第2話 朝

 (バリーン!!) ものすごい音を立ててガラスが割れる音がした。

「この浮気男!殺してやる!!」怒り狂った女の金切り声が聞こえた。

驚いて俺たちは声のする方に向かうと、更に驚きの光景を目にした。

なんと、田代先生が見知らぬ女に首を絞められていたのだ。


 「助けてくれ!助けてくれ!」馬乗りになる女と額から血を流しながら必死に命乞いをする田代先生。

あっけにとられて俺たちはそれを見るだけで何もできなかった。

しかし、そうは言っていられない状況になった。女がバッグから包丁を取り出した。

田代先生が絶叫しながら女を突き飛ばし、馬乗りの状態からは逃れられた。

女もまた叫びながら、包丁を持ったまま田代先生を追っていく。


 「な、これさすがにヤバくないか?校長、いや警察呼ばないと!」太一がそう言い出し、俺はこれが現実の出来事なんだと理解した。

 「え、なにこれ...!」割れたガラスと床についた血痕に気付いた後輩の女の子3人組が叫び声をあげた。


 「君たちそっちに行っちゃダメだ!刃物を持った女が暴れてる!俺たちが警察呼ぶから友達たちにも危険を知らせてあげて!!」

俺は普段あげないような大声をあげて後輩の子達に伝えた。

「先輩!怖いです...どうすればいいんですか!」3人組の中の1人の子が俺の腕にぎゅっとしがみついてきた。

高校生活で彼女を作ることができなかった俺にとってこんなのは初めての体験だ。

二重の意味でドキドキして心臓がもちそうにない。できれば、片方は味わいたくないドキドキなわけだが...。


 他の2人の女の子たちも俺たちのもとへ駆け寄ってくる。太一も和希も必死に彼女らをなだめる。

しばらくすると、上階の教室から生徒たちの叫び声が聞こえてくる。

まずい。非常にまずい。早くなんとかしてくれ。

そう願っている時間はとても長く感じる。しばらくして、ようやくパトカーのサイレンが聞こえる。


 その間俺は、後輩の子が泣き出したのをただ見ていることしかできなかった。

すぐに女は身柄を取り押さえられ、現行犯逮捕となった。

文化祭はもちろんのこと中止となり、学校から全生徒、速やかに立ち去るようにとの指示が出た。

片田舎の、のどかな地にある高校で起きたこの事件はすぐさま全国ニュースになった。

やはり犯人の女は田代先生の元交際相手で、痴情のもつれからヒステリーを起こしこのようなことになってしまったみたいだ。

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