第22話【彼女の狙い】
「ふぅ……」
涼介は家で一人くつろいでいた。
時計は22時を指しており、寝るにはまだ少し早い時間だった。
そんな時スマホが鳴った。
「誰だ……」
時間としてはまだ非常識というような時間ではないがこの時間にしてくるくらいなのだから、重要な事のだろうと思い涼介はスマホを見た。
中村凜華ーースマホにはそう表示されていた。
涼介はその名前を見て昼休み終わり頃のことを思い出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
部室から出ると涼介は舞がいる3組に向かった。
ちなみに涼介と司は5組だ。
涼介は予め用事があるから廊下に来いとRAINを送っていたが舞は廊下にはいなかった。
あいつ……はぁ……大声で呼ぶと目立つから嫌なんだよなぁ……
だからと言って誰かに呼んでもらうという方法もあるが、呼んでもらうために話しかけなければいけないのもめんどくさいと思った。
仕方なく、涼介が舞のことを大声で呼ぼうとした時、舞は涼介の存在に気づいたのかこっちに来た。
珍しいな
涼介は普段舞のクラスに行くと声をかけるまで涼介が来ていることに気づかないのだ。
だから、今回のように何も言ってないのに近づいてくるのは珍しい。
「おー、凜華ちゃんだー」
舞は涼介を無視して、その後ろにいる凜華に反応した。
いや、なんでこいついるんだよ…
涼介は振り返ると後ろには凜華がおり、舞が先に凜華に反応したことに対して涼介に勝ったと思ったのかニヤリとした。
「おい、俺もいるんだが…」
涼介は舞と凜華が話し込んで時間がなくなる前に自分の用事を済ませるようにした。
「あっ、涼介もいたんだ」
舞は凜華の時とは明らかにテンションが違う様子だった。
「いや、凜華の時との反応の差が激しいな」
涼介は思わずツッコミを入れた。
「まぁまぁ、気遣いができて可愛くて優しい人とやる気がなくて目が死んでる人100人中100人が前者の方と話したいと思うでしょ」
舞は涼介の肩をトントンと手で叩きドンマイとも言ってきた。
「舞先輩そんな言い方したら可愛そうですよ」
二人の会話を遮るように凜華が割って入ってきた。
「凜華ちゃんこんな涼介なんかにも優しいねぇ」
舞は犬を撫でるような感じで凜華の髪を撫でた。
「もぉ、舞先輩くすぐったいですよ」
涼介以外の人と対応する時の凜華を見るのは涼介にとっては慣れないものだった。
あいつほんと凄いな、いつもとは全くと言っていいほど別人だ
涼介は少し関心をしつつ「こほん」と咳払いをして、舞の意識をこちらに戻した。
「あー、それで涼介はなんの用?」
「あぁ、これだ」
涼介はポケットから司から貰った遊園地のチケットを取りだした。
本当は凜華が見ていないところで出したかったが、舞と直接話せる機会は少ないため、仕方がなかった。
「おっ、これ今人気な所の遊園地ですなぁ」
舞はチケットを見るなりそう言った。
「あぁ、そうだ
これ司が期限までに行けなそうだからと貰ったんでな、一緒に行かないか?」
涼介は素直に経緯を言った。
「まさか涼介からデートに誘われるとはね〜」
舞は笑いながらそう言った。
「いや、遊園地とか行ける友達お前くらいしかいないから」
涼介は舞の言葉を訂正するように言った。
「も〜照れちゃって可愛いなぁ」
舞は凜華にしたのと同じ感じで涼介の頭を触ろうとしたが涼介は手で跳ね除けた。
「やめろよ」
涼介は嫌そうな顔をしてそう言った。
「釣れないなぁ…ね?」
舞は楽しそうな表情で凜華に同意を求めた。
「嫌がってるので可愛そうですよ」
凜華は優しくそう言った。
「ほんと凜華ちゃんは優しいな
涼介に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよ」
「おい…俺の前で俺の悪口を言うなよ、ていうか行けるのか?」
涼介はこれ以上長くいると授業に遅れるので行くか行かないかだけは今聞きたかった。
今なら司に返して、司が別の人に渡すということも出来るからだ。
「んー、ごめん、行けないかな
その日忙しくて行けないから
また今度デート誘ってくれたまえ!」
舞は言葉とは反対に偉そうな態度を見せた。
「忙しいなら仕方ない
別のやつ誘うから」
涼介は本当はいないが友達がいるような感じを匂わせるためあえてそう言った。
「だったら私が一緒に行ってもいいですか?」
諦めた時そんな声が聞こえてきた。
あー、こいつはこれを狙ってたのか
涼介はそう思うほど凜華のタイミングはちょうど良かった。
「えぇ〜
凜華ちゃんこんなやつと2人でなんて危ないよ」
それを聞いた舞は驚いたような顔をした。
「兄さんが先輩は信用できると言っていたんで大丈夫ですよ」
凜華は慌ててそうつけ加えた。
「まぁ、凜華がいいなら俺はなんでもいいが…」
今の涼介に凜華をことわるという選択肢はなかった。
◇◆◇◆◇◆
そんなことが昼休みにあったのを涼介は思い出していた。
着信のコールは既に5回目になっており、涼介は慌ててとった。
「もしもーし先輩?」
夜だが朝のように元気な声が聞こえてきた。
「もしもし」
「お昼約束した通り、遊園地行きましょうね」
凜華のスマホ越しに聞こえる声は少し反響していた。
「お前今どこにいるんだ?」
涼介は思わずそう聞いてしまった。
「先輩逆にどこだと思います?」
「チャプン」と水の音まで聞こえてきた。
「お風呂か……」
「せーかいです!
ご褒美は何がいいですか?」
凜華の声がさらに高くなった。
「ご褒美はゆっくりとした土曜が欲しい」
涼介は遠回しに遊園地に行くのをやめようとした。
「先輩にとってはお風呂の音でもうご褒美ですね
私の裸想像しちゃいけませんよ」
「しねぇよ」
涼介は思わずツッコミをした。
「で?電話の要件はなんだ?」
涼介は随分長くなってしまったが凜華に電話してきた理由を聞いた。
「え?暇だったからですよ」
凜華はそう普通に言った。
「おい、何も無いならこの時間かけてくんなよ」
涼介は電話越しの凜華に呆れた。
「でも寝る前に私の声聞けて嬉しいですよね〜?」
凜華は楽しそうにそう言った。
「いや、全然」
「ありゃ、釣れないですね
まぁ、私もそろそろのぼせそうなんで上がるんで」
そう言うと凜華は一方的に電話を切った。
なんだったんだ……?
突然電話してきたことが気になって、ベッドに入っても凛華のことを考えていた。
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