第54話 白川 瞳の独白

私は白川瞳です。

先ほど、施設内で輝君と海原さんの決着が着きました。

結果は輝君の圧勝。私達でもわかるくらい圧倒的な勝利で幕を閉じました。

…しかし、新しい問題ができてしまいました…。

「こ、こわい…。」

「あんなに怒っている新条さん、初めて見た…。」

「みんな!新条さんは私たちのために戦ってくれたのだから、怖がったりしちゃだめ。

 東京事変の時だって、助けてもらったんだから。」

キャプテンの東雲さんが他のメンバーをいさめています。

太陽坂のメンバーは総勢10人。

一期生8人と、二期生2人で構成されています。

二期生が二人だけなのは、本来太陽坂に二期生募集は行われていなかったからです。

なのに、私と凛ちゃんが入っているのには理由があります。


私は元々、田舎育ちでした。

田舎といっても、私にとってはとても大好きな場所で、未だに時々恋しくなります。

…そんなことは置いておいて、私の実家は、今では珍しい養蚕農家だったのです。

しかし…魔法の出現によって、つまりは魔法繊維の登場によって、実家は没落してしまいました…。

魔法繊維とは、伸縮自在で、魔力を原料として織りだされる特殊な糸のことです。

魔法繊維の厄介なところは、綿糸や生糸、ポリエステルなどの良いところを集めたような性質をしているところです。

もちろん淘汰されたのは養蚕農家だけではなく、綿花栽培農家などがあります。

魔法によって職が増えた側面もありますが、一定数淘汰されたものもあるということです…。

私達には抵抗する術がありませんでした。ですが、政府も何もしていないわけではなく、私たちに魔法繊維の作り方を教えてくれるよう、役人さんを派遣してきてくれました。

これで、なんとか一命をとりとめたのですが、魔法繊維業には重大な難点がりました。

それは、魔力量によって稼ぎが変わってしまうということです。

生憎、私を含めた家族全員には魔法の才能はありませんでした。

ですが、政府が策を打ち出してくれているということもあって農家の多くは反対の声を挙げる正当性を得ることができず、私のように都会に働きにでて、実家を支えるという選択肢しかありませんでした。

そうやって田舎から東京に出てきた私でしたが、運の良いことに、そこでスカウトされました。勿論太陽坂に、です。

凛ちゃんも、職は違えど魔法の出現による影響で出稼ぎにでてきたうちの一人です。

特別枠、ということで私たちは入れさせてもらうこととなりました。

でも先輩方はとても優しくて、後輩である私たちのことをいつも気遣ってくれます。

実家のためにも、自分のためにも、先輩や友達のためにも日々精進していますが、私には女の子にとって一番大切な…、恋愛経験が初恋しかりません。


相手は…輝君です。幼少期だったのですが、一緒に遊んだのを覚えています。

夏の間の、いわゆる一夏の思い出というものでしょうかね…。

両親とともに実家の近くの旅館に1ヶ月泊まっていた輝君と、私は毎日のように遊びました。

たった1ヶ月でしたが、私にとっては掛け替えのない時間でした。

今でも、私の数歩先にいて、手を差し伸べてくれた輝君の姿を思い出します。

…その分、輝君がわたしに気づいてくれなかったときはショックでしたけどね…。


だから、輝君が怖くないっていうのを伝えるのは私の役目です。

「そうです!輝君は怖くなんかありません!優しくて、強くて、かっこよくて、どこか遠くに行ってしまうような儚さのある…凄い人なんです!!」

思わず私は叫んでしまいました。

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