第5話【ゲームセンターに行く2人】


「お買い上げありがとうございます。」


涼介は店員から買ったイヤホンを受け取ると直ぐにバッグの中にしまった。

ネットの評価もよく、レビューには音質がいいと複数書かれており信憑性も高い。

値段も4000円とお手頃な価格だ。


「じゃ、先輩今度は私の用事に付き合ってくださいね!」


そう言うと凜華は涼介の手を取り早足で歩き始めた。


「おい、ちょっと待てよ、」


涼介は慌てて、凜華の手を振り払った。


「もー!!なんですか先輩」


彼女は顔を膨らませていた。


「どこに行くんだよ

つーか、自分で歩けるから手繋がなくていいだろ…」


凜華が涼介の手を取った時、今まで1番2人の距離が近くなり、凜華から香る女の子の甘いような匂いが鼻腔を擽り、さすがの涼介も我慢ができそうになかったのだ。


「言わなきゃダメですか?」


彼女は頬を赤らめ手を重ねていた。


「いや、いいから言えよ」


はぁ…と凜華はため息をついた


「仕方ないですねぇ

ゲームセンターに行きたいんですよ」


彼女は少し恥ずかしそうにしながら言った。

今までの涼介をからかうための演技とかではなく、素で恥ずかしかったのだろう。


「どーしてそんな恥ずかしそうなんだ?」


「もー、先輩も分かってないですね、

あーいうところは、JKからしたら行きにくいんですよ

周りの友達からのイメージの関係もありますし」


「1人で行けばいいだろ」


涼介のなんと言うことない何も考えていない一言だった。


「先輩、華のJKが一人でゲーセンとか悲しいすぎますよ!!」


確かに、涼介は友達が少ないため、一人でゲーセンに行くことがよくあるが、JKが一人で来ているのは珍しいだろう。

それに、凜華ほどの美少女であれは周りの目を引き目立つであろうから。


「じゃー、なんでそんなキャラ作ってるんだ?

お前と深く関わり始めたのは昨日からだが、以前話した時と全然雰囲気違うよな」


涼介は前から気になっていたが口にしなかったことを今突然聞いてみたくなり、涼介は口にした。


「私にだって色々あるんですよ……」


そんなことを言う彼女の目はどこか遠くを見ているような切ない表情をしている。


「あー、まぁ、そーだな、人には人の事情があるか」


涼介は知りたいとは思ったが、今こんな所で簡単に踏み込んでいいものでは無いだろうと思った。


「先輩は優しいですね」


凜華は笑顔を見せたが、その笑顔は涼介にでも分かるような無理やり作ったようなものだった。


「他人に興味が無いだけだよ」


人は結局は自分のことしか考えてない、本当に苦しい時は自分を優先する、それが涼介の考えである。


居心地の悪い空気が2人に流れたが、やがて凜華がそれを壊した。


「話だいぶそれちゃいましたね」


「あぁ、そーだな」


「じゃ、先輩気を取り直して、ゲーセンに行きましょう!」




◇◆◇◆◇◆◇◆


ゲームセンターに着くと、2人は始めに太鼓を使ったリズムゲームをした。


「先輩……リズム感絶望的にないですね」


凜華はお腹を抱えながら笑った。


「う、うるせぇ、誰にだって得意不得意はあるんだよ」


涼介は苦し紛れの言い訳をするものの凜華の笑いが止まる気配はなかった。


それから複数のリズムをやるものの涼介の結果は小学生にも劣るようなものだった。


「なぁ、他のにしないか?」


涼介はいつもよりさらに死んだような目をしていた。


「そろそろ、リズムゲーム網羅しつつあるんで、仕方ないですねぇ

次は何します?」


彼女はまだまだやる気のようで、いつもよりもはしゃいでいた。


「少し休憩しようぜ」


今どきのリズムゲームは体を動かすため、普段運動していないような人間にはキツい。

涼介も普段体育以外の時は運動をしないため、その例に当てはまっている。


「先輩体力無さすぎですよ、運動しましょ運動」


「ダルい、運動しても疲れるだけで何の成果も得られないし、時間を無駄に浪費してるだけだろ、俺みたいな……っておい、聞いてるか?」


凜華は涼介の声など全く聞いておらず、代わりにクレーンゲームのクマのぬいぐるみをじっと見ていた。


「なんだ?欲しいのか?」


「いや、まぁ、可愛いし欲しいですけどこーいう所って取れないようになってるじゃないですかー」


まぁ、クレーンゲームにも色々な種類があり、商品の大きさより穴の大きさの方が小さく絶対に取れないようなものも多々ある。


「んー、この台ならまぁ、取れるんじゃないか?」


幸い凜華が見ていた台は3個アームのもので穴も商品よりも大きく最初から取れないような設定ではなかった。


「本当ですか?」


凜華は目を輝かせていた。


「まぁ、任せろ、だが期待はするな」


涼介はクレーンゲームが得意という程ではなく、たまにやったら取れるようなごく普通の技術だった。


涼介はとりあえず100円を入れた。

この台は60秒以内だったら自由に操作出来るもので狙いが逸れるということは無かった。

しかし

1回目持ち上がるものの、途中で落ちる。

2回目も同様に途中で落ちる。

3回目も同様に途中で落ちる。


期待はするなとは言ったが、さすがにこれは情けないなぁ……


そんな思いが涼介に火をつけ、本来だったら3回ほどで諦めていた涼介だったが続けることにした。


その結果7回目でようやくとれた。


「やっとだ……」


集中していたためか疲れが一気に押し寄せてきた。


しかし、直ぐに商品を取ると涼介は商品を凜華の方へ渡す………訳ではなく自分の腕で抱いた。


「これ欲しかったんだよなぁ」


そう言うとわざとらしく凜華の方を見た。


「え!?

先輩あんな私のためにやってくれる雰囲気出しておいて私にくれないんですか?」


凜華は涼介からクマのぬいぐるみを取ろうとするも、涼介は手を高く上にあげたため、ジャンプしても届か無かった。


「ちょ、ひどいですよ私にください!!」


絶対に取れないと悟ると凜華はいじけ始めたのは。


「はいはい、冗談だよ、少しお前をからかってみたくなっただけだよ」


そう言うと涼介は凜華にクマのぬいぐるみを差し出した。

凜華は涼介からクマのぬいぐるみを貰うと直ぐにギュッと抱きしめた。

そのクマのぬいぐるみは90cmほどのデカさがあり相当抱き心地がよかった。


こうして見てるとアイツも可愛い純粋な女の子だなぁ……


1分ほどたったところで凜華は抱きしめるのをやめた。


「先輩ありがとうございます!

凄く抱き心地いいですね!

これを毎日あの優しかった先輩だと思って抱いて寝ますね……!!」


「いや、俺だとは思わなくていいから、それにこうして取って上げたんだから今も優しい先輩だから」


凜華のほんとに喜んでいる言動に涼介も心の底から嬉しくなっていた。


「自分で優しいという当たりさすが先輩ですね

でも、それほど感謝してますよ」


今彼女が浮かべる笑みは先程見せたような切なそうなものではなく、本当に嬉しそうな顔だった。

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