第14話【チラリズム】

涼介は今男である自分の本能と戦っていた。

本能《相手》の力はとても強大であった。

例えるならば、植えたライオンの目の前にうさぎを放ち、我慢しろと言うようなものだった。


涼介の目の前には勉強している凜華がいた。

彼女が着ている服は少しゆとりがあるものだった。

そして、彼女は勉強しているため、少し前屈みになっている。

そう、彼女の成長途中にあるがしかし同い年と比べると豊かな女性として特徴が少し見えるのだ。


それはまるで臆病な女の子が母の体から少しだけ顔をのぞかせてこちらを見ているような、見えはするが近づいては行けないというようなものだった。


涼介は『ぱんつは見せられても嬉しくない』とはよく言ったものだと今実感した。


丸見えなのではなく、少しだけ見える、それがまた涼介のオスという本能を呼び起こすのだった。


「先輩ここどうやって解くんですか?」


涼介が意識しないようにできるだけ勉強に集中しようとしていた中凜華はテーブルから身を乗り出し反対側にいる涼介に近づいた。


さらに前屈みになった今涼介よりも低い位置にいる凜華の胸がより見えそうになる。


「おい、乗り出して来るなよ…」


涼介は視線を逸らしつつ言った。


「えぇ〜じゃあ、先輩がこっち来てくださいよ」


凜華がそう言ったため、涼介は仕方なく凜華の隣に移動した。


普段なら凜華がこっちに来いと言うところだが、それだとただ凜華が近くに来ただけで、さらに涼介の本能が呼び起こされるだけであるため、あえて涼介が凜華に近ずき、あえて椅子に座らず凜華よりも低い位置に行けばいいと思った。


「あれ?先輩、普段だったら絶対お前が来いって言うところですよね〜?」


凜華は今の涼介の状況を知っているかのようにからかってきた。


「あ、歩きたい気分だっただけだよ」


涼介は少し動揺はしたもののなんとかそれを隠そうとした。


「本当ですかぁ〜」


涼介は遂に確信した。

凜華は自身の胸が少しチラ見えしており、それを涼介がチラチラと見ていることに気がついていると。


「先輩も椅子に座っていいんですよ」


凜華は涼介を誘導するように隣の椅子をポンポンと手で叩いた。


「ずっと座っててケツが痛くなったから膝立ちでいいんだよ」


涼介は苦し紛れとも言えるような言い訳をした。


「先輩、まだ勉強始めて10分も経ってないですよ

だからほら椅子に座ってやりましょ」


やはり苦し紛れの言い訳だったため、すぐに論破されてしまった。

そのため涼介は仕方なく、凜華の隣の椅子に座った。


俺は今仕方なく座るんだ、断じて邪な気持ちがある訳では無い、落ち着け、こいつはただの後輩で司の妹だ、


涼介は心の中で何度も呪文のようにそう唱えた。


「それで、ここなんですけど、」


凜華が指してきた問題は解けないようなものではなく、涼介にとっては簡単なものだった。

そのため、解き方の説明は難なくこなせたが、凜華の胸を見なかったかと言われれば否となる。


だが、涼介の説明で凜華も理解したようでまた問題をスラスラ解き始めていた。


「先輩の説明無駄にわかりやすくて、逆にムカつきますね」


凜華は手を動かしながら口を話した。


「逆になんでこんな問題わかんないのか理解不能だ」


涼介は今の状況から少しでも余裕を保つために、凜華を煽った。


だが、それが凜華を怒らせたのか凜華はこう言った。


「私は先輩がさっきから、私の服の中をチラらと見ていたのを私に気づかれてないと思ったのが理解不能ですね〜」


やはり凜華は気がついていたようだ。


「な、なんの事か?」


涼介はこれは肯定してはいけないととぼけた。


「そんなこと言う先輩には〜」


凜華は涼介の座っている椅子と自分が座っている椅子を連結させた。

と言っても、ただ隙間なく横に並べただけである。


「こーしまっす」


そのまま凜華は涼介の膝の上に座った。


「お、おい重い、降りろ」


涼介は真上から凜華の胸を見ると完全に男としての理性が途切れると悟り、天井を向きながら言った。


「先輩〜こんな美少女が上に乗って重いだけって失礼じゃないですか」


凜華の表情は見えないがとても喜んでいるような声がする。


ここで涼介は自分の膝が一瞬軽くなり、また重くなったのを感じた。

涼介は何事かと自分の顔を戻した。

そこで涼介は気がついた。

今までは凜華は涼介の胸に背中を預けている状態だった。

しかし、今は凜華は涼介の方に、涼介は凜華の方にとお互い向き合うような感じになっていた。


「おい、何やってんだよ」


涼介は咄嗟に顔を横にずらした。


「先輩の好きにしていいんですよ?」


涼介の耳がちょうど凜華が向いている方向に来たため、凜華は涼介の耳元でそう囁いた。


「えっ」


凜華の甘い蜜のような誘惑に戸惑い遂顔を元に戻してしまった。


「もちろん、ジョーダンですよっ」


そう言うと凜華は涼介から降りようと隣の椅子に移ろうとした。


しかし、誰もいない椅子は当たり前だが固定もされておらず、横に移動してしまった。


そのため凜華はバランスを崩し、椅子から落ちた。

涼介は咄嗟に凜華のことを支えようと手を出すも届くことはなく、逆に涼介も、一緒に倒れてしまった。


そして、床に倒れた状態でいる凜華に被さるような形になってしまった。

幸い凜華の胸がクッションとなったため涼介に怪我はなく、凜華にもなかった。


「まさか先輩に襲われる日が来るなんて思ってなかったです〜」


凜華はこんな状況だと言うのに、楽しそうにそう言った。


「すまん…」


涼介は慌てて体を起こした。


その時、扉からガチャっと音が聞こえた。

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