第2話【朝の2人】

水曜日……それは週の真ん中だ。

半分もあると捉えるか半分しかないと捉えるかで気持ちは変わって行くだろう。


ちなみに涼介は前者だった。


あー、学校だるい


足取りは普段より重く表情は眠そうであった。


「先輩、おはよーございます」


そんな元気な声が聞こえ、涼介は振り向いた。


場所は昨日後輩コイツと別れた場所から少し離れたところなので会ってもおかしくはなかった。


「お前元気あるな」


「先輩、まず最初に言うことが違うんじゃないですかー?」


「ん?あー、おはよー」


その言葉を聞き満足したのか凜華は笑顔になっていた。


「宜しい、改めておはようございます

先輩こそなんでそんなに元気ないんですか?」


「外出ることが嫌いだから」


なんも考えずに本当のことを涼介は言い、それを聞くと凜華は笑いだした。


「なんですかその理由

先輩ってもしかしてニートになりたい人間ですか?」


「よく分かったな」


「それほんとに言ってます?

て言うか、そんなことを堂々と言えるなんて凄いですね」


「ちょー大真面目」


涼介は真顔で言った。


「やっぱ先輩変わってますね」


「そうか?」


彼女は笑いながらこう言った。


「いやいや、普通の人はこんな堂々とニートになりたいなんて言いませんから!」


誰もが働きたくないとは思うだろうが実際口に出す人は少ないだろう。

だから、彼女が言っていることは至極当然のことだった。


「あー、まー、そーかもな

ていうか、お前っていつもこの時間だったか?


涼介は毎日同じ日に登校している。それなのに今まで凛華と会ったことがないのはおかしいだろう


「それは……先輩と会うためですよ」


少し悩む素振りを見せてから、彼女はわざとらしく八重歯を魅せるよう笑顔を見せた。


「え」


不意をつかれた涼介は戸惑ってしまった。


「じょ、う、だ、んです❤

ドキッとしましたか?」


凜華のその言葉に涼介は顔を赤くし、否定した。


「し、してねぇから」


彼女は涼介の前に出ると振り向いた。


「私が可愛いからって惚れないでくださいね」


その笑みはまるで悪魔を思わせるような魔性性を帯びていた。


いや、悪魔にしては小さいから、小悪魔と言ったところか


上昇した体温が元に戻って言うのを感じると涼介は前を歩く凜華に追いついた。


「それで、今日はなんで俺と一緒なんだよ」


「あー、それはですね」


彼女は忘れてたような反応を示した。


いや、こいつ忘れてたのかよ…


そんなことを思った涼介だがその事に触れるとまた長くなりそうだと思い声に出すのはやめた。


「私いつもこの時間に登校してるんですよ」


「え?

でも、俺はお前見るの始めてだぞ」


「私はよく先輩のことを見かけますよ」


「なんで俺はお前を1度も見かけないんだ?」


凜華が見かるが涼介からしたら見かけないというのはおかしいだろう。

しかし、その現象の答えは簡単なものだった。


「先輩はいつもイヤホンしながら歩いてるじゃないですか、だからじゃないですか?」


「あー、そうかもな」


涼介は普段イヤホンを指しながら登校している為、まわりを気にしてはいなかった。


「ていうか、気がついてなかったんですね」


凜華は呆れたような目をしていた。


「まぁ、周りなんて興味がなかったからな」


涼介は開き直りそう言った。


「自信持って言うことじゃないですよ」


凜華は既に諦めたような顔をしていた。


「でも、なんで今日は話しかけたんだ?」


「先輩がイヤホン指してなかったからです

それに……先輩と仲良くなりたいからですよ」


またしても、さっきと同じような笑みを浮かべた。


「もうそんなからかいは効かんぞ」


「違いますよー、考えてみてください、もう9月ですよ、4月から今まで顔は見てたのに、あんまり話したことがない、ましてや同じ部活の人ですよ

気になりませんか?」


それを聞き確かにと涼介は思った


「そう言えば俺たち同じ部活だったな」


涼介と凜華は同じ書道部に所属しているが活動はほとんどしておらず、参加自由となっている。

実際書道をできるのは司だけである。


涼介達が通う学校は部活動にも力を入れているというアピールをしているため、何らかの事情がない限り部活動には所属しなければならないのだ。

そこで、涼介と司、それに2人の友達である澤村舞の3人で書道部を作ったのが始まりである。


「先輩全然来ないんですから、先輩だけそんなに話したことがなかったんですよ〜

だから、こうして今話して仲良くなっておこうと…」


「お前みたいに可愛くて、コミュ力が強い人間だったら、俺みたいな陰キャとは仲良くしなくても他の奴らがいるだろ」


ふとした疑問を涼介は口に出してしまった。


「そうして近づいてきた人には気を使うし、どうせ私が可愛いから近づくんですよ…」


そんなことを言う凜華の表情にはさっき涼介をからかっていたような笑顔もなく、暗い顔をしていた。


「そうか……モテるって大変だな」


涼介は珍しく同情を口にした。


「そうですよ、私可愛いんでね」


「自分で言うんだな」


涼介は軽く笑いながら言った。


「事実ですもん

それに先輩はそんな人達とは全く違うので話してて楽なんですよ」


凜華もまた笑いながら言った。


2人は学校の近くまで来ており、同じ制服を着た生徒が多くなってきていた。

そんな中でも、凜華は1番と言っていいほど可愛いだろう。


近くにいる男子の目を奪っていく凜華の隣にはいつも眠そうと言われたり、何考えているかわからないとも言われているーー涼介がいる。


並んで歩く2人の歩幅バラバラで、それが2人の関係を表しているようだった。

この歩幅がいつか合う時が来るのだろうか

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