第25話【先輩が怖いもの】

先輩は意外なことに色々なアトラクションに連れてってくれました。

しかし、私は気になってることがあります。


「先輩、さっきから絶叫マシンのところ避けてません?」


「…………なんの事だ?」


妙な間がありましたね。

これは決まりですね。


「先輩次はあれに乗りましょっ!!」


凜華は遊園地内にある山と一体化したアトラクションを指した。


「いや、それより次はこのキャラクター達のショーを見に行かないか?」


涼介はジェットコースターに乗るのが嫌な子供のように必死に違うアトラクションを薦めた。


「いえいえ、さっきからずっと先輩に案内して貰ってるんで次は私が案内しますよ」


そう言うと凜華は山の方へ歩き出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


最悪だ

さっきから避けていた絶叫系アトラクションに乗る羽目になってしまった…

俺は小学生の頃からジェットコースターが無理だった。


「先輩テンション低いですね〜

せっかくの遊園地なんで楽しみましょうよ」


さっきから何度も溜息を吐く涼介とは反対に凜華は嬉しそうなオーラが溢れだしていた。


「なぁ……別なのにしないか?

それならいくらでも付き合うから」


あと5分もしないうちにジェットコースターがある山に着いてしまうだろう。

だからこれが最後の抵抗のチャンスだった。


「嫌です

先輩の嫌がってる姿は見ていて楽しいですし、先輩がこんなに必死になって行きたくないなんて言うの珍しいことだと思いますから」


凜華はジェットコースターに乗る気満々だった。


「でも、なんでそんなに嫌がってるんですか?」


「……ジェットコースターって落ちたらって考えると怖くね?」


◇◆◇◆◇◆◇◆


先輩がジェットコースターに乗りたくない理由が案外子供ぽい理由でびっくりしました。

こんなに嫌がるんだから何かトラウマとか何かあるのかと思い聞いてみましたが、全然そんなことなく子供ぽいものでした。


「先輩、子供じゃないんですから落ちるなんてことありえないとは考えられないのですか?」


凜華は呆れたと言わんばかりの眼差しを涼介に向けた。


「いや、なんか下見ると崖なわけじゃん、だからそんな余裕消えるんだよ…」


余程絶叫系が苦手なのか口調がいつもの少し偉そうな感じじゃないですね


「じゃあそんなに怖がるんでしたら、私が手を握ってあげましょうか?」


今一番いい先輩をからかうタイミングですね。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「いや……それは…いい」


涼介は否定するのを少し躊躇ったが肯定すると後々ずっとからかってきそうだったから否定した。


「少し躊躇いましたね…ほんとにいいんですか?」


凜華は手を涼介の手に近づけた。


「もういいよ……殺してくれ覚悟は出来てる。」


涼介は手を上に挙げ降参という感じのポーズをとり、ジェットコースターに乗ることにした。


降伏しなくても乗ることになっただろうけど、最後は自分の意思で乗ることを決めたかったという理由だったが。


◇◆◇◆◇◆


ジェットコースターの待ち時間は45分程あり、その間涼介はうわの空だった。

凜華が何か話しているが、内容が全く入ってこなかった。


「先輩…ほんとに大丈夫ですか?」


無理やり乗らせようとした凜華ですら心配するような状態だった。


「あ、あぁ…」


既に前の組が出発したため、次は涼介達の番にまで来ていた。


「先輩止めましょうか?」


「いや、まぁ、ここまで待ったんだし、行くよ…お前も乗りたかったんだろ?」


ここで帰ったらダサいだろう………そんな男としてのちっぽけとも言えるプライドをただ守りたいだけだった。


「カッコつけても今の先輩は全然かっこよくないですよ」


「次の組みどうぞー」


スタッフに誘導され、涼介達を含めた12程がジェットコースターに乗る。

運悪いことに凜華達は先頭だった。


座ると安全バーを降ろした。

涼介は外れないかとしっかりと確認した。


安全だ


確認した感じではそう思ったが、やはりジェットコースターへの恐怖は消えなかった。

周りの感じからすると他の組みも安全バーを降ろしたようでいつ出発してもおかしくない状態だった。


「先輩……やっぱ手を繋いでおきましょ」


「え?」


凜華はそう言うと安全バーを握りしめようとしていた涼介の手を握った。


「お、おい」


離せ……そう言おうとした時だった。

ジェットコースターが動き出した。


「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


涼介は生きている中で1番叫んだと思うほどだった。

ジェットコースターは徐々にスピードを上げながら右へ左へ縦横無尽に動き始めた。


「きゃぁぁぁぁ」


凜華は両手を離し上にあげながら叫び楽しんでいるようだった。

それ即ち、涼介の手を握っている手も上げているわけで必然的に涼介も片手を離している状態だった。


「!!?!?!?!?!?!?」


あまりの怖さに涼介は何を言っているかわからない状態だった。

しかし、ジェットコースターは徐々に速度を落としていく。

涼介は終わったのかと安心して、怖くて瞑っていた目を開けた。


そして気がついた。

これがスピードを落としているわけじゃないという事を。

上に上がる仕様上スピードが落ちているだけだと。


「先輩」


隣の凜華が楽しそうな声で涼介を呼んだ。


「……なんだ」


この話してる間にも涼介達は上へ上へと上がっていく。


「このジェットコースターは一番速い速度になる位置で写真撮影があるらしいですから笑顔で撮りましょうね」


凜華はそう言うと涼介の方を見た。

涼介も反射的に凜華を見る。

目と目が合った。

さっきから震えていた両手の手が止まる。

涼介にはこの瞬間がとても長い時間に感じられた。

凜華の顔をこんなにハッキリ見たのは初めてじゃないかと思った。

とても可愛い。

風になびく髪もとても綺麗だった。

長さは肩に少し当たるくらいの長さだが今はそれよりも長いように見える。

そんなことが分かるくらい涼介は凜華を見て落ち着けた。

そして、握っている凜華の手の暖かさが伝わってきて、涼介は安心感を覚えた。


しかし、それは死の前兆だったのかもしれない。


「先輩、私好きですよ」


「えっ」


先程可愛いと思えた少女の口から好きという言葉が出る。

それだけで涼介の頭真っ白になった。

追い打ちをかけるように凜華が下ろしていた手を再び上げる。

そして、凜華と涼介の手を絡ませ恋人繋ぎと言うやつにした。

凜華の言葉と行動に涼介の頭は真っ白になった。

そのため安全バーを握っていたもう片方の手も離れる。


即ち、今涼介を抑えているものは涼介がどうしても信用できなかった安全バーだけだった。

凜華は涼介のその行動を見届けると、ニヤっと口物を緩ませた。


「先輩ってほんとチョロいですね」


凜華のその声が聞こえたと思うと、涼介達は凄い勢いで下に落ちていく。


「おまえぇぇぇえええ」


涼介は再び生きている中で1番叫んだを更新した。


両手を離した状態は時間にすると10秒弱だっただろう。

しかし、かなりスピードがある今の状態では、涼介はそれが1分いや、1時間のように感じた。

ここから落ちるという光景が何度も涼介の頭を過ぎった。


◇◆◇◆◇◆


「お疲れ様でした。」


スタッフの声とともに安全バーが上がる。


「先輩今すごい状態ですよ」


涼介は今ゾンビのように死んだ顔をしていた。


「…誰の…せいだと…思ってるんだよ…」


涼介は必死に声を出した。


「先輩が単純なだけですよー

あっ、ちなみにあそこの『好き』はジェットコースターがって事ですからね!」


ゾンビ《涼介》に凜華は笑顔を向けた。

凜華の耳は少し赤くなっていたが誰も気が付かなかった。

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