第6 異変

(お姉ちゃん―――お姉ちゃん―――お姉ちゃん)


声が響く。その声は遠く響き、その声は彼女の胸に刺さり、その声まるで呪のように何時までも聞こえていた。彼女は思った(ああ、またこの夢か)っとそして、コンコンっとドアをノックする音が聞こえ彼女意識は現実に戻って行った。


魔具科、聡太の教室にて―――――


「フンフンフン〜っと、おやおや〜?。どうしたんだい少年?、顔が土から抜かれたマンドラゴラみたいになってるよ。私で良ければ相談に乗るよ」


「...ああ聞いてくれ実は―――」


「なるほど、なるほど、それは興味深いね。それで少年はどうしたいんだい?」


「できれば風魔委員会には行きたくない」


「うんうん、そうか~そうか~、ならこの寛大な私が少年にエスケープする方法を教えてあげよう」


「本当か!」


聡太は期待を胸に膨らませエリーズに聞く。


「フフフ、では聴きがいい、なに簡単で初歩的なトリックだよ少年。――普通に逃げr…」


「はい、お世話になりました今までありがとうございます」


聡太は素早く席を立その場を後にしようとする。エリーズはすかさず聡太の服を掴む。


「おやおや、少年。こんな可愛い名探偵エリーズちゃんの渾身の閃きを無視していったいどこに行こうというのかね?」


「お気の毒様。お前ご自慢の名案はゴミの様にその辺に捨てといたから大事に拾ってるんだなって!、離せ!、そして力強え!」


制服を引っ張るエリーズ、それを引き離そうとする聡太その攻防に一人の男子が割って入った。


「おう、おう、お二人さん昼間っからお熱いね〜」

 

聡太はその陽気な声の人物に嫌味を言う。


「ああ?!、うるさい、この脳みそお花畑筋肉バカスペシャルデラックス」


「すごい嫌味だな、まるでファミレスのパフェにありそうなすごい嫌味だ」


「で?、なんでお前がここにいるんだよ!、真人?」


「お前の噂を聞きつけてこうして足を運んだしだいだ」


ニコニコと笑みを浮かべる真人に聡太は聞く


「で、本音は?」


「おちょくりにきた」


「正直でよろしい」


聡太は真人の笑みに怒りを覚えながら未だに離れようとしないエリーズ言う


「お前はいいかげんに離れろ!」


聡太はイヤイヤっと首を横に振るエリーズに対し頭を手のひらで叩く。エリーズは叩かれて渋々握っていた服を離し言う。


「乙女を叩くなんて少年には優しさの心無いのか!」


「うるさい、頭を殴らない分感謝しろ。で本当は何で来たんだ真人?」


「ああ、俺もそんなに暇じゃ無いから要件だけ伝えて帰る」


真人は聡太の近くにより肩に手を置き耳元でそっと呟く。


「風魔委員長の玲には気をつけろ」


「お、おいそれはいったい...」


真人はそう言うと気に留める聡太を無視してその場を後にした。真人の言葉で疑問と不安が聡太の中を飛び交う、顎に手をやり考える聡太を見てエリーズが言う。


「何も心配いらないさ少年、私も一緒に行くからね」


「そんな冗談はもういいよ」


「冗談ではない少年、私も呼ばれているんだよ。風魔委員長にね」


聡太がエリーズが風魔委員長の怜に呼ばれる理由を聞こうとしたときタイミングよく授業開始の鐘が鳴り校内に響きわたる。


「おっと、もうこんな時間か、では少年放課後に風魔委員会に行こうじゃないか。少年も早く席に着いて授業の準備をするといい」


エリーズはそう言うとその場を後にした。日が水平線上に沈みかけ、辺りを茜色が覆う。そんな幻想的な景色を後ろに聡太とエリーズは風魔委員長の玲と面談していた。


「初めまして私は玲、風魔委員会の長を務めています。以後お見知りおきを、と言っても君は初めてじゃないね一ノ瀬聡太君」


高級感あふれる椅子に座って玲は挨拶をしてくる。以前出会った時は、冷淡なイメージだったが、今は優雅で落ち着きのある雰囲気をしていた。そしてその左右にはミヤビと玄が静かに立ち尽くし聡太たちを見ていた。


「始めまして僕は魔具科の一ノ瀬聡太です。よろしくお願いします」


「同じく魔具科のエリーズです。よろしくお願いします。」


2人の挨拶が終わると同時に玲が口を開く。


「すまない入学してから色々と忙しい時に呼び出してしまって」


「いえいえ私たちが何か役に立つなら喜んで協力をしますよ」


「そうか、ありがとう。では本題に入る」


そう言うと玲は机をトントンっと指で2回叩くと周りのカーテンがひとりでに閉まり部屋が暗くなる。玲の背後にとある映像が流れる。


「これは映像は魔法科に所属しているカルテ・ミカエ女生徒の映像だ」


「この人は確か?!」


「そうだ一ノ瀬生徒」


「先日、一ノ瀬生徒と関わった女生徒だ」


「そしてこれを見てくれ」


突如、映像に写っていたカルテ・ミカエが消える。そしてそれを追う様にエリーズが映像に写った。再び玲が机を指で叩く、映像は消えカーテンがまたひとりでに開く。


「では、この時の状況を教えてくれエリーズ女生徒」


「はい、私は放課後帰ろうとした時に彼女の姿を見かけて、一緒に帰ろうと思って近寄ったら突然...消えました」


「そう消える、現象は今回が初めてでは無い。ここ一ヶ月前から始っていて、目撃事例もエリーズ女生徒のが初めてだ。そして今現在、確認できるだけで二十四名の生徒が行方不明だ」


「魔法警備隊の方に連絡は?」


「してない、この事件は学園内だけで解決せよと学園長からのお達しが来ている。そしてこの事情を知っているのは、生徒会と風魔委員会と君達だけだ。そこで私から一つ提案がある」


すると玲はミヤビと玄にある物持ってこさし聡太とエリーズに渡す。


「すみません、これは?」


聡太が玲に聞く。


「それは高純度の魔石に追跡魔法を施した魔具だ」


「なるほどなるほど、私達は囮ですか」


「すまない、犯人の情報が分かっていたらもっと、真っ当な作戦ができるのだが、今はこんな簡単な事しかできない」


玲は少し沈んだ表情で聡太たちに謝り言う。


「では玄、作戦の説明を頼んだぞ。私は生徒会長に進捗状況の報告に行く」


玲は席を立ち魔法を使って瞬時に聡太とエリーズの前から姿を消した。玲いなくなり沈黙の空気が流れる。その空気を破って玄が口を開く。


「先程の長い説明お疲れ様でした。ここからは会長補佐の私が説明します。ミヤビ、机と椅子を用意してくれ」


「了解、玄ちん」


ミヤビはポッケトから小さな豆を三つ取り出し部屋の中央に投げる。


「これは創造豆、魔力を通すことで自分が思い描く物に変化する豆」


豆が床へ落下し二回跳ねてその姿を机と椅子に変える。


「さぁ座って」


聡太とエリーズは用意された椅子に座ると玄から説明受ける。


「ではまずこの事件が起こった時期と状況から話そう。時期は君たちが入学してくる以前から起きていたと推測される。我々が気づいたのは君たちが入学してすぐの時。そう、君が彼女を助けた時だよ一ノ瀬生徒。逃げた二人を捕獲し情報を聞き出した」


「あの時、武器を持って襲ってきた奴らは一体何ですか?」


「分からない。だが、全てが分からないわけではない」


玄は胸元のポケットから紫色に輝く宝石を出し机の上に置く。


「綺麗な宝石だな。この宝石は一体?」


「これはの欠片だ」


「魔宝石の欠片?」


聡太は机に置かれた魔宝石を手に取ろうとした瞬間、聡太の指先と魔宝石の間に魔力が走る。聡太は驚き手を引く。


「...何だ今の感覚は?」


聡太は違和感が残る。手を握り締め、再び魔宝石に触れる。刹那、聡太の身体に膨大な魔力が流れ込んで来る。


「な、何だ?勝手に魔力が流れ込んでくるぞ」


驚く聡太に玄が魔宝石を手に取り見つめる。


「そう、それが魔宝石。その宝石はあらゆる物に魔力を流し込む。生命、物質、時には次元にさえも魔力を与える。言わばそれは超強力な魔力結晶体だ」


「凄いな、これがあれば誰でも簡単に魔法を使える」


「そこが厄介なんだよ少年」


聡太は背後から話しかけてくるエリーズの方を向く。


「誰でも簡単に魔法が使える、ここがいけない。そもそも魔法とは魔術から派生してできたものだ。魔法は魔術と違って手間が少ない、魔法陣を描いたり、術式を発動させる道具も必要ない。魔法に必要なものと言えば――」


魔力原子マナか...」


「ご名答、魔法の発動には術者の体内に魔力原子マナが必要不可欠。だがそんな悩みを全て解決してくれる奇跡の石がその魔宝石だよ。だけどそんな魔宝石でもデメリットはある何だと思う?少年」


聡太は顎に手をやり少し考え応える。


「──そうか、容量か」


「またまたご名答、そう魔宝石は無尽蔵ともいえる魔力を持っている。その莫大な魔力がかりにも生物に流れ込んだとすれば...少年はもう知っているだろう?」


聡太は自分達に襲い掛かってきた男を思い出す。鋭い爪、爬虫類に似た双眸、巨人様に大きい背丈。その異様な化物を聡太は思い出していた。


「その魔宝石の欠片は君が以前、接触した者から回収した物だ。欠片でも人体に多大な影響を与える、そんな物が学園に出回っていたら学園の存亡に関わる。そこで今回の作戦は先程エリーズ女子言った囮作戦だ。作戦開始時は明後日の夜、心苦しいが拒否権はない。いいかな二人とも?」


「待ってくださいそれはどう言う──」


「わかりました」


聡太が聞く理由を聞く前にエリーズが即答し席を立つ、そしてエリーズは座っている聡太の腕を掴み引っ張りながら二人は部屋を後にした。


「おいエリーズ、待てよエリーズ」


日が沈み辺りは暗闇が落ち少ない街灯の光だけが道を照らすなか聡太は無理にエリーズの手を引き離す。


「どうした少年?こんな美少女が腕を引いて一緒に歩いているというのに何故引き止める?はっ?!、もしや少年女より男の方に興味があるとか?」


「違う、そうじゃなくて何でさっきの事だ、何であんな簡単に了承したんだよ?」


「嘘に決まっているじゃないか少年」


「は?」


聡太はエリーズの言葉に唖然としていた。


「当たり前じゃなか少年、あんな訳も分からない事件の捜索を手伝えだとが正気の沙汰じゃ無い。嘘も方便だよ少年」


「エリーズ、そうゆう事は先に言ってくれ」


「あははは、すまないね少年。でも風魔委員の二人には何か少し違和感を感じたんだよね」


「違和感?」


「少年はここ最近の多発して起きている誘拐事件を知っているかい?」


「知っているけど、それがどうした?」


「あくまで私の考察だけどもしか───」


刹那、エリーズは黒い何かに丸呑みにされる。


「エリーズ!!どこいった?!返事をしろエリーズ!くっそ、シア!」


「はいマスター」


シアが光学迷彩魔術を解き訓練用の装備で現れる。


「シア!、エリーズ探せ!」


「了解、魔力探知魔術を起動します。――探知不可、エリーズ様の魔力は探知できません。推測、エリーズ様は強力な結界内に囚われているか、魔力探知範囲外にいるものと思われます」


「くっそ!、シア周囲を警戒」


「了解」


緊張が走り聡太の呼吸が荒くなり額から汗が滴り顔の横を通り、顎で落ちる。瞬間、聡太の右側面から再び黒い何かが襲い掛かる。シアが聡太の前にでて黒い何かを拳で殴り応戦する。シアに吹き飛ばされた黒い何かは街灯の光に照らされ姿を表した。


「何だあれは犬か?、いや魚、いや鳥か?」


黒い何かは街灯の下でぐにゃぐにゃと形を変える。まるで何か苦しんでいる様にも見える。


「シアあれは何だ?」


「はい分析はすでに完了しています、あれは特定の形を持たない使い魔だと推測します」


「使い魔か...となると近くに使役者がいるはずだ、シアそいつを探せ!」


「了解、魔力探知魔術を起動、──使役者と思われる者を発見、距離後方二百メートル」


「分かった、いくぞシア!」


「了解マスター」


聡太はシアと共に暗闇の中を走り出した。同時に街灯の下でもがき苦しんでいた使い魔が聡太達の後を追う。


「距離、百、七十、五十、マスター後方から先程の使い魔が接近、私が対処するので使役者の方を」


「ああ、まかせろ!」


シアは立ち止まり使い魔と交戦に入る。聡太は後ろを振り返る事なく走る、すると目の前に下に通ずる階段が現れその下に人影を見た聡太はスピード上げ一気に階段をジャンプし人影の前に着地する。


「止まれ!これ以上は...もう...」


聡太は人影の人物を見て驚く、なぜならそこにはジャージ姿で汗を流すパトリシアが居たからだ。


「きゃ?!、一ノ瀬君、どうしたの急に?」


「パトリシアが使役者?」


「使役者?、いったい何の事?、それより今日の練習をサボるなんていい度胸ね一ノ瀬君」


「いやサボっていた訳じゃ」


困惑する聡太は辺りを見直す、するとお遠くに人影が見え聡太は追う刹那、聡太とパトリシアの足元に黒い影が出現し二人を飲み込む。


「マスター!」


それに気づいたシアも使い魔を跳ね除け黒い影の中に飛び込んだ──────


「んっ」


「マスターおはようございます」


聡太が目覚めるとシアが覗き込む様にこちらを見ていた。聡太はシアに膝枕をされている現状を自覚すると飛び起き頬を少し頬を赤らめる。


「マスターあれを見て下さい」


「んっどうしたんだシア?」


そこには遺跡があった大きく広い遺蹟が、壁は苔色に染まり周りには木が生茂っていた。


「シア、ここはもしかして」


「はいマスターの想像道理ここは―――ダンジョンです―――」

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