料理!

『第1回 光龍大社料理大会』。しいかの声が響き渡り、実況席はさながら絶叫席となっていた。


「さぁ、いよいよ料理のスタートです!」

「楽しみしかありませんねっ!」


 序盤、順調に作業を進めたのは飛鳥だった。トントントンッという小気味良い音を響かせ、野菜を切り分けた。


「実況席。飛鳥選手が手にしている野菜ですが、じゃがいもです」

「飛鳥が奏でるミュージックは、トントントンッ、トントントンッだーっ!」

「4ビート、ですね!」


 太一は、普段は料理をするところを見ない。食べる専門だ。だが、太一はこのときはじめて料理をしてみたいと思った。3人が頑張っている姿を見たからだ。だが、この日の台所は、台所ではない。キッチンコロシアムだ。だから太一といえども、1歩も足を踏み入れることができない。


「実況席。キュア選手、1つ目のスペシャル食材です」


 優姫が割って入った。


「おっとー! まことさん、あれは?」

「白ワインです」

「実況席。キュア選手の白ワインですが、ボルドー産です」

「高・級・食・材! 早くも登場でーす!」

「キュアの予算は1皿換算62万円。マスターの年収を遥かに超えてます!」


(よっ、余計なお世話だよっ!)


 太一は、直ぐ横にいるまことに引き攣った笑顔を向けた。

 料理はどんどん進んだ。既に3人とも下拵えを終えていた。


「実況席。奈江選手もスペシャル食材投入です!」

「おっとー! 何でしょうか? あまり見かけないお肉ですね」

「恐らく兎の肉でしょう!」


(う、うさぎ……マジか……。)


 太一は優姫のバニー姿を回想しながら、うさぎが料理されていくのを見守った。そして勝手に柔らかい食感を想像した。


「奈江選手のチョイスには、インド、タージマハル廟の職員もビックリだー!」

「恐らく、インド人でしょう!」


 レポートは矢継ぎ早だった。


「実況席。キュア選手、2つ目のスペシャル食材、高級和牛です!」

「タージーマー! キュア選手も空かさず対抗策を打ってきたーっ!」


 さらに。


「実況席。飛鳥選手にも動きがありそうです……。」

「おや? 手元の資料では飛鳥選手はスペシャル食材なしとなってますが……。」

「1皿200円を切っているという噂です」

「では一体、どんな動きがあったんでしょうか。レポートを待ちましょーうっ!」


 太一は、予定調和の演出にまんまと嵌り、身を乗り出してモニターを見つめた。

 しいかが実況で盛り上げるなか、飛鳥は近所のスーパーで買った肉をパックから取り出した。パックには『スーパー田嶋 元気に半額セール!』のシールが付いていた。


「実況席。飛鳥選手、スーパーの豚肉を炒めています!」

「タージーマー! 飛鳥選手にはスーパーの食材がありました。しかも豚肉!」

「ブタではなく、トンッですね!」


 上手いことを言ったと、勝手に盛り上がるしいかとまこと。その後、対決は膠着状態となり、既に数分が経過した。


「実況席。ルゥです。飛鳥選手、さらに続けて市販のルゥを投入しました」

「何とー! 伝家の宝刀! 市販のルゥ、早くも登場です!」

「りんごとメープルシロップで有名な、バーリントンでしょうか」

「実況席。まことさんの仰る通りです」

「バー・リン・トン!」


 しいかはなんでも上手に盛り上げた。

 そのあとは、キュアがデミグラスソース、奈江が27種類のスパイスを投入するところがレポートされた。そして、奈江が料理を終えると、直ぐにキュアも完成を知らせた。最後に時間を一杯に使った飛鳥が盛り付けたときには、カレーの香りがキッチンコロシアムから漏れ、太一の鼻を優しく撫でていた。


「終ー了ー!」


 キャサリンが、料理時間の終了を伝えた。

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