に行くとそこには司が座っていた。
「よっ体調は大丈夫か?」
司は体調が悪いから涼介という代役を立てたという名目上はそうなっている。
「お陰様で休めたよ」
「そうかそれなら良かった」
「ていうか、どうやって僕達が決めた5種目全部を引いたんだい?」
さっきまでのどうでもいいような会話とは違い真面目な顔でそう司は聞いてきた。
「そんなことより体調良くなったなら早く退けてくれないか?
座りたいんだが」
未だに司が涼介の席に座り、涼介は立っているという状態だった。
「聞かないと体調が完全に良くなったとは言えないかなぁ」
そう言いながら司はわざとらしくこちらを見てきた。
「はぁ……簡単な話だよ
あれは完璧に見えて完璧じゃなかったそれだけだ」
呆れながらもそう説明した。
「完璧じゃないねぇ……
それはどこの部分だい?」
「全部だよ全部
種目だって部活としてやってる所と全くやった事がないところで区別し、フェアに見えるようにしている
だけど、部活には所属していない経験者達に対しては何も言っていない」
「涼介みたいな例だね
でも、経験者も縛るってなると相当の手間がかかるから仕方ないじゃない?」
「それもある
あとさっきの放送もだ
放送することによって不正を防止するという役割を果たしてるんだろうが、放送してようと無かろうと絶対に見えない部分がある」
「そんなところあったかな?
僕には不正ができるような見えないところなんてないように見えたけど」
司は先程までの光景を思い出しながら言ったようだ。
「あるだろ
外側はみんな見てるが中は見てないところがな」
ここまで言えば誰でも分かるだろう。
「クジを入れる箱ってことかい?」
「そうだ
あの中でなら不正し放題だ
見えてないし誰もが油断してるからな」
涼介はニヤっとした。
「さすが涼介ってところだね」
「ま、わかったなら退けてくれないか?」
「いいけど、最初に言ってたことの方はどういうことなんだい?」
「それは当日までのお楽しみって事にしてくれ
これだけは確証がまだ得られてない」
「わかったよ」
「それと、今日から暫くの間部活には行かない」
「いつも通りだね」
そう、凛華と話すようになる前に戻るだけだ。
◇◆◇◆◇◆
放課後になると涼介はすぐに教室を出て下駄箱に行った。
前みたいに凛華を待つためじゃない。
早く帰るためだ。
いつもの二倍の速さで歩き、家へ帰る。
二人で帰る時よりも圧倒的に速い。
昔はいつもこのスピードだっただけだが。
家に帰るとすぐに自分の部屋へ行きタンスを開けた。
「あった」
引き出しの整理をきちんとしていたためすぐに探し物が見つかった。
水泳をやっていた頃の水着だ。
あれから身長が伸びたりと体に変化があったが、成長しても着れるようにと大きい目のサイズを買っていたものがあるため、一応着れるはずだ。
バッグに道具と水着を入れると家を出た。
向かう先は近くの市民プールだ。
「久しぶりだな……」
料金を払ってから更衣室に入る。
水着は問題なく着ることが出来た。
道具を持って階段を上がっていく。
久しぶりに泳ぐことに対してワクワクする気持ちもあるが、泳げるか分からないことに対する恐怖もある。
この時間の利用者は少なく、一人一コース使える状況だ。
道具を置き礼をしてからコースに入る。
頭も含め体全体を水につける。
少し冷たいが、平気な温度だった。
満を持して壁を蹴りスタートする。
久しぶりに泳ぐ感覚は体が軽いのか重いのか分からないような変な感じなった。
フォームもぐちゃぐちゃで遅いと客観的に見なくてもわかる状態だった。
それから一時間ほど泳ぐと、少しずつだが慣れてきた。
それから泳いでて支障がないくらいの水分を補給すると壁を蹴った。
毎日1500mを泳ぐのだ。それが自分に定めたルールだ。
体育祭まで残り16日。
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