第29話【相合い傘】
玄関を開けると強い雨が降っていた。
「これは強くなる前に帰ってこないとな…」
先程テレビで午後にはもっと強くなると言っていたので、多少濡れても急がなければいけないと思った。
コンビニまで走って5分かかる感じだがこの雨では走っても8分はかかるだろう。
なんで俺はあいつの為にこんなことしなきゃ行けないんだ…
涼介はそんなことを思いながらも走り始めた。
◇◆◇◆◇◆
「よう…待たせたな」
涼介がコンビニに着くまで何分経ったかは分からないが凛華はのんびり雑誌を読んで待っていた。
「遅いですよ先輩、どれだけ待たせるんですか?」
「わりーな……て言うかなんで俺が謝んなきゃいけないんだ?
無理やり呼び出したのお前だよな?」
「無理やりなんて人聞きが悪いですね〜
いやぁ、傘盗まれちゃって大変だったんですよ」
どうやら、濡れて帰るのが嫌という理由で涼介を呼び出したようだ。
「おい、俺も傘1個しか持ってないぞ」
言われれば2つ用意したのだが、生憎凛華は涼介に伝えなかった。
「なら私が傘をさして、先輩は濡れて帰ってください」
「この雨の中わざわざ来てやった俺に濡れて帰れと言えるんだ?
おかしいだろお前」
「私はお前じゃないですよ、凛華って名前がちゃんとあります
先輩がどうしてもと言うなら傘に入れてあげてもいいですよ?」
「それはこっちのセリフだ
お前こそどうしてもというなら入れてやるぞ
て言うか俺も先輩って名前じゃない」
2人が意味の無い言い争いをしているのもお構い無しに雨はだんだん強くなっていく。
明らかに先程とは比べ物にならないくらい雨が強くなっていることに2人は気がついた。
「はぁ…なんで俺達はこんな言い争いしてんだろうな……
もう2人で傘入って帰るぞ」
多少の恥ずかしさよりも風邪をひく方がめんどくさいと思った涼介はそんな提案をした。
「ようやくわかってくれましたか
仕方ないので先輩を傘に入れてあげましょう」
凛華も言葉はどうであれ2人で1つの傘を使うという意見には賛成した。
◇◆◇◆◇◆
「意外と狭いですね」
涼介が使っている傘はあまり大きいものでは無いため、2人だとかなり狭く肩は濡れてしまっている。
「そう思うならお前は走って帰れよ」
「いえいえー、先輩こそ走ったらどうですか?
乙女に濡れて帰れなんてひどいですよー!!」
「俺はこれが濡れるから嫌なんだよ」
涼介は先程のコンビニでチキンを買っていた。
「ならそれは私が美味しく頂いておきますので、先輩は遠慮せず走ってください」
「誰がお前なんかにあげるかよ」
「私の名前はお前じゃないです」
凛華はむつけたのか顔を膨らませ涼介の方を見てきたが、生憎涼介はその光景を見ようとしない。
なぜなら、雨で凛華の服が濡れてきているため、少しずつ透けてきているのだ。
その事にすぐに気づいた涼介は凛華をあまり見ないようにしていた。
幸いもうすぐ涼介の家に着くため、もう少しの辛抱だった。
「先輩?
ぼーっとしちゃってどうしたんですか?」
「ちょっと考え事をしていただけだ」
あながち間違えてはいないため、嘘にはならないだろう。
「にしても先輩ってやっぱりむっつり系の人ですよね」
凛華は楽しそうな声で言った。
「なんでそうなるんだ?」
「私が気がついてないと思ってるんですか?
さっきからチラチラと私の胸見てますよね」
「…………お前のやつなんか興味ねぇよ」
もちろん嘘である。
先程から何度も凛華の双丘を押さえつけている水色の布をチラ見している。
見ないようにしているがしかし、涼介も一般的な(友達が少ない所は除いて)男子高校生であるため、己の内に獣を飼っている。
獣と己の自制心。
その両者の戦いの果てにチラ見みという行為に至った。
「本当に興味ないんですかー?」
凛華は透けていることに気づいているのにも関わらず、恥ずかしがろうともせず傘を持っている涼介の腕に抱きついた。
涼介は反射的に引き剥がそうと突き放したため一瞬凛華が傘の外へと全身が出てしまい更に濡れてしまった。
「もう……先輩のせいでこんなになってしまったんで責任……取ってくださいね?」
「すまん……
とりあえず家で雨宿りするか?」
付き合ってもいない女子を家に呼ぶなんて、どうかしているとは思うがこのまま濡れて返すわけにもいかなかった。
凛華もこんな展開になるとは思っていなかったのか声は出さずに首を縦に動かすだけだった。
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