第6話【デートの終わりに。】

「袋取ってくるか?」


ゲームセンターでは取った景品を入れる袋を貰えるため、先程涼介が取って渡したクマのぬいぐるみを入れるために取って来ようと提案した。


「いえ……こうして、抱いて持ち帰ります…」


ぬいぐるみを抱きしめている彼女の姿はとても可愛らしい。


「歩きにくくないか?」


「大丈夫ですから、それに先輩がせっかく取ってきてくれたものですし……」


少し頬を赤らめながら言った。

そんなことを言われると嫌でもこちらもドキドキしてしまう。

別に嫌かわけじゃないが。


「あっ、先輩照れてますねぇ〜

今のは袋に入れちゃうとぬいぐるみに変な体制の癖がついちゃって先輩がせっかく取ってくれたものがすぐに見栄えが悪いものになっちゃうと言う意味ですからね」


先程の赤らめていた頬は嘘だったかのようにこちらに笑顔でウィンクしてくる。


やっぱこいつにドキドキさせられるのは嫌だな


「まぁ袋に入れて1部だけ凹んだりするのは嫌なのは分かるな」


バレないように慎重に深呼吸すると自分の頬の熱が冷めていくのが分かった。


「もしかして先輩ぬいぐるみ沢山持ってる系の人ですか?」


凜華は目を輝かせながら距離を縮めてきた。


近い近い、つか、こいつぬいぐるみが好きとか意外と可愛いところあるんだな


「あー、いや、たまにクレーンゲームの無料券貰うからそれで適当に人気のアニメのぬいぐるみとかフィギュアを取ってネットとかで売るんだよ」


涼介のようなことをする人は今どき珍しくはないだろう。


「えーー、勿体ないですよ

可愛いやつだったら私にくださいよ!」


さらに距離を縮めてくる凜華だったがちょうど凜華が抱いているクマのぬいぐるみが涼介の胸に当たったことでこれ以上近づいてくることはないようだが、それでも凜華の顔はすぐそこにある。


「近い、離れろ」


涼介は反射的に凛華を突き飛ばした。

突き飛ばされた凜華は少しバランスを崩したようだったが倒れることは無かった。


「もー先輩酷いですよ、こんな可愛い女の子を突き飛ばすなんてー、それでも男ですか、抱きしめて迎え入れてくださいよ〜」


ゲームとかだったらぷんすかぷんすかと言うエフェクトでも出るような感じの雰囲気だった。


「悪い悪い、つかなんで抱きしめなきゃいけないんだよ」


最初は悪いと思った涼介だが、凜華も途中からふざけたことを言っており、そんな気持ちはすぐに消えていた。


「迫ってきた女の子を包み込んで上げるの男子ってもんですよ〜」


ふざけていることを隠そうとしない凜華の顔はとても生き生きとしていた。


「つか、わざとかよ」


「あっ、バレちゃいました」


凜華はテヘペロとやって見せた。


「バレバレだよ」


あれだけ迫ってきたらほんとにぬいぐるみが好きかわざとやっているかの2択だろうが凜華の今の言動では後者だと思った。


「まぁーでも、先輩は女の子からこんな迫られるってこともう訪れなさそうですし、私に泣いて感謝して欲しいですね」


えっへんとやっているがぬいぐるみがその腕にあるため全く威厳は感じられなかった。


「はいはい、うれしーうれしーありがとうごさいます」


「棒読みですね…でも、そんな偉大な私の最後に行きたい場所はあそこです」


凜華が指を指したのは現代の女子高生に莫大な人気を誇っているプリクラだった。


「やだ、帰る」


涼介はほんとに帰ろうとした。

それを凜華が涼介の手を掴んで止めた。


「待ってくださいよ

べつにいいじゃないですか〜」


撮るのが嫌というのもあるがそれ以外にも物理的に無理な問題があった。

それはここのプリクラ機は女性の方またはカップルのみが使用できるというものだった。


「お前はあの字が読めないのか?」


涼介は分かりやすくその看板を指した。


「そんな硬いこと言わずにいいじゃないですか

こういうのはノリですよノリ」


凜華は涼介の手を無理やり引っ張り、プリクラ機に向かった。


「おい…ちょ…」


涼介の声を無視し、凜華は涼介をプリクラ機の中に連れ込んだ。


「ホントに撮るのかよ」


涼介はうんざりしたような顔をしたが凜華はノリノリだった。


「そんなこと言って先輩実は私と撮りたかったんですよね?

ほんとに嫌だったら私の手を無理やりにでも振りほどいているはずですから」


ニヤつきながら言う凜華の顔はとても楽しそうだった。


「はぁ……分かったよ撮ればいいんだろ…」


涼介は両手を上げ降参と言う感じのポーズを取った。


「さすが先輩話が早くて助かります。」


それから2人で200円ずつ払った。


写真撮るだけだ400円もかけるとか現代の女子高生エグイな、普通にカメラとかじゃダメなのか?


そんなことを考えているうちに凜華が慣れた手つきで操作していく。


「せんぱいっ!撮りますからくっついてくださいね!」


凜華は左手にクマのぬいぐるみ、残った右手は涼介の腕を組むような形した。


「おい、くっつくな、離れろ」


涼介は顔を顰めた。


「そんな硬い顔しないで笑顔ですよ

ほらカウントダウン始まりますよ!」


機会から3、2、1、と音声が流れ涼介はしぶしぶ笑顔を作った。

それから複数枚凜華に付き合う形で色んなポーズを撮った。


「はぁ…最悪だ、絶対誰にも見られたくない」


涼介は背景の壁に顔を付けてさっきまでの自分の行動を忘れようとしていた。


「先輩そんな所で遊んでないで次はデコりますよ!」


またしても凜華は涼介の手を取り外に出た。

デコるのは凜華に任せ、涼介は何もしなかった。


「もー、最後の最後で先輩ノリ悪いですね」


凜華はガッカリしたような顔をしていたが、これ以上は涼介が耐えきれたかった。


「いいだろ、さっさと帰るぞ」


時刻は18時30分となっていた。


そんな時凜華のスマホが音を出した。


「あっ、お兄ちゃんからです」


「もしもし、お兄ちゃん……」


涼介は他人の電話を聞く趣味なんてないため、聞かないようにしていたが、凜華の話し方からして、司が帰りが遅い凜華を心配して、電話をかけたようだった。


それから五分ほど電話をしていた。


「もー、お兄ちゃんってば帰りが遅いって心配性すぎなんですよ」


凜華はぬいぐるみクマの頭に口をつけて、むつけたような感じだった。


「もうやることも無いしちょうどいい頃だろ」


「それもそーですね、なら帰りますか」


それから2人は可愛もない話をしながら自宅へと向かった。

その日がいつもより何倍も長く感じたのはきっと久々に遊んだからだろう。

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