第2話 友達



僕が色々な才能を身につけるために必要だと思っているのは反復練習である。練習をぶっ飛ばせる天才いるが、僕は秀才タイプだ。生まれつき頭の回転は早く、運動でも勉強でも理論は理解できる、しかし天才ではない僕は体がついていかないため、反復練習は必須なのだ。


さて、想像して欲しい。小学校、中学校、共に、友達と友達といった友達もいない状況で、最低限のコミュニケーションしかとらなかった人間が高校に入り、友達を作れるのか。


答えは否である。





カリカリカリとシャーペンと紙の擦れる音が教室を包んでいる。今は国語の小テスト中である。言い忘れてたかもしれないが僕は割と頭がいい。小テストくらいはすぐに終わして、朝の会話の反省をする。


「ねぇ」


隣の席から小声で声をかけられ、目線をやると、ふわふわのミルクティーアッシュの髪をハーフアップにし、クリッとした目と薄いピンク色の唇が特徴の女子。桐崎きりさき 唯衣ゆいが顔の前で手を合わせていた。


僕は1度深呼吸をして心を落ち着かせてから


「ど、どうしたの?」


と小声で聞いた。

どうだ変じゃなかったか?大丈夫か。不安だ。


「消しゴムわすれちゃってさ。貸してくれない?」


こちらの気合いを知る由もない桐崎さんは軽い感じで聞いてきた。5つほど予想していた内容のうち1番対応しやすいものだったのは安心した。すぐさま僕は予備の消しゴムを差し出す。


「はい、これ予備のだから今日1日使っていいよ。」


よしよしよし。これなら問題ないだろう。特に噛まなかったはずだ。


「いいの?ありがとう」


桐崎さんはニコッと微笑み消しゴムを受け取った。僕にしてはスムーズに話せたことに一安心してスっと会釈し会話を終わらそうとする。


「ねぇ」


再び桐崎さん声を掛けてきた。予想外だった。しかしこれはチャンスだと思った。クラスメイトから話しかけられることはなかなかない。ここはアドリブで対応し経験値にすべきた。


「な、なにかな?」


「神谷くんって友達いないの?」


「と、友達ねぇ?」


「うん。クラスで友達と喋ってるの見ないけど入学式からの波に乗り遅れちゃった感じ?」


「えっと、んーそうだね。勉強ばっかしてたら友達の作り方忘れちゃったみたい」


「ふふ、なにそれ?ガリ勉キャラなの?」


桐崎さんは静かに微笑んだ。

その笑顔は僕ってコミュ力高いんじゃね?と勘違いさせるほど魅力的だった。


「かわい」


「え?」


「え?あっとち、ちがくて!いや、違うくもないけどその…」


つい思ったことを口ずさんでしまった。少し上手くいったからって調子にのった。桐崎さんは驚いた顔で、慌てる僕をみている。


「ふーん」


なにか意味ありげな笑みを浮かべている桐崎さん。急に喋ったこともない男子から可愛い発言が飛び出ればそりゃ引くに違いない。なんとかして誤解を解かねば。


「だからその」


「うんん、気にしてないよ。ありがとう」


「え?あっうん。えっと、なら、よかった。」


桐崎 唯衣さんは心が広いらしい。危うくチャラ男認定されるところだった。


「ねぇ。私が友達になってあげようか」


「……え、いいの」


「消しゴム貸してもらったし、友達いないと何かと不便でしょ。異性だし少し話しにくいかもだけど私で良け…


「ぜひ!お願いいたします!」


僕は食い気味に返事をした。少し声のボリュームが大きくなってしまったが、国語の担当教員は急用ができたらしくタイマーだけ置いて教室から出て言ってしまった。話に夢中で気づかなかったがクラスはガヤガヤ喋り声が聞こえ、授業中とは思えない様子だった。


「これからよろしくね」


「よ、よろしく」


思いもよらないタイミングで念願の友達が出来て僕は今日1日ずっと上機嫌であった。

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