第18話【お昼ご飯と後輩】

涼介は一人で部室にいた。

お昼休みはここで食事をしており、基本一人で食べ、たまに司か舞が来るぐらいだった。


わざわざ部室に移動するのはめんどくさくないのかと言われるが、教室のうるさい中で食べたり、食堂でわざわざ熾烈な席取りをするくらいなら少し離れた部室で落ち着いて食べるべきだと思っている。


涼介はイヤホンを指して音楽を流した。

雑音がほとんどない空間の中さらにイヤホンを指して音楽を聴くことで外界との情報を完全遮断した。


そのまま涼介はゲームの情報とかを見ながら朝に作った弁当を広げた。


移動しなければならない時間にはアラームをかけているので、何をしても時間に遅れることは無い。

完全リラックス状態だった。


そのためか涼介は不意をつかれてしまった。

突然首に冷たいものを感じた。


「うわぁっ」


涼介はビックリして思わず声を出してしまった。


冷たいものとは霊感とかそういうものではなく物理的冷たいものだった。

涼介は後ろを向くとそこには両手でピースしている凜華の姿があった。


「って、お前かよ、」


涼介は凜華を見るなり、落ち着きを取り戻した。


「お前かよって酷くないですか〜

先輩のご主人様ですよ〜」


凜華はお手とは言ってないがこちらに手を差し出してきた。

涼介はそれを無視し、また食事を始めた。


「ここまで来るの大変だったのに酷い先輩ですね」


凜華はしょんぼりしたような顔をした。


「そーいえば、どうして俺がここにいるって分かったんだ?」


涼介は素朴な疑問を言ってみた。


「先輩を探しに先輩の教室に行ってみたんですけど、先輩がいなくてークラスの人に聞いてみたんですよ〜」


涼介は嫌な顔をした。


「そんな嫌な顔してどーしたんですか?」


凜華は凜華の表情に気がついたらしい。


「あぁ、いや、お前との関係とか聞かれたらめんどくさいなっとな…」


本人には言わないが凜華は可愛いため、紹介しろと話しかけられるのが嫌だった。

決して、凜華を紹介するのが嫌なのではなく、話すのが嫌なのだ。


「あ、そこのところは大丈夫です

適当な集団に声をかけたんですけど、先輩のことを知らないのが八割くらいでしたからねー

名前も知られてないなんて可愛そうですね」


凜華は憐れなものを見るような目でこちらを見てきたが気にしなかった。


逆に安心していいのか分からないが俺のことを認知していないなら聞かれることは無いので安心した。


「大丈夫だ、俺もクラスのほとんどを覚えてないから」


涼介は堂々と言った。


「先輩も先輩ですね、だから友達が出来ないんですよ?」


凜華はお節介なことを言ってきた。


「信用出来るやつが2人もいるからそれで十分だろ

余計な友達を作ってイザコザに巻き込まれるのは御免だ」


「うわぁ〜先輩やっぱ変人ですね

友達いると楽しいですよ〜」


凜華は容姿端麗コミュニケーション力もたかいため、友達も多いだろうからそこから言える経験だろう。


「今更作る気にも慣れねぇし、俺は一人でも楽しいんだよ

だから別にとm」


その先の言葉を言おうとしたら、涼介の口に卵焼きが突っ込まれた。


涼介はとりあえず、入れられた卵焼きを噛み締めながら、落ち着いた。

卵焼きはいい感じの甘さがあるもので涼介の好みの味付けだった。


「美味いな」


涼介は素直に感想を言った。


「えへへ、ありがとうございます

先輩も素直に褒めることできたんですね」


凜華は笑顔を浮かべほんとに喜んでいるところだった。最後は余計だが、


「これお前が作ったのか?」


涼介は凜華のお弁当を見て言った。

見た感じ冷凍の物は少ないようだった。


「そーですよ、私なんでも出来るんでね〜」


凜華はドヤ顔をして見せた。


「あー、すごいすごいー」


いつも通り適当に褒めた。


「それじゃ、先輩のもください」


凜華は口を開けてきた。


「この会話のどこからその発言が出てくるのか分からねぇよ」


そう言いつつ涼介は凜華のお弁当のご飯の上に卵焼きを乗っけた。


「えぇ〜、先輩からのあ〜んが欲しいですぅ〜」


凜華は箸で卵焼きを涼介のお弁当に戻した。


「はぁ……別に俺から貰っても嬉しくないだろ…」


涼介は呆れつつ言った。


「いいから早く先輩のを私の小さなお口にください」


凜華はまた口を開いた。

今度は何故か目も瞑っていた。

凜華の口は艶やかになっており、見ているだけでドキドキしてくる。


涼介はこれ以上は目に毒だと思い諦めて、涼介自身の手で卵焼きを食べさせた。


卵焼きを口の中に入れると涼介はすぐに箸を抜こうとしたが、凜華は口をすぐに閉じようとして、凜華の口に箸が当たってしまった。


箸は凜華の唾液がついたのか抜いた時には糸を引いており、それがとても男としての本能がそそられた。


「ん〜、先輩の美味しいですね!」


凜華は咀嚼し終えるとやっと目を開けた。


「おー、それは良かった」


涼介は席を立つと箸を洗いに行った。

洗うのは凜華の唾液がついたためではなく、少し暑くなった顔を冷ますためであった。


「も〜先輩別に洗わなくても先輩と間接キスしようとも私は気にしませんよ〜」


後ろから凜華の声が聞こえてきた。


「俺は気にするんだよ」


「も〜細かいですねー」


涼介は席に戻りまたお弁当を食べ始めようとしたがおかずが減っていることに気がついた。


「美味しかったです」


涼介がその事について、言おうとしたら凜華が先に感想を言ったため、責めることが出来なかった。


「せめて許可を取ってから食えよ…」


「わかりました〜

じゃあ先輩、私のもどーぞ」


凜華はアスパラをベーコンで巻いたものを涼介に差し出した。


涼介は渋々口を開いた。


「お利口さんですね〜」


凜華はそんなことを言いながら食べさせた。

食べさせるときの凜華の表情はとても母性あるような表情を浮かべていた。

食べさせてくれたものも美味しく、視覚も味覚も満足だった。


「美味しいな」


涼介は満足そうな表情を浮かべた。


「凄い嬉しそうに食べてくれますね」


凜華もそんな涼介の表情を見てかとても嬉しそうだった。


「実際美味しいからな、毎日食べたいくらいだ」


涼介は思わず本心を口にしてしまった。


「えっ、いや、そんな……」


凜華は顔を赤くして、すぐに下を向いた。

凜華のその仕草はいつもからかう様な時の表情とは全く違い、見ているこっちまで恥ずかしくなった。


「と、とりあえずもう時間だし食べるか…」


涼介は無理やり話題を変え急いで食べ始めた。


「そーですね…」


凜華も慌てて食べ始めた。


そのあとの二人の会話は少しぎこちないものだった。

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