第19話【誰かのために】

凜華は今日いつもよりも早く起きていた。

鼻歌を歌いながらキッチンに立っている。

いつものように慣れた手つきでお弁当を作っていく。

でも、今日はいつもより豪華で少し多めに作っていた。


アニメだったら音符マークが周りに流れるようなほど上機嫌だった。


「おはよ、今日は機嫌がいいね」


リビングに入ってきたのは兄である司だった。


「おはようございます、そんなふうに見えます?」


凜華は作っていて楽しいなとは思っていたが自分がどれほど機嫌よく作っていたかは分かっていなかった。


「うん、いつも楽しそうに作ってるけど、今日はいつも以上に楽しそうだよ」


司は椅子に座り台所の方を見た。


「そーですか、まぁ、今日は作っていて楽しいですね」


凜華はもう1つフライパンを出して、朝食も作り始めた。

お弁当の方はほとんど出来ていた。


「あれなんで3人分なんだい?」


司はできているお弁当を見てそう言った。


「あ、あぁ、いつも一緒に食べている友達が私のお弁当食べたいって言ってので…」


凜華は少し戸惑いながら言った。


「それにしてはいつもより豪華だね」


こういう時の司は鋭かった。


「やっぱり友達に食べてもらうからには少し豪華にしようかなと思いまして」


凜華表情を悟られないように司に背を向けて言った。


「そーだね、僕は料理しないからよく分からないけど、少しでも良く見せたいもんね」


司は納得したようで、テレビをつけてニュースを見始めた。


「はぁ…」


凜華は安堵した。


お兄ちゃんにバレなくてよかった…


凜華はそんなことを思いながら昨日の夜のRAINを思い出していた。



◇◆◇◆◇◆◇◆


凜華「先輩〜まだ起きてますか〜」


22時頃に凜華は涼介にRAINを送った。


涼介「なんの用だ?」


朝とは違いほぼノータイムで返信してきた。


誰かと連絡していたのだろうかと思ったが、先輩のことだからゲームをしていたという方が現実的だろうと思った。

しかし、気になったため詮索することにした。


凜華「おぉ〜先輩朝とは違い早いですね〜

やっと奴隷としての立場を理解しました

か」


少し煽るように送れば先輩のことだから何していたか教えてくれるだろうと凜華は思った。


涼介「ご主人様のお言葉を迅速に見るため待機しておりました。」


んんんー???


凜華は予想外の回答に驚いた。

明らかにいつもとは違う反応だった。

それが面白くて、先程まで詮索しようとしていたのを辞めた。


凜華「じゃあ、そんな忠実な奴隷さんにはご褒美をあげましょう」


凜華は元々の用事を涼介に伝えることにした。


涼介「お金でしょうかご主人様」


凜華「心が汚い奴隷さんですね〜

やっぱりご褒美ではなく、罰を与えま

しょ〜」


涼介「や、やっぱり現金ではなくていいですので罰だけはー!!!」


先輩はRAINだと意外とノリがいいですね

もしかしたら、いつもこんな感じでいるんでしょうが表情とかがやる気ないのでたのしそうに見えないですがRAINは文字だけなんで凄い先輩に向いてる感ありますね〜


そんなことを思いながら凜華はRAINを続けた。


凜華「もー遅いです、明日先輩はお昼抜きです」


涼介「餓死してしまいます、どうかそれだけはお止めくださいご主人様」


凜華「大丈夫です、人間1食食べなくても死なないです」


凜華はそこまで言うと一旦スマホを閉じた。


そして凜華は今日涼介が言っていたことを思い出した。


『毎日食べたいくらいだ』ーーと


たまに友達におかずを交換する時がありますけど、美味しいと言われますが、『毎日食べたい』とは言われたことがありませんでした。

言われて嬉しかったし恥ずかしかったですし本人は何気なく言っていたのが本心から言っていることがわかって嬉しかったです……。


それが凜華は嬉しくて、明日は涼介にお弁当を作ってこようと思ったのだ。


あんなシンプルなおかずじゃなくてもっと手の込んだものを食べてもらい涼介が喜んでいる姿を想像すると凜華も嬉しくなった。


それは食べてもらい喜んでもらう料理を作る側としての喜びなのだろうと凜華は自分に言い聞かせた。


先輩はいじっていて楽しい暇つぶしになるような存在、それだけです。


凜華はまたスマホを開き写真を見た。

涼介からRAINが送られてきていたが無視した。


いつも目が死んでいて、やる気がないような暗い表情をしていますがこうしてみると可愛いですね


凜華は涼介の寝顔の写真を見ながら心の中で呟いた。


そして、明日はいつもより早く起きようと思い早めに寝た。

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