第30話【落ち着く匂い】


「わ、私こういうの初めてです…」


涼介が扉を開けると

凛華は少し緊張した様子で扉の中に入って行く。


「とりあえず、これで拭いてからシャワー浴びてこい」


涼介は濡れて帰ることを想定して、大きめのタオルを玄関に用意していた為それを渡した。


「先輩って意外と気が利くんですね」


「意外とは余計だ」


「日頃先輩の態度が悪いからですよ」


「うっせー

服は適当に女性物のや出しておけばいいよな?」


濡れた服を乾かしている時に着る様の服が無いため涼介が用意するしかなかった。


「いやいやぁ、女の子が男の子の家に濡れた状態で来た時の替えの服と言ったら先輩ワイシャツとか先輩が普段体育の時に使ってて先輩の匂いが染み付いたジャージとかが常識じゃないですかー」


「どこの世界の常識だよ

で、服どうするんだ?」


「そーですね…先輩のジャージでお願いしますね」


「なんで俺のジャージなんだよ……」


「それは先輩が私帰ったあと私が着たジャージで……ってどこに行くんですかー!!」


これ以上凛華Worldを広げていると余計な時間を喰い風邪をひきそうなのでさっさと着替えを用意してシャワーに行かせようと考えた。


「服は用意しておくから、入って来い

風呂は奥の部屋だ、入ればわかる」


「もー、最後まで話させてくださいよ」


凛華は少し落ち込んだ様子でシャワーに行った。


「これ以上お前を見ていたら目に毒なんだよ……」


涼介は誰に聞かせるわけでもなく、ただの独り言を部屋で呟いた。


◇◆◇◆◇◆


「さて……」


涼介は一応本人の希望を叶える為に本当に自分のジャージを用意した。

決して、凛華が言おうとしていたようなことをするためでは無い。


涼介は脱衣所に入ると、持ってきたジャージを置き、濡れた服を洗濯機に入れて洗濯をした。


「ここに着替えおいておくからな」


一応人声掛けておかないといけないと思った。


「さっきむっつり系って言われたからって覗きをして、オープンスケベになりにきたんですか?

さすがにそれは訴えますよ」


「ちげぇよ、別に覗きに来たわけじゃねぇ」


「そんな必死になって先輩面白いですね、少しならいいですよ?」


「いや、見ねぇからな」


さすがにこのあと気まずいことになることくらい分かるためそんなことはしない。


普通に犯罪だしな。


◇◆◇◆◇◆


日曜日に先輩を外に出そうと思いふざけて迎えにこさせた結果物凄いことになっちゃいました。

まさか先輩の家にきて、シャワーを浴びることになるとは思わなかったです。


それに………


先程ふざけてでも覗くことを許可しちゃいましたし……来ないとわかっていますけどなかなか大胆なことしちゃいました。


体を隅々まで洗い終わった凛華は風呂から出た。

脱衣所には綺麗に畳んであるジャージが用意されていた。

左胸のところには橘涼介と書かれているため、本当に涼介のジャージなんだとすぐに分かった。


「んん…」


着る前に凛華はジャージの匂いを嗅いだ。


何故だか落ち着く匂いをしており、いつまでも嗅いでいられる匂いだった。


「なんか変態みたいだなぁ、私」


声に出すと何だか恥ずかしくなりすぐに嗅いでいたジャージを身にまとった。

そして、襟の部分を上げるとまた匂いを嗅いで部屋を出た。


やっぱ落ち着く匂いです。


◇◆◇◆◇◆


「シャワー終わりました」


リビングは玄関の近くの所にあるため、凛華でもすぐに分かった。


涼介はソファーに部室にいる時と同じように座っていた。


その姿勢が1番落ち着くんでしょうか?


そう思いながら凛華は涼介を少し観察した。

服は先程とは変わっており、部屋着になっている。


先輩も濡れていたため、着替えたのでしょう。


「お、そーか

なら俺も行ってくるか…」


涼介は凛華のことを一瞬だけ見るとそのまま部屋を出ていこうとした。


「先輩私の格好についてなんかないんですか?」


凛華は扉を塞ぐように立った。


「似合ってる似合ってる」


涼介は棒読みで褒める。


「もー、私は褒めて欲しかったんじゃないですよー!!

他になんかあるじゃないですか、ほら」


凛華は自分の左胸辺りに書いてある文字を指して強調して見せる。


たぶん男子的には自分の名前の書かれたジャージを女の子が着ていたらドキドキするんでしょう。

私は少女漫画くらいしか読まないんで、そこで出てくる知識しか知らないですけど。


「俺風呂行くから、お前は適当にくつろいでおけ」


先輩は凛華の胸を見たかと思うと直ぐに逸らし、そのまま部屋を出て行った。


凛華はその光景を見るとふと我に返った。

そう自分で自分の胸を見るよう言うなんて我ながら大胆なことをしたのだ。


思い恥ずかしさでどうにかなりそうです…。

自分の家だったらすぐに部屋にあるぬいぐるみに顔を填めて反省したいです……。


うぅぅと声を出しながら凛華はソファーに座ると着ている涼介のジャージの袖で自分の手を隠し、その状態で自分の顔に近ずけた。


とりあえずはこれで我慢です……。

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